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もし菊池雄星がオプション権を行使してマリナーズに残留していたとしたら…

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
自らのオプション権を破棄してFAになった菊池雄星投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【マリナーズと菊池投手の双方がオプション権を破棄】

 すでに日本の主要メディアが報じているように、マリナーズは現地時間の11月3日、チームと菊池雄星投手の双方が保有していたオプション権を破棄することを明らかにした。この結果菊池投手はFAなり、今オフは新たな所属先を探すことになった。

 改めて説明しておくと、菊池投手の3年間の基本契約は今シーズン限りで終了したものの、マリナーズは4年総額6600万ドル(約72.6億円)のオプション権を、また菊池投手も1年1300万ドル(約14.3億円)のオプション権を有していた。

 米メディアの間では、マリナーズはオプション権を破棄する可能性が高い一方で、菊池投手はオプション権を行使することになるというのが大方の見方だった。そのためMLBサイトでも「a surprising roster development(驚きのロースター進化)」という表現を使用し、予想外の展開を報じているほどだ。

【双方の期待通りにいかなかった菊池投手の契約】

 2018年オフに菊池投手のマリナーズ入りが決まり、契約内容が3年総額4300万ドル(約47.3億円)だということが明らかになった。それまでポスティングシステムを利用してMLB入りした松坂大輔投手やダルビッシュ有投手らが結んだ大型契約に比べれば、決して驚くような内容ではなかった。

 だが低予算チームのマリナーズからすれば、かなりの破格な内容だったのは間違いない。2019年にはフェリックス・ヘルナンデス投手が菊池投手の年俸を上回っていたものの、2020、2021年は、菊池投手が投手陣の中で最高年俸だったことを考えれば、チームの期待の高さが理解できるだろう。

 またマリナーズ、そして菊池投手のエージェントを務めるスコット・ボラス氏も、基本契約の3年間でMLBに順応し、エース的な役割を果たす存在になると考えていたからこそ、4年間のオプション権が付け加えられたのだと考えられる。

 だが今シーズンの菊池投手は、前半戦こそチームで唯一オールスター戦に選出されるような活躍を見せていたものの、後半戦は完全に失速し、チームが大事なポストシーズン争いをしているシーズン終盤にローテーションから外され、シーズンを終えている結果となった。

【最善策はオプション権の行使だった?】

 すでに本欄でも報告しているように、現行の労使協約が12月1日で期限終了を迎えるため、現在MLBと選手会の間で協議が続けられているものの、期限までの合意がほぼ不可能だと見られている。

 そのため今オフのFA市場は例年以上に停滞化すると予測されており、菊池投手もFAを選択せずに、オプション権を行使しておくのが最善策だったはずだ。だからこそ米メディアも、菊池投手がオプション権を行使すると予測していたのだ。

 だが年俸1300万ドルを受け取ってマリナーズに残留していた場合、菊池投手の立場はかなり微妙だったといわざるを得ない。

 前述通り、今シーズンの菊池投手は投手陣の中で最高額の1700万ドル(約18.7億円)の年俸を受け取っていた。だが先発投手陣の成績を見ると、シーズン全体を通じてローテーションを支えていたのはクリス・フレクセン投手(31試合で14勝6敗、防御率3.61)であり、シーズン後半戦でエースとして台頭していたのがマルコ・ゴンザレス投手(25試合で10勝6敗、防御率3.96だったが、後半戦だけで9勝を記録)だった。

 この2投手は来シーズンの契約も残っており、当然のごとく彼らは来シーズンもローテーションの核として期待されている。そんなゴンザレス投手の年俸は575万ドル(約6.4億円)で、フレクセン投手に至っては305万ドル(約3.5億円)と、菊池投手の半分以下の年俸でしかないのだ。

 一方の菊池投手は、マリナーズは今オフに戦力強化を図っていく方針で、先発投手の補強も積極的に取り組むといわれており、来シーズンのローテーション入りが確約されているわけではなかった。

 そんな状況の中でマリナーズの中ではかなりの高額年俸で残留していたとしたら、メディアやファンから受ける風当たりは相当に強かったはずだ。そして彼らが納得できる成績を残せていなかったら、強烈な批判を浴びていたことだろう。

【FAで日本球界復帰の可能性も】

 今回菊池投手がオプション権を破棄してFAになったことで、MLB公式サイトをはじめ複数の米メディアが、日本球界復帰の可能性を指摘している。もちろん菊池投手の3年間の成績(70試合で15勝24敗、防御率4.41)で、MLBの他チームから1300万ドルを上回るような高額オファーを獲得するのは相当に難しいだろう。

 ただ個人的に気になる点がある。マリナーズが今回の件を発表したのが、ワールドシリーズ終了翌日だったということだ。つまりオフシーズン初日に発表しているのだ。

 元々マリナーズが菊池投手のオプション権の決断を下す期限は、ワールドシリーズ終了後3日以内で、もう少し猶予があった。しかも今回の発表はチームだけでなく、菊池投手のオプション権破棄も同時に発表している。つまり両サイドは水面下で、事前にいろいろ話し合いをしていた可能性がありそうなのだ。

 マリナーズは元々MLBの中で菊池投手を最も評価していたチームであり、今シーズン前半戦の投球も十分に満足していた。一方の菊池投手にしても、3年間在籍したチームだけに移籍よりもマリナーズ残留が最も理想的なはずだ。

 そうなるとマリナーズとしては、年俸額を下げインセンティブを加える契約で菊池投手を引き留めるのが両サイドにとって有益だと考えられる。そういった話し合いをすでにしているからこそ、菊池投手もオプション権を破棄したのではと推測しているのだが…。

 今オフはオーナー陣から年俸総額引き上げの了解を得ているにもかかわらず、チーム2位の35本塁打を放っていたカイル・シーガー選手の年俸20000万ドル(約22億円)を保証するオプション権を破棄したマリナーズだけに、よりリーズナブルな契約で菊池投手と再契約したとしても、何ら不思議ではないだろう。

 果たして、来シーズンの菊池投手の所属先はどこになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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