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埼玉県出身力士初の優勝見えた? デニーズ朝霞駅前店を愛する大栄翔 その強さの秘密

飯塚さきスポーツライター
写真:毎日新聞社/アフロ

埼玉県朝霞市出身の大栄翔。彼の活躍によって、「埼玉県出身力士初の優勝」も見えたといっていいだろうか。

七日目を終えて全勝。単独トップに躍り出た。頭で低く当たると同時に腕を伸ばし、武器である突き押しを繰り出して相手を圧倒。連日、息をのむような強さを見せている。

場所前に見せた「気合」を体現

好調の関脇・隆の勝と対戦した七日目は、立ち合いで思い切りぶちかました。どっしりとした隆の勝をも一気に土俵際へ追い込み、そのまま押し出し。初日から3大関を撃破し、この隆の勝戦で役力士を全員破る結果となった。

1991年秋場所に、平幕だった若花田が同様の偉業を成し遂げたが、若花田の場合は貴乃花や貴闘力といった同部屋の力士がいたため、出場していた全員の役力士と当たったわけではなかった。その点では、全役力士と対戦して勝利したという記録は珍しく、名誉なものになったといえる。

開催が危ぶまれた今場所。場所前に何名かの力士たちとやり取りするなかでは、やはりコロナ禍での開催に不安を口にする者が多かったが、大栄翔だけは違った。「頑張ります!」と、一人意気込みを送ってくれたのだ。ほかの力士たちと同じく不安を抱いていた筆者も、これには「頑張ってください!」と返さざるを得なかった。

あの日見えた気合が、今場所の土俵でそのまま体現されている。関取の多い部屋で、場所前の稽古も万全だったのだろう。本人も、日々自信をもって臨んでいるように見える。

「愛されキャラ」も土俵上では見えず

普段の大栄翔が、まっすぐで素直な「愛されキャラ」であることを知るファンは多いことだろう。

2年前、埼玉県を盛大に“ディスる”(馬鹿にする)映画『翔んで埼玉』が大きな話題となったことをきっかけに、雑誌の企画で、大栄翔、北勝富士(所沢出身)、阿炎(越谷出身)による「埼玉県出身力士鼎談」を開催した。小さい頃から3人を見てきた浦和出身の筆者が聞き手となり、思い出話に花を咲かせたのだ。

そのなかで、地元・朝霞市の魅力を尋ねたとき、「これ本当なんですけど、朝霞駅前のデニーズが日本で一番おいしいです!まじで一回来てほしい!」と、大真面目な顔でアピールしていたのが微笑ましく、いまも印象に残っている。

そんな「可愛らしい勇人くん」は、本場所の土俵では微塵も見られない。本当に力強く、立派な姿で全国の相撲ファンを魅了し続けている。

「3人のなかから、埼玉県出身力士初の優勝者を出そう」と語り合ったその誓いを、今場所で大栄翔が実現できるか。筆者に大きな贔屓目があることは否定できないが、それを差し引いても、今場所の彼には誰もが期待を抱かざるを得ないといえよう。

中日を迎え、場所もこれからいよいよ後半戦。高鳴る胸を押さえながら、静かに見守る。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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