埼玉県川口市のSKIPシティで毎年開催されている＜SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024＞が昨日開幕を迎えた。

　白石和彌監督、中野量太監督、上田慎一郎監督ら名だたる映画監督たちを輩出する同映画祭は、いまでは若手映画作家の登竜門として広く知られる映画祭へと成長している。

　とりわけメイン・プログラムの国際コンペティション部門は、海外の新鋭映画作家によるハイクオリティかつバラエティ豊かな作品が集結。コロナ禍もすっかり明け、今年も海外からの多数のゲストが来場を予定している。

　そこで、昨年の＜SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023＞のときに行った4作品の海外映画人へのインタビューを届ける。

　一作品目は、ハンガリーのノエミ・ヴェロニカ・サコニー監督が手掛けた「シックス・ウィークス」。養子縁組が成立していても、6週間の間に実母が気持ちを変えた場合、子どもを取り戻すことが可能というハンガリーの法制度を背景に、望まぬ妊娠に直面した卓球選手の心の揺らぎを描いた本作は、タリン・ブラックナイト映画祭のジャストフィルム（青少年映画）部門でグランプリを受賞するなど、世界中で高い評価を得た。そして、本映画祭でも見事に審査員特別賞に輝いた。

　残念ながら妊娠中でノエミ・ヴェロニカ・サコニー監督の来日は叶わなかったが、代わってプロジェクトの初期段階から深くかかわった編集のアンナ・ヴァーギー氏が映画祭に参加。

　彼女に話を訊いた。全四回／第二回

ハンガリーにおいて望まぬ妊娠をした女性の置かれる立場を表現した物語

　前回（第一回はこちら）は、シリアスなテーマを扱った脚本作りの経緯について知る範囲のことを語ってくれたアンナ・ヴァーギー氏。

　では、編集者として脚本をどのように受け止めただろうか？

「今回の場合、ある日、脚本と映像の素材がきてという通常の編集作業とはちょっと違う。企画の始まりの段階からかかわっているので、やはりどうしても思い入れが強くなってなかなか客観的にみられないところがあります。

　なので、そのことを踏まえてということで聞いてほしいのですが、最高の脚本だと思いました。

　最終的な決定稿になるまでかなりバージョンを重ねたんですけど、すばらしい脚本になったのではないかと思いました。

　で、これはなかなかないことなんですけど、ノエミという監督はすごくオープンでイーブンなスタンスで映画作りに取り組む。わたしのような編集スタッフだけではなく、ほかのメインのスタッフにも信頼を寄せてくれて、すべてのことを民主的なプロセスを経て決めていく。オープンな場でそれぞれに意見を求められて、取り入れるべきことは取り入れる、という監督なんです。

　だから、脚本もいろいろなスタッフの意見が反映されていきました。

　これまで編集者としていろいろな作品に携わってきていますけど、今回ほど脚本に深くかかわれたこともなければ、作品にこれほど近いスタンスでかかわれたこともありません。

　ということもあり強い思い入れのある脚本になりました。

　ただ、そのような私情を抜きにしても内容はすばらしいのではないかと思います。

　ハンガリーにおいて望まぬ妊娠をしてしまった女性が置かれる状況がひじょうに細部にわたってきちんと描かれています。

　たとえば、ほかの欧米の国と同様に緊急避妊薬はハンガリーにおいても提供はしてもらえます。

　でも、現実として性教育がきちんとなされていない。そういうインフォメーションへのアクセスの仕方も広く知られるにはまだ至っていない。結果、そのことを知っている若い女の子はほとんどいない。

　この物語の主人公のゾフィも、きちんとした性教育に関するインフォメーションを得ていれば妊娠が防げたかもしれない。でも、彼女は何も知らなかった。彼女だけではなく、相手の男性もそうで、知識がないので避妊への意識も低い。

　そういうハンガリーにおいて望まぬ妊娠をした女性の置かれる立場をきちんと表現した物語だと思いました」

主人公をアスリートの女性にした理由

　いま話に出た主人公のゾフィは卓球選手。今後の成績次第ではナショナルチームも見えている有力選手だ。

　ただ、今後のキャリアを見据えたときでの妊娠。バレたら候補からは外れることは確実だ。

　ゆえにひた隠すが、妊娠で日々体調も変化し、調子も落としていく。しかし、だからといって妊娠をコーチに相談することもできない。一方、社会にも予期せぬ妊娠は「恥」という印象があり、さらに親が頼りないことから相談できない。

　こうして彼女は追い込まれていく。

　キャリア半ばでの妊娠という主人公を、卓球選手というアスリートにした理由は何かあったのだろうか？

「そのアイデアがどこからでてきたかまではちょっとわかりません。

　ただ、アスリートにしようとはわりと早い段階からあったと思います。

　当初から、主人公に関しては、なにか明確な目標をもっている女性にしようと考えていたんです。

　それは、すべての女性が当てはまるわけではないですけど、やはり妊娠して出産を前にしたときに、女性はキャリアかそれとも育児か選択を迫られることになる。

　そのような決断をしないといけない人物で若い女性を想定したときに、おそらくアスリートという案が浮上してきたのではないかと推察します。

　そのような形で、ゾフィという人物が生まれました。

　彼女は決して恵まれた環境にはいない。いわゆる生活弱者で家は貧しく、母親はアルコール中毒でなんの力にもなってくれない。ちょっと厳しい言い方になりますけど、親で本来は子どもの面倒をみる立場にあるのに、まったく頼りにならず、むしろ家族に迷惑ばかりかけている。

　その中で、ゾフィは卓球選手として成功して自分の人生をよりよいものにしようと努力を惜しまない。

　どうにかして現状を打破しようとしている。

　自分の夢に向かって進もうとするヒロインを考えていて、それでアスリートに結びついていった気がします」

（※第三回に続く）

【「シックス・ウィークス」編集アンナ・ヴァーギー氏インタビュー第一回】

「シックス・ウィークス」

監督：ノエミ・ヴェロニカ・サコニー

出演：カタリン・ローマン、ジュジャ・ヤーロ、ラナ・シュタウルスキ、

モーニ・バルシャイ、アンドラーシュ・メーサーロシュ、

キッティ・ケレステシ、カタリン・タカーチ、アンナ・ジェルジ

「シックス・ウィークス」に関する写真はすべて（C）Sparks Ltd.

＜SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024＞

会期：《スクリーン上映》 2024年7月13日(土)~7月21日(日)

《オンライン配信》 2024年7月20日(土)10:00~7月24日(水)23:00

会場: SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ映像ホール、

多目的ホールほか(埼玉県川口市)

詳細は公式サイト : www.skipcity-dcf.jp