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将棋界の「柱」が集う王将戦挑決リーグ終幕。豊島竜王、藤井二冠らの戦いぶりを振り返る

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 22日、第70期王将戦挑戦者決定リーグ最終一斉対局が行われ、リーグの全対局が終了した。

 渡辺明王将(36)への挑戦権は、豊島将之竜王(30)と永瀬拓矢王座(28)によるプレーオフで決まる。

 注目の羽生善治九段(50)は最終戦で豊島竜王との1敗対決に敗れて挑戦権獲得ならず。

 また、藤井聡太二冠(18)は木村一基九段(47)を下して通算3勝3敗としたが、リーグ残留は果たせなかった。

 将棋界のトップオブトップ、大人気アニメ『鬼滅の刃』でいうところの「柱」が集った今回の王将戦挑戦者決定リーグ(以下王将リーグと略)。

 プレーオフに残った2名、そして最後まで挑戦争いに絡んだ羽生九段と注目の藤井二冠の戦いぶりをここで振り返る。(見出しにおける()内はリーグの通算成績)

豊島将之竜王(5-1)

 初戦に勝ったあとの2回戦、藤井二冠との対局はファンの記憶に残る死闘になった。

 押され続けていた豊島竜王は懸命の粘りを見せるも、敗戦は目の前に迫っていた。しかも相手は藤井二冠だ。誰しもが勝負アリと思ったその時、藤井二冠にスキが生まれて豊島竜王は蘇った。そこからは難解な戦いが続くも、流れを取り戻してからの豊島竜王は強かった。

 さらに3回戦の広瀬章人八段(33)との対局でも豊島竜王は追い詰められた。

 不利な情勢から命からがら入玉を果たすも、持将棋に持ち込むには駒数が少ない状況だった。

 しかし執念で駒を取り返して持将棋に持ち込むと、指し直し局も終盤は明らかな負け筋もあったのだが辛くも逆転。

 薄氷を踏むリーグの序盤戦だった。

 6回戦の永瀬二冠との全勝対決では粘るも及ばず敗戦。挑戦へ向けて苦しい状況となった。

 最終7回戦の羽生九段との一戦は、押され気味だったが粘って逆転。優位を築いてからは素早い寄せで勝利し、最終戦で敗れた永瀬二冠と星が並んでプレーオフに持ち込んだ。

 リーグ戦全体を通して苦しい戦いを強いられた印象だが、中終盤での粘りで星を重ねていった辺りにここ最近の充実ぶりを感じさせられる。

永瀬拓矢王座(5-1)

 永瀬王座は1回戦と2回戦の間に王座防衛という大きなトピックがあった。

 久保利明九段(45)との五番勝負をフルセットの末に制したことで心技体が一層充実した印象だ。

 そして3回戦の藤井二冠との対戦では、王座戦の経験を生かして振り飛車を採用。終盤の逆転で見事に対藤井二冠戦初勝利をあげた。

 リーグでの永瀬王座は序盤戦術でリードを奪うことが多く、5回戦の羽生九段との全勝対決では序盤からリードを奪って完勝。

 6回戦の豊島竜王との全勝対決でも序盤で主導権を奪い、中盤での優位につなげた。

 安定した戦いぶりから、豊島竜王に勝った時はこのまま全勝で挑戦を決める勢いにみえたものだ。

 しかし最終7回戦の広瀬八段戦は序盤で主導権を奪ったものの、中盤の競り合いで粘りを欠いて敗勢に転落するらしくない内容で敗戦を喫した。

 1年ほど前であれば、序盤でリードするのが豊島竜王の持ち味であり、終盤の粘りが永瀬王座の代名詞だったのだが、あの第5期叡王戦七番勝負の激闘から二人の棋風が入れ替わってしまったかのようになっているのが面白い。

リーグ最終成績
リーグ最終成績

羽生善治九段(4-2)

 1回戦で藤井二冠に勝った将棋では、見事な終盤戦にファンが沸いた。

羽生善治九段、藤井聡太二冠を破って王将リーグ白星発進。勝負を分けた「歩の手筋」

 

 抜け番を挟んでの3回戦、佐藤天彦九段(32)戦では大苦戦を強いられ、一時は投了寸前まで追い込まれてからの逆転劇だった。

 終局前後の佐藤九段の悔しそうな様子がいまでも印象的だ。

 5回戦の永瀬二冠戦で初黒星を喫した後に思わぬ事態が起きる。

 病気入院で予定されていた第33期竜王戦七番勝負第4局が延期となり、この王将リーグも指し続けられるのか微妙な情勢となった。

 しかし無事に復帰を果たすと、6回戦の木村九段戦では病み上がりとは思えない戦いぶりで快勝し、挑戦争いに踏みとどまった。

 最終7回戦は豊島竜王に惜しくも敗れたものの、リーグ全体を通じて巧みな序盤戦術や終盤でのパワーで強さをみせた。

 豊島竜王に挑戦する第33期竜王戦七番勝負は第4局が26・27日に行われる。

 23日にはA級順位戦の対局も控えており、羽生九段のハードスケジュールは続く。

藤井聡太二冠(3-3)

 藤井二冠の開幕3連敗は大きな話題となった。負けて騒がれるのは、藤井二冠が超一流になった証といえよう。

 1回戦の羽生九段戦、2回戦の豊島竜王戦、3回戦の永瀬王座戦については前述の通りである。

 どの対局も終盤で競り負けており、桁違いの終盤力を誇る藤井二冠も無敵ではないのだ。

 リーグの前半で負けがこんだ藤井二冠だったが、ここから好局を重ねて3連勝したことは特筆に値する。

 特に5回戦の広瀬八段との戦いは今期リーグ戦でも有数の名局で、終盤戦での藤井二冠の指しまわしは名手広瀬八段を誤らせる迫力があった。

 今期は残念ながらリーグ陥落となり、来期は二次予選からの出場となる。ただ二次予選は2連勝すればリーグに入ることができる。

 次のリーグでの戦いぶりを楽しみにしたい。

プレーオフは30日に

 豊島竜王と永瀬王座のプレーオフは30日(月)に行われると発表された。

 第5期叡王戦七番勝負で第9局までもつれる死闘を演じた二人が、また大一番で対戦する。

 そして、なんとこの二人は明日(22日)も第41回日本シリーズ決勝戦で大一番を戦う。

 同じ者同士の対戦が続くのはトップ同士では避けられないとはいえ、これほど対戦が続くのもまた珍しい。

 渡辺王将と七番勝負を戦うのは豊島竜王か永瀬王座か。どちらが出てきても面白い七番勝負となるだろう。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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