Yahoo!ニュース

明日、EURO2016が開幕!王者スペインの三連覇はなるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
ゴールを決めたノリートにダビド ・シルバが抱擁(写真:ロイター/アフロ)

6月10日にフランスの首都パリで開幕するEURO2016。7月10日の決勝戦まで、1ヶ月に渡って国内各都市で熱い戦いが行われる。16チームから24チームでの開催になったことで、巨大化した大会がどのような結末を迎えるのか、注目される。

では、どこの国が大会を制するのだろうか?

優勝候補筆頭は、前人未到の連覇を成し遂げているスペインだろう。チェコ、トルコ、クロアチアと同じグループに入っているが、頭一つ抜けている。

「どの国に信用を与えるか、というなら、スペインだろう」(クロアチア、ラキティッチ)

戦力の充実は他の追随を許さないが、とりわけ中盤の陣容は壮観である。世界最高のフットボーラーであるアンドレス・イニエスタが君臨し、セルジ・ブスケッツ、ダビド・シルバは盤石。ブルーノ・ソリアーノ、コケ、チアゴとバックアップも問題ない。FW陣も、新エースと目されたジエゴ・コスタ、予選得点王のパコ・アルカセルがメンバーには入らないほど。左FWで起用される可能性が高いノリートには、台頭の予感が漂う。

「ノリートには期待しているよ。彼は僕よりもサイドでプレーするタイプだが、ゴールに向かう直線的動きにも優れる。大会のキーマンの一人だろう」

EURO2連覇の立役者、ダビド・ビジャも称賛しているように、ノリートは左サイドの“隠れ9番”としてチームをけん引する役割を担う。バルサ下部組織で育っている彼は、イニエスタ、ジョルディ・アルバらバルサ組との連係にも一日の長がある。代表キャップは少ないが、コンビネーションの問題はない。

ブラジルW杯で惨敗後、シャビ・アロンソ、シャビ・エルナンデスが代表引退を表明。チームは若返った。

「今やスペイン時代だろう。育成もいい仕事をしており、若い選手も次に控えている」(元イタリア代表・クリスティアン・ビエリ)

その言葉通り、コケ、チアゴ、アルバロ・モラタ、ダビド・デヘアら若手は主役の座を奪う勢いがある。

しかしながら、スペインはEURO直前のテストマッチでジョージアに0ー1で敗れる失態を犯したように、完璧ということはありえない。このゲームでは、「矛盾の苦味」が出た。スペインはポゼッションからの速いボール回しによって、相手を敵陣に押し込むプレーに特長があるが、それは諸刃の剣でもあるのだ。

ジョージア戦は前半、右サイドにはレアル・マドリーで切り札となったルーカス・バスケスが抜擢された。彼自身は質の高いクロスを供給するなど仕事を果たしたものの、高速パスにはブレーキをかけていた。これはブラジルワールドカップで抜擢されたジエゴ・コスタにも起こった問題だが、縦に速い攻撃やドリブルで持ち込むのが得意な選手は、高速パスに馴染まないのだ。

もう1つ、パスを回すために人数をかけることで、守備が手薄になる劣勢も出てしまう。ジョージア戦は左サイドでジョルディ・アルバがパスをミスし、相手に奪われると、一気に数的不利でカウンターを決められた。高い位置で攻め続けながらゴールを取りきれないと、カウンターを浴びて沈む。ブラジルW杯のオランダ戦のような展開になりかねない。

ビセンテ・デル・ボスケ監督は生々しく残る悪夢を回避するために、勝負強さを念頭に入れたメンバー選出をしている。所属クラブで結果を残した選手を、スタイルや年齢に関係なく招集。今シーズン、リーガでスペイン人得点王になったとはいえ、35歳で代表歴も片手で数えるほどしかなかったアリツ・アドゥリスを入れた。

正しい評価、競争によって、チーム力を高めている。デルボスケのそうした姿勢があるからこそ、若いデヘアが守護神カシージャスからポジションを奪い取っても混乱は起きない。内部での競争が、外敵との戦いではアドバンテージとなる。

「優勝の可能性があるのは、スペイン、フランス、ドイツ。スペインはここ最近強さを積み上げてきた。ブラジルワールドカップで優勝したドイツも同じ。フランスは開催国の利点があり、若手も伸びている」(スウェーデン、イブラヒモビッチ)

誰に聞いても、優勝候補を3つ聞いたら、必ずスペインの名前が挙がるだろう。クラブレベルでも、スペイン時代は続いている。チャンピオンズリーグ決勝は一昨シーズンに続いてスペイン勢同士だったし、ヨーロッパリーグではセビージャが3連覇を果たし、破竹の勢いがある。

しかし、ジョージア戦のように一発でノックアウトされることもありうる。

もしそうなった場合、それは王者の奢りと括られるのだろうか。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事