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コロラドの「ダークナイト」乱射事件、映画館に責任はないと民事判決

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジェームズ・ホームズ被告(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2012年7月20日、「ダークナイト ライジング」を上映する映画館で起こった乱射事件に関して、映画館側に責任はないという民事判決が、アメリカ時間19日(木、)コロラド州で下された。

被告は、全米で3番目の規模を誇る映画館チェーン、シネマーク。原告は、事件の被害者と遺族28人。事件は、「ダークナイト ライジング」の北米公開初日の深夜、コロラド州オーロラでシネマークが経営するシネコンで起きたもの。当時24歳のジェームズ・ホームズは、上映中のシアターに入り、催涙ガスを投げつけた上で、逃げようとする観客を銃撃し、死者12人、負傷者70人を出した。ホームズはまもなく逮捕され、昨年8月、終身刑に加えて3,318年の服役の判決を受けている。

シネマークに対するこの民事訴訟は、事件からまもない2012年9月に起こされた。ホームズが鍵のかかっていない映画館のドアを使って武器を持ち込んだこと、彼のあやしい行動を妨げる警備員も従業員が配置されていなかったこと、警報アラームもなかったことなどを、訴状は指摘。シネマーク側は、映画館での乱射事件が起きたことはそれまでなく、この事態を予測することは不可能だったと反論、何度も棄却を試みたがかなわず、6人の陪審員による裁判となった。

裁判の開始において、被害者側の弁護士は「この事件を防ぐために、劇場側がやっておけることは、いくつもあった。もしそれがなされていたら、今、私たちはここにいないはずだ」と発言。一方でシネマーク側の弁護士は、事前に時間をかけて準備をし、大量の武器を買い込んで、できるだけ多くの人を殺そうという確固たる意図をもってやってきたホームズを止めることは不可能だったとし、「この悲劇は、シネマークのせいで起きたものではない」と主張した。

原告側は、このシネコンの警備も務めるオーロラ警察の女性警官を法廷に呼び出し、金、土、日には劇場前や駐車場を監視するものの、この事件が起こったような木曜の夜に仕事をすることはないと証言させた。しかし、この女性警官は、この劇場が通常は安全なところで、普段は「何も起こらない」とも答えている。シネマーク側は、犯罪学者、精神科医、安全管理の専門家などに証言をさせた。シネマークの弁護士は、専門家の統計を持ち出し、乱射事件で死ぬ確率は1,000万にひとつくらいで、非常に低いとも強調している。

およそ1週間の裁判の結果、陪審員は全員一致で、シネマークに責任はなかったという判決に達した。もしシネマークが敗訴した場合、全米の映画館で、厳重かつ高額な安全管理が強いられることになるだろうと考えられていた。原告側の弁護士は、上訴するかまえ。また、別の被害者グループは、連邦裁判所で訴訟を起こしており、シネマークは完全に解放されてはいない。

予想もできなかったこの悲劇が起きた後、「ダークナイト ライジング」を製作配給するワーナー・ブラザースは、その後に予定されていたフランス、メキシコ、日本でのプレミアをキャンセルしている。興行成績の発表もしばらく控え、テレビスポットもストップした。事件の4日後、主演のクリスチャン・ベールは個人的にコロラドを訪れ、同作品のサウンドトラックを担当したハンス・ジマーは、「オーロラ」と題する歌を作曲し、売り上げを被害者に寄付している。ワーナーはまた、映画館での銃撃シーンがある「L.A.ギャング ストーリー」のトレーラーの上映を打ち止め、そのシーンを撮り直すために、公開日を4ヶ月後ろにずらした。新しいシーンの舞台は、映画館でなく、チャイナタウンになっている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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