アップルに欧州委が警告 忍び寄る巨額制裁金 何が問題?
欧州連合(EU)の欧州委員会は2月28日、EU競争法(独占禁止法)違反の疑いがあると警告する「異議告知書」を米アップルに送付したと明らかにした。
支配的地位乱用の疑い
アップルが音楽配信事業者に課した契約上の制約が、支配的地位の乱用にあたる可能性があるという。欧州委によると、アップルは音楽配信事業者に対し、他のサブスクリプション(継続課金)手段をiPhoneとiPadの利用者に伝えることを禁止している。この行為がEU競争法に違反する疑いがあるという。
欧州委は、アップルによる禁止事項が(1)必要不可欠あるいは相応ではなく、(2)音楽配信サービスの利用者にとって有害であり、結果的に利用者がより多くの料金を支払う可能性がある。加えて、(3)消費者の選択肢を狭め、音楽配信事業者の利益を損ねる、と指摘している。
異議告知書は競争法違反の疑いに関する欧州委の暫定的な見解を示すもので、アップルには反論の機会が与えられる。しかし欧州委が違反の証拠が十分にあると結論づけた場合、是正措置や制裁金の支払いが命じられる。欧州委によれば金額は世界年間売上高の最大10%になる。
欧州委、追及対象縮小
欧州委は2020年から正式な調査を続けており、21年4月にもアップルに異議告知書を送付した。このときは、スウェーデンの音楽配信大手スポティファイ・テクノロジーなどがアップルの決済システムを利用するよう強制され、30%の手数料を徴収されていると指摘。アップルも音楽配信サービス「Apple Music(アップルミュージック)」を手がけており、「(アップルは)自社サービスを有利にし、音楽配信市場の競争をゆがめている」との見解を示した。
ところが今回の異議告知書では、このアプリ決済システムに関する見解を取り下げた。欧州委は声明で、「もはや(アプリ決済の)合法性に関する立場は取らない。今回の異議表明は、21年の異議表明に取って代わる」とし、調査対象を1つに絞る意向を示した。欧州委はその理由について明らかにしていない。
これを受けアップルは早速声明を出し、「欧州委が対象を1つに絞り込んだことを喜んでおり、その懸念を理解し対応するために引き続き協力する」と述べた。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、アップルが「当社のアプリストアはスポティファイが音楽配信サービス市場で世界首位になる手助けをした。欧州委が根拠のない疑いの追求を終えることを願っている」とも述べたと報じている。
アップル、つかの間の勝利か
一方、ロイター通信は「今回のアップルに対する追及の規模縮小は同社にとって勝利となったものの、それはつかの間の勝利かもしれない」と報じている。この報道はEUのデジタル市場法(DMA)を念頭に置いている。
EUは22年11月にDMAを発効した。米ブルームバーグなどによると、23年5月から一部規則の適用が始まり、24年には全規則の順守が義務化される。同法は、アップルのほか、米アマゾン・ドット・コムや米グーグル、米メタなどの市場支配力に制限をかけ、競争阻害行為の抑止を狙っている。
その基準は、時価総額が750億ユーロ(約10兆8500億円)以上か、EU域内の年間売上高が75億ユーロ(約1兆850億円)以上の巨大IT(情報技術)企業。月間利用者数が4500万人以上、年間企業利用件数が1万件以上のIT企業も対象になる。EUはこれらを「ゲートキーパー(門番)」に指定し、規則を順守させる。
ゲートキーパー企業は、自社製品や自社サービスを、プラットフォームに参加する他社の製品/サービスよりも優遇することを禁じられる。違反すれば、世界年間売上高の最大10%の制裁金を科される可能性がある。違反が繰り返される場合は上限が20%に引き上げられ、企業買収(M&A)が禁じられるなど他の罰則が科される可能性もある。
- (本コラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2023年3月2日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)