難民に否定的なPRとメディア操作に長けた、ノルウェー移民大臣と進歩党の話術
難民に非魅力的な国としての国際PRに励むノルウェー政権に、「非人間的だ」と国内外から非難の声が高まっている。
難民申請者の波に対応するために新設された移民・社会統合省を率いるシルヴィ・リストハウグ大臣。入国や居住を難しくさせる対策担当としては適任だ。しかし、移民・難民を歓迎しない進歩党の政治家が、難民や移民が社会にいかに溶け込めるかという「社会統合」の最高責任者というのは、まるで風刺画のようだ。
難民申請者は黄金のイスでかついでもらえるような、楽な生活を期待してはいけない
この数週間、移民大臣はメディアを通じて、難民申請者、難民、移民がノルウェー社会にとって、将来どのような「脅威」になりうるかを強調してきた。
「ノルウェーの価値観を脅かす」、「怖い」、「私の子どもの将来が不安だ」、「難民申請者は黄金のイスでかついでもらえることを期待してはいけない」、「福祉国家の患者ではなく、納税者になってもらわなければ、ノルウェーの福祉社会は崩壊する」、「幸運を追い求める狩人」。
移民大臣への就任直前にも、難民申請者のために無償でボランティア活動をしようとする人々の善意と社会風潮を「善意の暴政」と非難し、支援活動に必死だった人々にショックを与えた。
難民が増加することで、混乱するであろう未来のノルウェー。そこで生きなければいけない「自分の子どもの将来が心配だ」と心配する移民大臣に対し、「こんなにも人に冷たい社会になってきている国で、生きなければいけない子どもの将来が心配だ」とメディアに寄稿して反論する一般市民もいる。
望んで難民になる人は数少ない。死の危険と隣り合わせだった戦地から必死に逃れてきた人々を、「幸運を追い求める狩人」や「国の脅威」と、政権に座る大臣が公に言い放つ現在の状況は、これまでのノルウェー政府の姿とは大きく異なる。
多すぎる難民の波は、国にとって「大きな課題となる」ことは、どこの政党でも以前からの共通認識であり、党の政策にも明記されている。だが、進歩党のような表現方法を好む政治家は稀だ。
驚くほどメディア利用に秀でた政党
進歩党と移民大臣ほど、話術に長け、メディアを上手く利用して、党の思想を国内に浸透させることに成功しているものはいないだろう。どういう言葉遣いが、記者が好んで見出しにするかを理解しており、そのマーケティング術は見事とともいえる。
オスロ大学メディア・コミュニケーション研究科のエーリ・スクーゲルブ教授は、政治報道研究の専門家だ。同教授は、進歩党は、この40年間以上、移民だけではなく、税金、労働など、さまざまな政策において、ノルウェー国内でメディアの注目を集めることに成功してきた政党だと取材で語る。
「私は進歩党の政治家を何人も取材してきました。彼らは報道されることが少なく、ネガティブな記事ばかりを書かれると主張するのが常です。しかし、我々の研究では、進歩党は選挙中は多くのメディアの注目を集め、討論にも招待されていました。かつての党首であったカール・I・ハーゲンほど、メディアの注目を集める技に秀でた政治家はいませんでした。進歩党は、記者やメディアの注目を非常に上手に利用する政党です」
卵を投げつけられるなど、多くの批判も受けていたが、それは現在に比べて、当時はその思想に同意する風潮がほとんどなかったからだと教授は語る。
「大臣の弁論術は国内に不安を広げている」と他政党や団体から非難されても、国連から厳しすぎる規制案だと注意勧告を受けても、気にしない。まるでゲームをしているかのようだ。移民大臣ほど、これほど精神的にタフな政治家も珍しい。
着実に党の移民政策と思想を、国政と世論に浸透させていく進歩党。外部からの非難を、どこ吹く風とさらりと聞き流す光景は、当分続きそうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi