ハワイへ日本からほぼ日帰り。ANAのエアバスA380初便に乗るためだけに飛行機に乗るという新しい形
ANA(全日本空輸)は、国内の航空会社で初めて総2階建て飛行機エアバスA380型機(520名定員)を5月24日より成田~ホノルル線に投入した。6月末までは週3往復で投入され、7月以降は週10往復がA380型機で運航される。
世界一大きな飛行機はウミガメをデザインした特別塗装機
成田空港では既にタイ国際航空やシンガポール航空などが一部便をA380型機で運航しているが、国内の航空会社としては初めての就航ということで出発前には盛大に就航セレモニーが開催された。ANAの平子裕志社長は「待ちに待った瞬間がやってきた。世界一大きい飛行機で、横幅が80メートル、胴体の長さが73メートルあり、横幅の方が広い飛行機で、背の高さ(尾翼の高さ)が24メートルあり、ざっと街のビルの8階建てに相当する。機体デザインコンテストで募集した2200点から選ばれたホヌ(ウミガメ)のデザインが飛ぶ。かわいいという声を頂戴しており、世界中のお客様から早く乗りたいという声をいただいている」と期待を寄せた。
今回、ANAのA380型機はハワイで神聖な生き物とされているウミガメをデザインした特別塗装機「FLYING HONU(フライングホヌ)」で運航する。最終的に3機体制(3カラー)になるが、ウミガメ「HONU(ホヌ)」のキャラクターもお披露目され、ホノルル線専用の機内安全ビデオの制作にも登場している。また、海外空港では唯一の自社ラウンジをホノルル空港(ダニエル・K・イノウエ国際空港)にオープンさせるなど、ホノルル線に並々ならぬ力を入れている。筆者も初便のフライトで成田からホノルルへ向かった。
日本出発からハワイ往復をして19時間後に帰国する弾丸飛行機旅
ANAの新型機を心待ちにしていたファンも多く、予約開始日当日に初便のホノルル行き航空券は売り切れとなった。また、初便に搭乗できるホテル付きの就航記念ツアーもすぐに満席となった。初便を目当てにしているファンに滞在日数を聞くと、2泊4日~4泊6日という回答が多かったなかで、注目すべき点は成田空港からホノルルへ飛んだ便でそのまま成田へ戻るという、入国審査も含めてハワイ滞在約3時間半というスケジュール。
往路約7時間、復路約8時間半のフライト時間となるが、成田空港を24日の20時10分に出発し、25日の14時55分に成田空港に戻る(実際には15時15分に到着)という往復19時間で帰国というほぼ日帰りでハワイへ飛んだ乗客がいた。筆者が直接把握しているだけで5名以上、実際10名近くが弾丸ハワイ往復を実行したのだ。
快適な空だけの旅を楽しむという趣味
その中の一人が、1日の最多搭乗回数11回で、ANAが過去に販売していた(現在は発売なし)年間300万円で国内線乗り放題航空券「プレミアムパス」を購入して1年間で最高1018回飛行機に乗った体験談を描いた「パラダイス山元の飛行機の乗り方」などの著者であるマンボミュージシャンのパラダイス山元さんだ。発売初日にマイル利用の特典航空券でA380の初便を往復予約した。成田空港で話を聞くと第一声は「快適な空だけの旅に行ってきます」だった。ハワイに行くことが目的ではなく、真新しいA380のANA初便に乗るということが最大の目的であるので、ハワイに滞在する理由はなく、空を飛んでいる時間だけで旅が完結するのだ。
パラダイス山元さんは、過去にもANAが2011年に世界で初めてローンチカスタマー(最初に発注して最初に運航する航空会社)となったボーイング787型機の初便にも搭乗しているほか、ANAの新規就航路線の初便にも数多く搭乗している。国内線での新しい機体が導入される際や新路線の就航においては乗った便で再び出発地に戻るファンの光景は珍しくなかったが、国際線、それもハワイ便でも乗った便で出発地に戻るという「弾丸飛行機旅」を楽しむ人が10人近くいたというのは驚きだ。
ダイヤモンドヘッドは飛行機のガラス越しに
今回のフライト中、パラダイス山元さんは眠らずにずっと起きており、A380型機を体感して約7時間のフライトでホノルルに到着したが、ハワイの観光スポットであるダイヤモンドヘッドも飛行機のガラス越しに見たそうだ。日本から到着したホノルル便の乗客は、乗り継ぎの有無に関わらず入国審査をしてアメリカに入国する必要があり(国によっては単純往復の弾丸飛行機旅では入国しないで折り返しが可能な場合もある)、パラダイス山元さんも含めて乗ってきた便の折り返し便で帰る人も入国審査場へ向かった。
A380型機ということで500人以上が今回搭乗したが、この日のホノルル空港の入国審査は比較的スムーズで飛行機を降りてから30~40分程度で通過できたので、3時間の折り返し時間(乗継時間)も問題なかった。パラダイス山元さんは、アメリカに入国して到着ロビーを出てから、出発ロビーの保安検査場を通過するまで実質約20分。保安検査通過後はもう1つの「弾丸飛行機旅」の目的である真新しいANAのラウンジへ消えていった。
趣味を大切にしながらも家族サービスは怠らない
その他にも40代の飛行機が大好きな男性会社員Aさんも弾丸飛行機旅を楽しんだ一人だ。発売日に初便の予約できずに諦めていたが、毎日ANAのホームページにアクセスしていたところ、初便の1週間前に若干数の空席が出たことで、マイルを使って特典航空券の予約ができたのだ。Aさんの場合は、妻と子供二人の家族4人生活で、基本的には週末は家で家族と過ごすライフスタイルだ。初便フライトに乗るのが飛行機の醍醐味でありながらも、土日2日間を家に不在にしたくないという事情もあり、今回の弾丸飛行機旅であれば金曜日の夕方に出発後、土曜日の夕方には家に戻れるので、日曜日は1日家族と過ごす家族サービスの時間となる。
飛行機にはお金を使えるがホテルには使いたくないから弾丸
加えて、飛行機にはお金を投入できるが、ホテルにはお金はかけたくないと話す。これは同じく弾丸飛行機旅をした別の男性会社員Bさんも話していたが、飛行機に乗ることが趣味であり、決して旅行がしたい訳ではないのでホテル代はもったいないそうだ。飛行機の場合は、マイレージプログラムで貯めたマイルを使うことで航空券代を抑えることが可能な点も大きい。
実際に40代の男性会社員Aさんは、エコノミークラス席に追加料金を支払うことで、エコノミークラスのレッグレスト部分を上げて3席もしくは4席シートがベッドになるカウチシート「ANA COUCHii」を予約した。Aさんの場合は5万9000円の追加料金(3席シートを1名で使う場合の料金)が航空券(特典航空券)と別にかかったが、そのことは全く気にならなかったそうだ。実際にカウチシートでの移動は快適だったようで、満足した顔でホノルル空港に降り立っていた。
関連記事:ハワイへの空旅を変える?ANA、少額追加で乗れるファミリー層への切り札「カウチシート」でJAL追撃へ(2018年12月29日掲載)
近年、飛行機に乗るだけという趣味を堂々と言えるようになった
旅行はせずに飛行機を純粋に楽しむという趣味について、パラダイス山元さんは「飛行機に乗るだけという、なかなか人には言いづらい趣味が最近では(飛行機に乗るだけという趣味を持つことが増えたことで)堂々と言えるようになった」と解説する。「飛行機に乗っている時間が好きなので、トラブルや予期せぬイレギュラー、天候不良などによるダイバート(目的地以外の代替空港に着陸すること)も含めて好き」とホノルルから成田へ戻る便の出発前に話した。大好きな飛行機に乗るという趣味が達成できれば、ほぼ日帰りでも勿体ないと言葉はないのだ。
飛行機の場合は、マイレージプログラムの上級会員を目指す「マイル修行」という言葉もあり、飛行機に乗ることが目的の利用者も増えているが、初便に乗るということも新しい1つの趣味であることを今回のフライトで実感したのであった。