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新型コロナ禍で仕事量10分の1。その中でゴルゴ松本が噛みしめた使命とは

中西正男芸能記者
今の思い、そして、今後への思いを語るゴルゴ松本さん

 「“吐”くという字は口に±(プラスマイナス)と書く。愚痴などマイナスのことを口にしなくなると、マイナスがなくなって夢が“叶”うんです」。漢字に込められたメッセージを独自の解釈を交えながら語る“命の授業”が注目を集めてきたお笑いコンビ「TIM」のゴルゴ松本さん(54)。年間100本ペースで少年院などを訪れていましたが、新型コロナ禍で仕事量は「10分の1以下」になったといいます。その中で噛みしめた使命。そして、理想の最期とは。

すべてがつながっている

 新型コロナ禍で仕事は激減しました。“命の授業”という形で、コロナ禍前は年間100本くらいは講演をさせてもらっていたんですけど、そこだけ見ても年間で10本あるかないかになっています。10分の1には減りました。

 実は、その間にカミさんが大きな手術をしたんですよ。ひざの軟骨再生手術なんですけど、2020年に左足をやって、去年12月に右足をやりました。右足の手術後も3カ月ほど入院して、先日退院してきました。

 カミさんがいない間、当然僕が家のことと仕事をやりながらの生活になるわけで、端から見ると「コロナ禍に加え、奥さんの手術。大変ですよね」と見えるかもしれない。でも、僕としては「ラッキー」ととらえているんです。

 本当は手術も予定が立て込んでいて1年半ほど先まで空きがないと言われていたんですけど、コロナ禍でキャンセルが出て予約が取れたんです。少しでも早く手術をした方がこれからの人生をアクティブに過ごせる。今の時期だからこそ、この流れを得ることができた。そう思うと、恵まれているなと。

 そして、コロナ禍で時間ができたからこそ、YouTubeも始められたし、本も2冊出せたし、自分の見つめ直しみたいなこともできた。これもありがたいなと。

 ま、これはね、職業柄なのかもしれないですね。お笑いの人間がネガティブにしてても、面白くないですもんね。特に、僕なんかはギャグでドンと表現する人間だから、消極的とか下を向いていることが似合わないし、そんなことだと僕自身が気持ち悪いんですよ。

 何があったって、仕事があったら、お客さんがいたら、笑ってもらうしかないんですよ。下なんて向いてる場合じゃない。もしかしたら、もう職業的な病気と言えるくらいかもしれませんけど(笑)、そのおかげでコロナ禍でも前向きには暮らせていますね。

 そこで思ったのが、幾重にも“継続は力なり”だなということでした。

 こういう自分だから、こういう感覚でコロナ禍と向き合っている。それは「今までどう生きてきたか」の積み重ねなんだなと。その積み重ねが今の自分であり、さらに今の自分からの積み重ねが10年後の自分につながっている。

 いや、文字にすると普通なんですよ(笑)。そりゃ、そうだろと。でも、つくづく、全部がつながっている。それを感じるきっかけにもなりましたね。

 “命の授業”も東日本大震災の年、2011年から始めましたから、去年で丸10年が経ちました。

 あれも、始める2年ほど前から妻の知り合いの編集者さんから「少年院で話をしてくれませんか」と言われていたんです。

 最初は何か怪しい話なのかな…と疑っていた部分もあって、距離を置くような感じでやり過ごしていたんですけど、何度も、何度もお話をいただいたんです。

 普通、大人の世界で、何回か断ってるのに、それでも何度も「お願いします」となることもなかなかないですよね。なので、一回とにかく会ってみようと思ってお話をうかがったら、本当にまじめに「日本の犯罪を少しでも減らしたい」と考えてらっしゃる。

 ただ、自分に何ができるのか。その方と話しながら改めて考えた時に「後輩らに漢字に込められた意味を話すようなことは前から勉強して続けています」と。それは面白いとなって、その話をさせてもらうようになり、それが今に至るという流れなんです。そう考えると、編集者さんが僕にそこまで強く言ってきてくださっていたのも意味があったんだろうなと。

 さらに、その前の話というか、2008年にテレビ東京で「新説!?日本ミステリー」という歴史に関する番組に出してもらうようになっていたんです。

 その番組には松方弘樹さんと僕が出ていて、松方さんはもちろん存在感がおありだし、時代劇もやってらっしゃるし、歴史というイメージがある。でも「なんで、オレなんだ」という思いがあって、せめて歴史の勉強だけはしっかりしておこう。そう思って、自分なりに勉強を始めたんです。

 そこから歴史、日本の成り立ち、漢字についてと勉強の幅が広がっていって、コンビとして“命”というギャグもある。本当にすべてがつながっていくんですよね。

使命

 今年で55歳になります。もちろん何歳まで生きるかなんて分からないですけど、もしこの先ももう少し生きることができるならば、もう今が60歳につながっているし、60歳が70歳にもつながっていくんだなと。

 世界のイチローさんが「みんなは僕のことを天才というけど、何もやらずにここまできたわけではないですからね」とおっしゃってましたけど、本当にそうですもんね。日々の積み重ねがイチローさんを作ったわけですから。

 じゃ、自分がここから先、どう生きるのか。それを考えた時に一つの指針が「正」という漢字だと思っているんです。

 生きている以上、楽しいことをやりたい。これは当然のことです。ただ、そこに「それは正しいことか」というフィルターを入れて考える。

 例えば、お酒を飲むのは楽しいです。楽しいのは間違いない。でも、それが「正しいのか」と考えると、飲み過ぎたらダメだし、明日の仕事に影響がでるようなことがあったら「正しくない」となってしまう。

 「正」という字は、全ての線が「この線から出たらダメ」と全ての線を制しています。その状態が「正しい」ということなんだろうなと僕は考えていますし、このフィルターを無理なく入れて暮らしていくことが、ここから先の自分を良い方向に導いてくれるのかなとは考えています。

 できればですけど、80歳くらいまでは生きて、その年齢で少年院をまわれたら、今と同じ話をしても説得力が出るだろうなとも思いますよね。

 誰でも幸せになりたいと思って生きている。これは間違いのないこと。でも、うまくいかないこともある。その時にどう考えるのか。

 そんなメッセージがもっと伝わりやすくなると思うんですよね。自分が良い80歳になっていたら。

 単に道端でひなたぼっこをしてるだけでも「あ、ゴルゴだ」と気づいてくれた人が思わずニッコリしてくれる。心がパッと上向きになる。なんならお供え物をしてくれる(笑)。

 それくらいのことになっていたら、きちんと命を使えたことになるのかなとは思っています。

(撮影・中西正男)

■ゴルゴ松本

1967年4月17日生まれ。埼玉県出身。本名・松本政彦。ワタナベエンターテインメント所属。埼玉県立熊谷商業高校時代は野球部に所属し、第57回選抜高等学校野球大会にも出場。俳優活動を経て、94年にレッド吉田とお笑いコンビ「TIM」を結成。“命”“炎”など体を使って文字を表現するギャグでブレークする。後輩芸人に向けて行っていた文字に込められたメッセージを語る話を、2011年からは少年院などでも開くようになり“命の授業”として注目を集める。昨年12月に上梓した「命の相談室」(中央公論新社)、今月発売された「あっ!命の漢字ドリル」(プレジデント社)など著書多数。YouTubeチャンネル「ゴルゴ松本の命のGスポット」も展開中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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