37歳、限界への挑戦! 日本スーパーライト級タイトルに挑むチャレンジャー
「ガードを高く、芯に喰らわないようにな。翔馬の持ち味を出して、愚直に、粘り強く戦うんだ。そして相手に根を上げさせるんだぞ!」
渡辺均・ワタナベジム会長の言葉に、関根翔馬が頷く。決戦の日まで残すところ10日となった。19歳で入門した彼は、現在、ワタナベジムで最年長のプロボクサーである。日本スーパーライト級7位。
「20年近くも真面目に、コツコツとやってきた男。勝たせてやりたいですね」と話す会長の思いを、関根は汲み取っている。
「僕は22歳で父を亡くしました。食道癌でした。その直後、ボクシングを離れかけた時期があります。でも、会長に『関根、ボクシングやれ!』と言って頂き、ジムに戻ったんです。あの一言を忘れたことはありません。以来、父親代わりだと感じてきました」
関根は語る。
「宇津木秀(前日本ライト級チャンピオン)選手や、関根幸太朗(日本スーパーライト級2位)選手とのスパーリングを重ねてきました。10ラウンドを戦うスタミナは問題ありません。2人共、強いパートナーですが、食らい付くことで僕も成長した実感があります。
チャンピオンは僕を<咬ませ犬>としてオファーを出してきたんでしょうが、こちらには、彼よりも長くボクシングをやってきた意地があります。また、ワタナベジムだからこそ、会長をはじめ、こういう仲間に出会えた。恩返しの意味でも絶対に勝ちますよ!!」
同ジムがから生まれた最初のチャンピオン、吉野弘幸氏(元OPBF東洋太平洋/日本ウエルター、日本スーパーウエルター級チャンピオン、)もエールを送った。
「俺が日本ウエルター王者になった時も、100人中95人は負けると感じていた。でも、勝つって信じてリングに上がった。いいパンチも貰ったけれど、『こんなんで効くか』『負けるか』って高い集中力で戦ったから、深刻なダメージにならなかった。
関根にとっては大きなチャンス。年齢なんて関係ない。自分を信じて戦ってほしい。ぶちかましてやれ!」
関根は今、ジムの壁に飾られている吉野氏の写真を見詰めながら、必勝を誓う。
そして、このところ毎日のように関根がYouTubeで目にしているのが、1988年6月6日にラスベガスで催されたWBCミドル級タイトルマッチ、トーマス・ハーンズvs.アイラン・バークレー戦だ。
「絶対不利」とされていた咬ませ犬が、大方の予想を覆してスーパースターを3回KOで屠り、世界の頂点に上り詰めた一戦である。バークレーのニックネームである<BLADE>を、関根は辞書で調べた。「刃」「剣士」の他に、「翔」の意味も含まれていた。
「ハーンズ戦のバークレーは、序盤に何度もボディブローをもらって、厳しい局面もあった筈です。でも、耐えて耐えて、乗り越えた。あの姿に感動しますね。
僕も、スパーリングでパンチを喰った時、サンドバッグを打っていて苦しい時など、『BLADE!!』と心の中で叫び、自分を奮い立たせています。自分にぴったりの言葉ですよ」
今回のタイトルマッチで穿くトランクスのベルトラインに、関根は「BLADE」の文字を入れた。
「周囲に何と言われようが、まったく気になりません。BLADEの魂をリングで見せるだけです」
関根を指導する町田主計トレーナーも言う。
「タイトルマッチが決まった時から、目付きもモチベーションも違います。苦労して苦労してここまできた選手ですから、いい結果を出させてやりたいですね」
関根の2日後にカムバック戦を控える宇津木秀も話す。
「死に物狂いになっている関根さんとグローブを合わせながら、物凄く刺激を受けて、初心に戻ることが出来ました。自分がワタナベジムに入門した当初から、スパーをしてきました。得意の接近戦で活路を見出してほしい。一緒に勝ちたいですね」
東京・五反田駅前のワタナベジムには、今日も関根の唸り声と、サンドバッグを叩く音が響く。12月12日、関根は後楽園ホールで19歳の頃から追い続けてきた夢に挑む。
関根翔馬よ、<BLADE>になれ!