参議院選挙でどの政党のTwitter活用が有効だったか
2022年の参議院選挙の投開票が行われ,与党の圧勝と言う形で幕を閉じました.
投票2日前に安倍元首相の暗殺という痛ましい事件があるなど,波乱に満ちた参議院選挙でしたが,参政党やNHK党などの政党がソーシャルメディア戦略を駆使して選挙戦を戦って議席を獲得したことなども話題になりました.
では,もはや選挙におけるソーシャルメディア戦略としては古いカテゴリに入るのではないかと思われるTwitter上ではどのような戦いが繰り広げられたのでしょうか.
ここでは,議席を獲得した各政党の公式アカウントと党首アカウントと,その拡散を行ったアカウントに注目し分析しました.
今回は,公示日から投票日前日までの2022年6月22日~7月9日の間でリツイートされた各党の公式アカウントと党首アカウントのツイートを分析対象としています.なお,ツイートの取得はベストエフォートで収集しているため,一部のツイートは収集されていない可能性がありますのでご了承ください.
拡散数の比較
まず,公式アカウントのツイートがどのくらい拡散したのかを見てみましょう.
上の図は,各政党のツイートが期間中に何回リツイートされたかを示しています.この結果から,れいわ新選組のツイートが圧倒的に拡散されていることが分かります.全部で275,270回拡散されており,自民党の26,992回の10倍以上となっています.次点は参政党で169,035回拡散されています.
単純な拡散数だけからいえば,この二つの党がTwitter上で大きく話題になったと言えるでしょう.
ただし,Twitterで拡散したからといって得票できるわけではありません.事実,比例代表党派別得票と比較すると,ツイートの拡散数と得票数との相関関係は-0.416でした.すなわち,ツイートが拡散していない政党ほど得票率が高いという結果となっています.もちろんこれは相関関係であり,因果関係ではないことには注意が必要です.
拡散アカウント数の比較
一方で,これらのツイートを拡散したアカウントはどのくらいあったのかを調べてみました.その結果がこちら.
この結果を見ると,各政党の公式及び党首アカウントのツイートを拡散しているユーザ数が多いのも,れいわ新選組であり,それ以外に国民民主党,参政党,共産党が多かったことが分かります.
拡散したユーザが必ずしも支持者とは限りませんが,れいわ新選組は一定量のユーザによって拡散されていたことから,Twitter戦略としてはある程度成功したといえるかもしれません.
ここで,拡散ユーザ数と得票率との相関関係を見ると-0.277と負の相関がみられ,拡散数と同様拡散するアカウントが多いほど得票率は低い傾向がありました.
1アカウント当たりの拡散数の比較
次に1アカウント当たりの拡散数を見てみましょう.
れいわ新選組のツイートをリツイートしたアカウントは平均で9.8回リツイートをしており,自民党が1.96回,国民民主党が3.3回に比べると一人当たりの拡散数が多く,支持者が特に頑張って拡散をしていたと予想されます.参政党も1アカウント当たり7.7回と高い拡散数を示しています.
しかし,1アカウント当たりの拡散数と得票率の相関は-0.540であり,1つのアカウントが頑張って拡散している党ほど得票はできていないということが分かりました.もちろんこれは因果関係ではないので,頑張らなければ得票率が上がるというものではありませんが.
Gini係数(リツイート格差)の比較
上の図は各政党のツイートを拡散したアカウントの拡散数のGini係数を示しています.Gini係数とは,社会における所得の不平等さを測る指標として開発されたものですが,ここではアカウントごとのリツイート数の不均衡さを示しているとお考え下さい.すなわち,Gini係数が小さければリツイートを行ったアカウント間でリツイート数に格差があまりないことを示し,Gini係数が大きければ格差が大きい(一部のめっちゃめちゃ拡散している人が全拡散のほとんどを担っているような状況)ということを示します.
たとえば,れいわ新選組のGini係数は0.768です.れいわ新選組の公式アカウント,党首アカウントによるツイートの全拡散の50%をわずか3.8%のアカウントが担っていた,つまり1,076のアカウントで137,635回の拡散を行っていました.50%の資産を3.8%の人々が独占しているのと同じような状況だと思うと分かりやすいかもしれません.極少数のコアなアカウントによって作られた盛り上がりであるといえるでしょう.
このGini係数と得票率には-0.79という強い負の相関がみられました.つまり,一部のコアなファンのTwitter上での頑張っている政党ほど得票率が低かったといえるでしょう.
アカウント生成時期の比較
最後に,拡散したアカウントがいつくらいに作られたものなのかを確認してみましょう.こちらの図は,各政党のツイートを拡散したアカウントのうち,2022年6月以降に作られたものの割合を示したものです.
この結果を見ると,NHK党,参政党,公明党のツイートを拡散したアカウントの3~5%程度が選挙直前~選挙期間中に作成されたものであることが分かりました.
このうち公明党はもともと3709アカウントしか拡散していないため,少数の新規アカウントの影響が強いと考えられるとして,参政党は21,892アカウント中4.8%に当たる1051アカウントが直近に作られたアカウントでした.
とはいえ,これをもって参政党の支持アカウントは水増しされたものと考えられるかと言うと,必ずしもそうではないようです.参政党のツイートをリツイートしたアカウントのうち,50%は2019年1月以降に作られた新しいアカウントでした.自民党のツイートをリツイートしたアカウントの場合は50%が2016年10月以降に作られたアカウントであり,その差は2年ほどあり,参政党をリツイートするアカウントは他の政党と比較しても新しいアカウントが多いようだということが分かりました.
なお,新しいアカウントの割合と得票率の間での相関は-0.348であり,得票率が高い政党の新しいアカウント率は低い傾向にあるようです.
まとめ
各政党の公式アカウント,党首アカウントの拡散と,リツイートしたアカウントを分析してみました.
その結果,一部のコアなファンが積極的にTwitter上で活動している政党よりも幅広いユーザにリーチしている政党の方が得票率が伸びている傾向がありそうです.
その意味では,一部のコアなユーザが大量にツイートすることによってむりやりトレンド入りを目指すようなトレンドハックなどの手法の効果は限定的であるのかもしれません.とはいえ,もともと支持者が多かったであろう既存政党と新しい政党の得票率を直接比較すべきかは検討の余地がありますし,Twitter以外の要因も多々存在するでしょう.この辺はより詳細に分析をする必要があります.ただ,見た目のツイート数から得票数は推定できないとは言えるでしょう.
また,参政党やNHK党はネット戦略を駆使して得票数を伸ばしたともいわれているため,今後YouTubeやInstagramなどのメディアも含め,更なる分析が必要でしょう.
今回は統計的な分析のみですが,各政党のツイートの内容まで踏み込むことで,さらに政党ごとの違いなどを分析することが可能になると期待されます.
本記事の内容に疑問点がある方や,ご自身でも分析してみたい方は,ツイートを収集するWEBアプリもありますので,是非分析をしてみてください.