Yahoo!ニュース

「自分の棋力向上を目指して強い方々と対局したい」棋士編入試験を受験する里見香奈女流四冠、記者会見全文

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

――棋士編入試験受験の資格を得た5月27日の会見では、あまり積極的に試験を受けたい感じではなかった。その後、今回の決断に至った気持ちは?

里見香奈女流四冠「そうですね。1か月あったんですけれども、あまり深く考えるということではなくて。他棋戦の対局も入ってましたので、目の前の対局やできることを全力でこなしていたわけなんですけど。その中で、あまり考える余裕もなく、ただ、挑戦してみたいという気持ちが出てきたので、はい、そうすることにしました」

――棋士編入試験に対する意気込みを。

里見「正直、厳しい、自分の実力からすると厳しい戦いになるとは思うんですけど。その試験までに、できる限りのことをして、全力で挑みたいと思っております」

――注目される編入試験になる。

里見「自分自身は悔いのないように過ごしていきたいなというふうに思っているんですけれども。そういった中で、周りの皆さまに、なにか届けられることもできたらいいな、とも思ってます」

――女性初という点について。

里見「そうですね、これだけ多くの方々に注目していただけるということは、大変うれしいと思うと同時に、そういうことが珍しくないような社会というか、そういうふうにもなればいいな、とも思うので。ただ、そうですね、私自身は自分のことでせいいっぱいなこともありますので、一つ一つ目の前のことに全力で取り組めたらと思っております」

――将棋における男女の差は?

里見「そうですね。歴史も違うので、なんともいえないところはあるんですけれども。いま現在の現状としましては、かなり差はあると感じておりますので、少しでも埋められるようにというか。お隣の囲碁界では、本当に、男女関係なく拮抗している印象を受けますので。そういったことも私自身の刺激となっております」

――棋士への思いは?

里見「(2011年に)奨励会に編入したときは、かなりこう、意識していたというか。棋士になることだけを考えてやってきたわけなんですけれども。いまはどちらかというとそういうわけではなくて。まだ、純粋にやっぱり将棋が大好きなので、少しでもこう、自分の棋力向上を目指して、強い方々と対局したいなという思いが。ただそれだけです。はい」

――成績が上がっている要因。

里見「歳を重ねるにつれて、昔は時間重視で勉強してたんですけど、ちょっと勉強の仕方を変えたっていうところもありますし。あとはAIがすごく強くなってる社会に、自分の個性をちょっと出せる将棋をしたいなと考えてまして。そういう自由度の高い、勝敗に限らず、そういう将棋を指していきたいなというのが、結果的にはよくなってたのかな、と思います」

――AIをどう研究に取り入れてる?

里見「私自身の棋風と照らし合わせて、というところもあるんですけど。すべてAI通りに指せるわけではないので。自分がこう、AIがよしとしてる場面と、自分がこの先、指しこなしていけるかっていう局面が一致したところを落とし所として、使っているという感じで。すべてをAIに頼るわけではないです」

――編入試験で対戦する若手棋士はかなりAIで研究をしてると思われるが、対策は?

里見「対策もその方々によって変わってくると思うんですけど。相手がどうこうというわけではなくて、自分がより力を出し切れるような対策を練って、戦いたいなと思います」

――合格したら女流棋士の活動も続ける?

里見「そうですね。うーん。そのつもりではいるんですけれども、まだ現実になったわけではないので。そうなってから考えたいと思います」

――誰かとの相談のやり取りがあれば教えてください。

里見「身近な人に相談というか、ちょっと話をしたっていうぐらいなんですけれども。やっぱり私の体調を気遣ってくれる言葉ばっかりでしたので、そういう言葉がかえって、挑戦してみたいなという気持ちに変わったところはあります」

――ご両親からは?

里見「両親はだいたいなに考えてるのかわかるので(笑)。あまり相談することはなかったんですけど。まあとにかく、体調を気遣ってくれていました」

――奨励会三段当時の自分と比較して。この五番勝負の戦い方は?

里見「当時と比べるとかなり自分の心境も変わっていますし。本当に、将棋が指せていることがどれだけ幸せかっていうことに気づけましたので、そういったところが大きく違うところかなと思っております。編入試験に向けてですけれども、5局全体を考えるというよりは、目の前の対局に全力を尽くすということで、はい、日々がんばっていきたいと思っております」

――地元(島根県)の存在は?

里見「地元にいるときは、本当に温かくお声がけしていただきましたし。私が十年ほど前、大阪に出てきてからも変わらず、直接お話しすることはなかったんですけれども、常に温かく見守っていただいておりますので。本当に、私が将棋をする上でのモチベーションになっております」

――編入試験で戦う5人の若手棋士の印象は。

里見「奨励会も含めますと、対局したことは、5人の先生すべてありまして。それぞれの個性があり、まったく違う将棋を指されるので。一局一局、対策はしっかり練っていかないといけないのかなと思っております」

――終盤力の強さで注目されているが、序中盤での強化がいまにつながった?

里見「私自身の印象としましては、自分の中ではどちらかというと序中盤型かなと思っておりますので(笑)。まあとにかく終盤を、力勝負になったところでの正確性というか、終盤力を少しでも上げられるように勉強していきたいなと思ってます」

――棋士になることの魅力は?

里見「実はあまり深く考えていなくて(笑)。ただこう、なんていうか、強い方と対局したいっていう気持ちがありますので。なんか、棋士になれるかどうかっていうよりは、自分がどこまでやれるのかっていうところを重視して決めたところはあります」

――決意表明が期限ギリギリになった理由は? 相談した身近な人とは誰?

里見「ギリギリになった理由なんですけど、毎日毎日考えるということではなくて、自分がより後悔しないような選択をするために、ギリギリまで自分の感情が動くかなっていうのを見ていました。最後はやっぱり、自分がどれだけやれるのかな、っていうところで判断したところはあります。身近な人なんですけど、きょうだい(兄と妹)に声をかけて、意見をもらいました」

(記者からの質問は簡略化し、里見女流四冠の言葉はほぼそのまま記述した)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事