Yahoo!ニュース

ロックアウトがさらに現実味?!今も五里霧中状態が続くMLBと選手会の労使交渉

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
マンフレッド・コミッショナーは期限内に新たな労働協約を締結できるのか(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【MLBと選手会が労働条件の変更を通達】

 公式戦も残りわずかとなり、ポストシーズン争い、個人タイトル争いともに佳境を迎えているMLBだが、その裏で今後に不安を抱かせるようなニュースが米メディアによって報じられた。

 AP通信が現地時間の9月23日に報じたところでは、MLBと選手会は米国の連邦調停局に対し、両者の間で新たな労働条件を求めていく旨を通達したという。

 このニュースを聞いただけでは、何が不安なのかを理解するのは難しいだろう。だが今回の動きにより、MLBに1994年のストライキ以来のシーズン休業の可能性が一段と高まりを見せ始めたのだ。

【逃げ道を自ら捨てたMLBと選手会】

 すでにご存知の方も多いと思うが、MLBと選手会は定期的に労働協約を決めながら、リーグ運営を行ってきた。現行の協約も2016年に両者の間で合意されたもので、その有効期限は今年の12月1日までとなっており、シーズン開幕前から両者の労使交渉に注目が集まっていた。

 もちろん現行の労働協約の期限切れが迫っているのだから、今回の連邦調停局への通達は何ら不思議ではないだろう。だが今回の通達によりMLBと選手会は、新労働協約合意以外の逃げ道が無くなったことを意味している。

 AP通信の記事によれば、米国の連邦労働法では、労使交渉に臨むどちらか一方が相手側に対し、労働協約が失効する60日前までに協約の変更を求める通達をし、さらにその通達から30日間以内に連邦調停局に報告しさえしなければ、現行の労働協約を変更もしくは破棄する必要はなくなるらしい。

 しかしMLBと選手会は、8月26日の時点で現行協約の変更を求める通達を交わし、そして今回連邦調停局にもその旨を通達したわけだ。これにより、現行協約は否応無しに12月1日で失効し、両者は新たな労働協約に合意せざるを得なくなったというわけなのだ。

【期限切れまで残された時間はわずか2ヶ月間】

 もし現在のMLBと選手会の関係が良好であるのならば、今回の通達は何の問題も無かっただろうし、期限切れまでに新労働協約に合意できるとの楽観的な見通しも立ったはずだ。

 だが現在の両者の関係は、完全に冷め切っている。昨年コロナ禍で行われた労使交渉が、それを如実に物語っている。

 新型コロナウイルスの感染拡大によりシーズン開幕前に活動中断が決まった後、MLBと選手会の間でシーズン実施に向け交渉が続けられたが、結局両者は何一つ合意できないまま、MLBの計画通りに短縮シーズンが実行されることになった。

 今シーズンの運営についても両者の間で話し合いが持たれたが、基本的に選手会側の希望は受け入れられないまま、シーズンに臨んでいる。現在の両者の関係についてほとんどのメディアが、激しく反目し合っていると考えているのも当然のことだろう。

 そんな中、ここまで新労働協約に向けた交渉に関する報道はほとんどなく、話し合いがどこまで進展しているのかも見えない状態が続いている一方で、期限切れまで約2ヶ月間しか残っていないのだ。

【12月1日もしくはキャンプ初日からロックアウト?】

 繰り返しになるが、今回の連邦調停局への通達により12月1日で現行協約は失効してしまう。それまでに新協約が合意されなければ、来シーズン以降のMLBはまさに混迷状態に陥ることになる。

 そうなれば新協約が合意されるまで、MLBはロックアウトを実施することになるだろう。

 AP通信ではロックアウトの開始日を12月1日か、スプリングトレーニングの集合日と予測しているが、もし12月1日からロックアウトが実施された場合、球場、キャンプ施設を含めたすべてのチーム施設に入れなくなり、トレーナーやコーチとの接触もできなくなってしまう。間違いなく選手たちのオフ期間のトレーニングに影響を及ぼすことになる。

 それだけではない。ロックアウト中の各チームは、選手との契約交渉も一切できなくなる(マイナー契約は別)。今シーズン終了後にFAになる大物選手たちは、MLBと選手会の労使交渉が長期化するようなら、所属先が決まらないまま年を越さなければならなくなるだろう。またチーム側も、来シーズンに向けた戦力補強ができなくなってしまうのだ。

 いずれにせよ12月1日までに新労働協約に合意できなければ、MLB、選手会双方にとって何のメリットもないはずだ。これまで反目し続けてきた両者の交渉は、果たして期限内に決着できるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事