全国旅行支援、旅行会社・宿泊施設は準備段階で既に悲鳴。2年前のGo Toトラベル以上に現場は混乱
約1週間後、3連休明けの10月11日(火)から開始されることになった「全国旅行支援」。日本時間9月22日の23時過ぎにニューヨークで行われた岸田文雄首相の記者会見で10月11日開始と発表され、詳細はシルバーウィーク3連休後の9月26日(月)に観光庁から発表された。ただ、旅行会社や宿泊施設の現場は混乱に陥っている。
東京都以外は10月11日、東京都は20日開始を目指している
現状では東京都以外は10月11日、東京都(東京都を目的地とする旅行)は10月20日の開始を目指す状況となっている。発表直後から旅行会社、旅行予約サイト、更にはホテル・旅館などの宿泊施設は、情報が錯綜し、混乱が起こっている。その理由の大きな理由は、事務局機能をはじめとする権限を都道府県に移行したことで、県によって微妙なルールの違いが生じていると共に、枠の配分額が見えないという声だ。混乱ぶりについて関係者へ取材をした。
40%割引で、平日3000円、休日1000円のクーポンを付与
全国旅行支援は、旅行代金の40%を割引し(割引額の上限は宿泊のみであれば1泊あたり5000円、交通付きであれば1泊あたり8000円)、更に平日の宿泊は3000円、休日の宿泊では1000円の地域クーポンがもらえる。全国的な旅行支援は、2020年7月~12月に実施された「Go Toトラベル」以来で、約1年10ヶ月ぶりの全国規模の旅行支援策である。
地域クーポンは土曜日泊が休日に。11月の祝日は谷間であることで平日扱いに
地域クーポンの休日の定義は、土曜日の宿泊及び3連休の場合の祝日の前日の夜が対象となり、11月3日の文化の日、11月23日の勤労感謝の日は3連休にはならず、平日の谷間での祝日であり今回のルールでは平日扱いになる模様だ。
そして、連泊については7泊までが対象となるが、利用回数の制限はない模様だ。平日のクーポン付与額が高い理由は、平日も旅行をしてくれる外国人観光客の減少で、週末は埋まるが、平日は空室が目立つ宿泊施設が多く、平日の利用促進を目指す意味で平日のクーポン額を高くした。観光庁では、「全国旅行支援」開始の10月11日から2024年3月までの期間で「平日にもう一泊」キャンペーンを開始し、平日旅行を促進する。
都道府県によって若干異なるローカルルールに旅行会社は苦慮
ここまでは全国的に同一ルールだが、細かい部分ではあるが、都道府県によって異なるルールが発生する模様だ。
旅行会社関係者からの情報によると、まずはワクチン接種証明書の取り扱い。今回の「全国旅行支援」では、ワクチン接種3回以上の接種証明書、2回以下の場合にはPCR検査(チェックイン日の3日前~当日)もしくは抗原検査(チェックイン日の前日もしくは当日)の陰性証明書が必要となる。ただ、県内旅行者については、都道府県の権限で従来の「県民割」同様にワクチン接種2回でも認められるが、これも知事の考え方で県内旅行でもワクチン接種3回以上を求めるケースもある。これは大した問題ではない。
トラブルが一番起きそうなのが、証明書を提示できない複数人での旅行の取り扱い
今回、一番トラブルが起きそうなのは、グループ(複数人)の旅行時における、接種証明書もしくは陰性証明書を提示できない場合の差額徴収の取り扱いである。例えば4人で旅行をする場合において(同一の予約記録)、3人はワクチン接種証明書を持参し、残りの1人はワクチン接種2回以下でかつ陰性証明書を取らずにチェックインをしようとした場合、A県では陰性証明書を持っていない1名のみ40%引きが適用されず(地域クーポンももらえない)、割引前の金額で請求されるルールがある一方、B県では1名でも接種証明書もしくは陰性証明書を提示できなければ、グループ全員が割引を受けられずに、割引前の価格での支払いになるというルールだ(地域クーポンももらえない)。
複数の旅行会社関係者によると、配布されているガイドラインには、A県のように当該旅行者のみ補助の対象外にする場合とB県のようにグループ全体が補助の対象外にするのかは、各都道府県毎に規定する場合があると書かれているそうだ。旅行会社や大手ホテルチェーンでは、事例が発生した際にお客様にも説明する必要があることから、全ての都道府県のルールを確認しなければならないとのことだ。
旅行業界としては、ワクチン接種のルールを廃止して欲しいという声。若者の約半分は、旅行直前に検査を受けないと割引が受けられない
そもそもの話として、感染者数が減少傾向にあり、更にワクチンを4回接種した人でも感染するケースがあるなかで、少しでも地域経済を活性化させる政策であり、ワクチン接種3回以上を求める必要があるのかという声が多い。
9月30日現在、首相官邸が発表している数字によると3回目接種を終えている人は全体で65.4%、20代になると51.6%、30代で55.4%、更に12歳~19歳で40.6%という状況である。12歳未満は親と同伴などによってワクチン接種は求められないが、若者については約半分はPCR検査もしくは抗原検査を受けないと割引が受けられないのだ。
インバウンドも「全国旅行支援」の対象外。知らずに予約する外国人も考えられる
検査を受けてまで割引を受けたいと思わない人も多く、経済効果を考えるとハードルは低い方がいいのだ。更に今回の「全国旅行支援」の対象は日本国内在住者となっており、10月11日にビザ不要になることでインバウンドが本格的に解禁されるが、外国人観光客が宿泊予約サイトで間違って「全国旅行支援」を適用した価格で予約することも考えられる(特に「全国旅行支援」にも参画する海外系の旅行予約サイト)。
チェックイン時にワクチン接種証明書もしくは陰性証明書に加えて、日本在住を証明できる身分証明書の提示も必要だが、それを知らない外国人観光客とのトラブルも十分に考えられる。
地域クーポンの受け渡し方法も都道府県によって異なる可能性が
それ以外にも地域クーポンの配布方法についても全国の統一ルールがなく、各都道府県に委ねられており、多くは宿泊施設にチェックインをする際に配布する方向になりそうだが、県によっては旅行会社や旅行予約サイトなどに対して、「宿泊施設ではなく出発前に送付することを求める方針の県もある」と関係者は話す。2020年7月~12月までに実施された「Go Toトラベル」では、紙と電子クーポンの両方の地域共通クーポンが配布されたが、今回はほとんどが紙になるようだが、一部で電子クーポンも採用される可能性もあるようだ。
そして地域共通クーポンが地域経済に貢献した理由の1つに、旅行最終日(チェックアウト日)の24時までしか有効期限がないことで、転売もほとんど見られず、旅行最終日までに旅行先で使い切ることによる経済効果は大きかった。旅行先の飲食店やお土産店、物販店など使える店も多かったことで利用した人からの評価も高かった。
今回、ガイドラインには「全国旅行支援」での地域クーポンの有効期限は明記されていない。実際に県民割では、一部の県でチェックインから3日後や1週間後など、旅行期間外でも使えるケースもあったが、ここも「Go Toトラベル」のように旅行最終日に有効期限を統一して欲しいという声も聞かれる。ちなみに「Go Toトラベル」の地域共通クーポンでは、宿泊する都道府県内及び隣接県も使えたが、今回は宿泊する都道府県内のみとなる。
最低旅行代金を平日は1泊あたり5000円、休日は2000円に国としては設定しているが・・・
更に「全国旅行支援」が適用となる最低価格についても都道府県によっても異なる可能性があると関係者は話す。ガイドラインでは、逆ざや(支払額よりも支援額が上回らないこと)が起きないように、平日は1泊あたり5000円、休日は1泊あたり2000円を最低旅行代金に設定している。
これは平日では5000円の40%割引で支払額は3000円となって、地域クーポンが3000円もらえることで実質0円となるが、逆ざやにはならない。休日は2000円の40%割引で支払額は1200円となり、地域クーポンが1000円もらえることで実質200円となる。これについても最低旅行代金以上であれば国としては問題はないという見解を出しているとのことだが、県によっては1円以上もしくは1000円以上の実質負担額を求めること検討していると関係者は話す。
既存の予約は基本的には「全国旅行支援」の割引に対応。ただ県によっては取り直しの場合も
このような形で、旅行者においても旅行する都道府県によってローカルルールが発生することになることは間違いなさそうだ。複数の関係者が口を揃えて、最初にトラブルになりそうなのが既存の予約についてだ。筆者が観光庁に確認したところ、既存の予約も原則、基本的には対応する方針であることを明らかにしている。
ただし、関係者によると山梨県は既に旅行会社に対して、既存の予約を適用させずに新規予約のみ(予約済みの場合は取り直し)を対象とすることを示したとのことだ。楽天トラベルやじゃらんなどでは既に既存の予約については適用できる方針をホームページでも明らかにしているが、既存の予約のルールも県ごとに異なるというのは、旅行者も不安である。詳細が今後、各都道府県の事務局から発表された段階で混乱が出ることが予想されるほか、一部の旅行会社や宿泊施設への直接予約では補助金の枠が確保できないことで既存の予約に対応できない可能性もある。
旅行会社の悲痛の声「ルールを全国で統一して欲しい」
最後になるが、旅行会社の悲痛な声の多くは、問い合わせ窓口が一本化できないことによるものだ。国が主導していた「Go Toトラベル」実施時は、事務局が全国を管轄していたことで、不明点があった場合の問い合わせ窓口が統一されていた。しかし、今回はローカルルールが見受けられることで、各都道府県の事務局に不明点があるとそれぞれ問い合わせる必要がある。
特に旅行会社は、47都道府県の全ての事務局に対して、「全国旅行支援」を実施するにあたり契約する必要があり、更に補助金の枠の配分を受けられないと旅行者へ販売することもできない。今回、各都道府県から業務委託をする「統一窓口」が設置され、都道府県との参画登録、補助金申請、販売実績報告などを代行する。ただ、奈良県は「統一窓口」を使わない方針であるほか、統一窓口の活動範囲がわからないという声が既に多く出ているとのことだ。
仮に10月11日スタートでも開始日に間に合わない旅行会社・宿泊施設が出る可能性もある
今回取材した、旅行会社、更にはチェーン系のホテル運営会社の関係者全員から聞こえたのは、事務局は都道府県ごとに設置されることは理解できるが、県ごとに判断しても構わないローカルルールを設けずに、全国一律のルールに統一して欲しいという切実な声である。今の状況が続けば、仮に10月11日に東京都を除く46の道府県でスタートしたとしても、旅行会社やホテルとしては初日から対応できないという事態になるケースも出ると複数の関係者は話す。混乱具合は2年前の「Go Toトラベル」と比較にならないほど、クリアにしなければならない課題が多い。
東京都も9月30日に突如、小池百合子知事から10月20日開始の方針が示されたが、県民割を実施しておらず(都民割は都独自の支援策でスキームが異なる)、地域クーポンの取扱事業者の募集や券面の印刷も含めて、10月20日までに本当に開始できるのかという不安の声も多く聞かれる。
更に業界内から聞かれる声としては事務経費の無駄だ。各都道府県の旅行先で使える地域クーポンは都道府県ごとに発行され、それぞれデザインも異なる。発行準備や印刷費用も含めて、想定以上に事務経費が増えている模様で、余っている「Go Toトラベル」の地域共通クーポンをそのまま使ったり、もしくは新規で印刷する分も「全国旅行支援」の統一クーポンにすることで事務経費を減らせるのではないかという声が多い。
上手に機能することで地方経済への活性化にもなる「全国旅行支援」で期待の声も大きいが、開始までのトラブルは必至
旅行支援である以上は、旅行業界、更には旅行に付随する地域の産業に寄与できる形でなければならない。「全国旅行支援」への期待は大きいのも事実であり、「Go Toトラベル」での経済効果の再来を期待している。旅行は「ストレスフリー」でなければならず、旅行者の手間が増えたり、混乱が起きることで旅行需要が減る懸念もある。
これまでも観光庁は「全国旅行支援」の仕組み作りに時間をかけて取り組んできているが、わかりやすく、そして訪れる旅行先によってルールが変わらない全国統一ルールで「全国旅行支援」がスタートして欲しいという旅行業界・宿泊業界・運輸業界の声が届くのか、週明けから各都道府県から詳細が発表される見込みだが、10月11日の開始までに、まだまだトラブルが起こることになりそうだ。