日テレ・東京ヴェルディベレーザは再び黄金のサイクルを作れるか。機動力溢れるサッカーでWEリーグに挑む
【新体制で始動した2021シーズン】
昨季は、日テレ・東京ヴェルディベレーザにとって厳しいシーズンだった。シーズン中にケガ人が続出し、リーグ戦は浦和レッズレディース、INAC神戸レオネッサに次ぐ3位で、連覇は「5」でストップした。その中でも若手選手が経験を積み、皇后杯では攻撃的なサッカーで4年連続のタイトルを掲げた。
そして、今年は9月に開幕する「WEリーグ」(女子プロサッカーリーグ)に参戦する。
初年度に参戦する11チーム中でも、ベレーザは創設が1981年と、紡いできた歴史が特に長く、獲得したタイトル数は最多の「51」に上る。過去にはリーグ3連覇(2000〜02年)、2度の4連覇(1990〜93年/2005〜08年)、5連覇(2015〜19年)を達成するなど、複数の黄金期を経験してきた。
昨季までチームを率いた永田雅人監督はA級ライセンスのため、WEリーグのライセンス規定(S級か同相当)では指揮が執れない。そのため、今季はヘッドコーチになり、竹本一彦GMが新監督に就任。竹本監督は、1986年からベレーザで11年間監督を務め、Jリーグの監督やコーチ、GMなどを歴任してきた。竹本監督がチーム全体をマネジメントし、ピッチ上ではこれまで通り、永田ヘッドコーチが指揮を執ることが多くなるという。メンバー決定などは、二人三脚で進めていくようだ。
春秋制のなでしこリーグと違い、WEリーグは9月から5月にかけての秋春制で実施される。そのため、WEリーグに参加する11チームは、移行期となる今年は、9月の開幕までチーム作りに時間をかけることができる。
今季の始動日は11チーム中、最も早い2月2日だった。竹本監督はその理由について、「休みでも選手たちは練習に来ますし、早めに練習をできるようにして、コンディションを整えて、リハビリが必要な選手は回復してもらう。それと、代表選手は1月末から合宿が予定されていたので、実際にはコロナ禍で中止になりましたけれど、それに備えてトレーニングする必要があったからです」と語っている。
7月に予定されている五輪までは代表活動が多く、候補選手が多いベレーザにとってコンディション管理は難しくなる。
WEリーグでは15名以上の選手とプロ契約を結ぶという要件があるが、ベレーザは学生選手もいるため、プロ選手とアマチュア契約選手で構成される。練習はこれまで夜に行っていたが、現在は午後2時から行っており、その効果はすでに表れているという。
「2時に始めれば戸外は暖かいし、時間を有効に使ってサッカーに専念できているようです。『もう以前の時間には戻れません』という声もありました。試験がある大学生も含めて、全員が揃って練習できる午後に練習時間を設定していますが、理想としては午前にしたり、午前と午後の(二部)練習をしたいという気持ちもあります(竹本監督)
【怒涛のオフシーズンを経て】
WEリーグ発足は多くの選手にとってキャリアの分岐点にもなった。今季のオフは各チームの選手が大きく動き、ベレーザも例外ではなかった。
攻守の要として欠かせない存在だったMF長谷川唯がACミラン(イタリア)からのオファーを受けて挑戦を決断。同じく、長年チームを支えてきたMF阪口夢穂とDF有吉佐織の2人が大宮アルディージャVENTUSに移籍した。また、圧倒的な存在感でゴールを守ってきたGK山下杏也加がINAC神戸レオネッサへ。攻撃の一角を担ったFW宮澤ひなたと生え抜きのMF原衣吹がマイナビ仙台レディースに移籍し、皇后杯優勝に貢献したGK西村清花は引退を決めた。
長くプレーした主力がチームを離れた要因について、竹本監督は、こう明かしている。
「昨年12月に、各チームの選手へのオファーの動きがあったのですが、残念なことにヴェルディはクラブの経営問題があり、男女含めてクラブの今後がどうなるかという難しい時期で、(ベレーザは)いい条件を出してあげることもできない辛い状況でした」
慰留はしたが、最終的には、海外や新しい環境で挑戦したいという選手たちの希望を受け入れた形だ。一方で、主力が抜けた穴をマイナスと捉えるのではなく、これを機に新たなチームへと変化していきたいと考えている。
「ベレーザの選手たちは誰もが2つ、3つのポジションができるプレースタイルなので、流動的に動けるチームになるのではないかと思います。機動力に富んだ、攻守において主体的にプレーできるサッカーを、このメンバーでやっていこうと思います」
有吉と宮澤が抜けた左サイドには、セレッソ大阪堺レディースからDF北村菜々美を補強。GKには、大和シルフィード(なでしこリーグ1部)への期限付き移籍からGK田中桃子が3シーズンぶりに復帰した。そして、フィールドプレーヤーには、下部組織のメニーナからMF木下桃香、FW山本柚月、MF岩崎心南の3名が昇格。昨季、メニーナは関東女子サッカーリーグや全日本U-18女子サッカー選手権大会で優勝するなど、飛躍の年となった。皇后杯2回戦では、ベレーザとの“姉妹対決”も実現した(3-1でベレーザが勝利)。ベレーザはカップ戦でメニーナの選手を起用することもあり、共に練習をすることも多く、選手間の連係構築はスムーズに進むだろう。
【タイトル獲得に必要なもの】
今季、チームの平均年齢は21.8歳と、WEリーグ11チーム中最も若く、メニーナ出身者は19名中16名に上る。生え抜きの選手たちは呼吸が合わせやすく、流動性も生まれやすい。一方で、外から加入した選手たちがベレーザのサッカーに幅と奥行きをもたらし、アクセントを加えてきた。永田ヘッドコーチは、生え抜きではない選手たちの重要性について、こう語る。
「下部組織出身の選手だけで、『うまさ』を主張するとサッカーが小さくなりがちですし、特に突破や、得点力に関しては特別な能力が必要だと思っています。今季は外から来た選手の割合が減りましたが、(生え抜きではない)小林(里歌子)も、遠藤(純)も北村(菜々美)も、スコアメイクに関して非常に高い能力を持っていますし、サッカーを広げていくためにも、彼女たちと下から上がってきた選手たちとの融合が大事だと思っています」
今季、背番号「10」をつけるのは6年目の小林里歌子だ。小林は、下部組織出身者ではない選手として、このエースナンバーをつける初の選手となる。また、小林がつけていた「11」を4年目の遠藤純が引き継ぐ。そして、新加入の北村菜々美は、長谷川唯がつけていた「14」を引き継いだ。3人への期待値の高さが、背番号にも込められている。
今季のサッカーを表すキーワードになる「流動性」と「機動力」を向上させるために、永田ヘッドコーチが練習でどのようなアプローチを試みるのかは興味深い。個を成長させながらチームの戦い方の幅を広げ、3シーズンで8つのタイトルを獲得した。個々の選手の成長を導く手法は独特で、ブラジルなど、個人技に長けた南米の男子サッカーの映像を中心に、ポジションごとに必要なテクニックやスキルを編集して選手に提案する。試合ではチームや選手ごとにテーマを設定して、積極的なチャレンジを促す。
映像編集にかける時間は、毎日8時間近くになると聞いたことがあるが、練習では選手たちの自主練につき合い、最後にピッチを後にする姿を見かけたのも一度や二度ではない。
「一つひとつのプレーを磨き、繋げて進化させていくことがタイトルに近づく道だと思っています」
その思いが原動力になっているのだろう。新戦力のフィールドプレーヤーの印象を聞くと、熱のこもった答えが返ってきた。
「新戦力の北村は、複数のポジションができて、ベレーザが試合の中でシステムを使い分ける時も重要な役割を果たすと思いますし、本当に素晴らしい才能を感じています。山本(柚月)は、宮澤が抜けたサイドの突破のポイントを果たして欲しいですし、真ん中でも高い得点の嗅覚を持っていて、それを早い段階で発揮できる雰囲気があります。岩崎(心南)はボール奪取能力が高く、ボールに関わりながら、中盤で攻守両面を結びつける。ゴールするところまでその力を引き伸ばしていければ、さらに素晴らしい選手になるし、期待値も高いです。阪口、長谷川が抜けた大きな穴は、木下(桃香)が中心になって、複数年かけても埋めていけるような選手になってくれると期待しています」
今季はこれまで以上に長い時間、グラウンドに立ち、選手と向き合っていくつもりだという。若い選手たちにとって、成長のきっかけを掴む大きなチャンスでもあるだろう。
【母になり、WEリーガーとして切り拓く道】
新生ベレーザを牽引する存在として、岩清水梓の存在は鍵になる。岩清水は、昨年3月に出産し、WEリーグでは母としてピッチに復帰する。
出産前から現役復帰を公言していた岩清水は、産休を経て、年末には練習に参加していたという。瞬発力や筋持久力は戻すのに時間がかかると感じているそうだが、「一緒にやっていたメンバーも多いので、ここに立ってくれているだろうなとか、パスコースなどは割と見えています」と、感覚的には違和感なくプレーできていることも明かした。9月の開幕までに段階的にコンディションを上げていくことができれば、開幕スタメンに名を連ねる可能性は十分にあるだろう。
復帰がWEリーグ元年と重なり、このタイミングで、背番号を11年間慣れ親しんだ「22」から、3月3日に生まれた息子の誕生日に因んだ「33」に変更した。「自分の中で(出産前の)22番・岩清水に戻るより、再スタートという意味で新しい自分を作っていこうかなという思いが大きくなり、心機一転、新しい番号で新しいチャレンジをしようと思いました」と、その心境を明かしている。
岩清水はベレーザ昇格以来19年間、緑のユニフォームに誇りを持って戦ってきた。この間、ベレーザで「29」のタイトルに貢献し、18年には歴代最多となる13年連続13回目のベストイレブンを受賞している。もちろん、いい時ばかりではなく、チームが変化する節目にも立ち会ってきた。
「ベレーザは勝ち続けた時期もあれば、苦しんだ時期もあり、また勝てるようになって、と何回も生まれ変わってきました。今はまた、その節目のタイミングだと思います。そういうタイミングを私は経験してきました。(これから)辛いことや勝てない瞬間もあると思いますが、その時にチームがバラバラにならないようにするのが自分ができることです。去年はグラウンドに立てず、力になれなかったのですが、今年は辛い時は自分が支えてあげたいですね」
「苦しんだ時期」でも、ベレーザは常に優勝争いに絡んできた。その強さの根底に、厳しいポジション争いに裏打ちされた選手層の厚さがある。ピッチに立つためには、そうした競争の中で再び信頼を勝ち取らなければならない。
「単純なスピードでは若い選手の方が速いので、そこは、コーチングだったり予測だったり、違う部分で勝負して、若い選手たちが得意な部分を引き出しながら、自分は違ったやり方で戦っていきたいと思います」
アメリカでは出産後に現役復帰する選手も少なくないが、なでしこリーグでは、2012年に引退した宮本ともみさん(現JFAナショナルコーチングスタッフ)以来、出産を経て復帰した選手はいない。FIFA(国際サッカー連盟)は昨年12月から産休制度を本格的に導入することを決定しており、WEリーグでも、妊娠や出産のために活動を中断した選手が出産後に再開しやすくなる条項を取り入れている。
岩清水は子どもを持つWEリーガーとして、後進の選手たちを勇気づける存在になるだろう。
2015年から19年まで続いた黄金期が終わり、新たなサイクルをスタートさせたべレーザは、WEリーグ元年に、どんな歴史の一ページを刻むのだろうか。
新生・ベレーザは、4月末のプレシーズンマッチでお披露目となる。
※写真はすべて筆者撮影