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ダルビッシュ投手(とメジャーリーガー)が試合中にツイートしないのは、なぜか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

カブスからパドレスにトレードで移籍したダルビッシュ投手はツイート、ユーチューブなどで自らの言葉を発信し、ファンと双方向の交流をしている。

 相手打線を翻ろうして、封じ込める好投を続ける一方で、SNSや動画、ゲームの操作にも長けている。だからだろうか、イニング間にもツイートしているかのように受け取れる「ネタ」の映像が流れたという。

 この「ネタ」について、ダルビッシュはツイッターで「イニング間にツイートするのはMLBではアウトなのでしたことないんですけど」と述べている 。

 試合中にSNSに投稿するのは、スポーツ選手としていかがなものか、という勤務態度だけの話ではない。

 ダルビッシュの言うように、メジャーリーグ機構では、ユニホーム着用の選手、コーチらとスタッフに、試合開始30分前から試合終了までクラブハウスやベンチ内でのいかなる電子通信機器の使用も禁じている。電話、スマートフォン、タブレットなど、情報を送受信できる機能のある電子機器は使用してはいけないのだ。

 電子機器を使った試合中の映像や情報の送受信は、MLBのルール違反である機器を使ったサイン盗みにつながる。記憶に新しいところでは、2017年に、アストロズがセンター後方からのカメラで相手バッテリーのサインを撮影して、ベンチ裏のモニターでサインを解読し、そして、ダグアウトにあるゴミ箱を叩いて打者に球種を教えていたというものだ。また、レッドソックスはビデオ解析スタッフからの情報をアップルウォッチで受信し、違法なサイン盗みをした。

 メジャーリーグの中継を見ていると、ベンチ内に電子端末が置いてあり、選手らがそれを使っている姿が映し出されることがある。試合中の電子端末機器の使用は許されているのではないか、と疑問を持つかもしれない。

 ベンチで使用している電子端末には、スカウティングレポートのようなデータが保存されているが、いったん試合が始まると内容をアップデートしてはいけないという規則がある。つまり、試合前までに収集したデータは使えるが、現在進行中の試合の情報を収集して、すぐさまベンチ内の電子端末に送信し、利用することはできない。

 ビデオ判定導入後には「チャレンジ」をするかどうかを、コーチが、ビデオ映像の分析担当者に確認するようになったが、この電話もルールの範囲内で使用されているかメジャーリーグ機構にモニターされている。

 テクノロジーの発展によって、さまざまなことが可能になった。これらを悪用してのサイン盗みを防止するために、情報を送受信できる機器の使用は禁じられている。ただし、このような機器を使用せず、選手やコーチの観察眼によって相手のサインを読むことはルールの範囲内だ。

 それに、試合中に外部と情報をやりとりすることは、八百長問題につながるリスクがないとは言い切れない。李下に冠を正さずの故事成語のとおりである。

 メジャー屈指の好投手であり、なおかつSNSの操作にも長けたダルビッシュを称賛しようとして、イニング中にもツイートをしているかのような表現をしたのだろう。

 けれども、その「ネタ」は笑い話ではすまされず、競技の公平性を揺るがせ、スポーツの重要で、深刻な問題につながってしまうかもしれないのだ。

※電子通信機器の使用規則のほかに、メジャーリーグ機構にはSNS投稿についてのルールもある。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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