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その「抗ウイルス・抗菌」はどんな意味? メーカー別の機能と特徴を徹底解説

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
「VIBTEX×emmi」コラボレーション 画像協力:emmi

コロナ禍をきっかけに、「抗ウイルス」や「抗菌」の文字は、マスクの機能表示でよく目にするようになりました。もともとは医療や精密機械の世界で使われていた技術が一気に身近な存在に。近ごろはファッションアイテムにも広がりつつあります。でも、実はメーカーごとに技術や効果はまちまち。同じ「抗ウイルス、抗菌」をうたっていても、かなり特徴が異なるのです。

日本の繊維メーカー各社は抗ウイルス・抗菌のテクノロジーを足早に進化させています。今回は、そうした抗ウイルス・抗菌機能を生かしたファッションに注目。意外にも違いの大きい、それぞれの特徴や強みを整理してみました。衛生面が気になる梅雨時を迎えて、「安心・安全」を意識した服選びの参考になればと思います。

抗ウイルス素材「VIBTEX」を「emmi」のeco Fabricにのせたスペシャルコレクション第2弾が発売。 画像協力:emmi
抗ウイルス素材「VIBTEX」を「emmi」のeco Fabricにのせたスペシャルコレクション第2弾が発売。 画像協力:emmi

「snidel(スナイデル)」「gelato pique(ジェラート ピケ)」などの人気ブランドを持つ「マッシュスタイルラボ」が抗ウイルス仕様のファッションに乗り出しています。レディースアパレルとヨガウェアを展開する傘下ブランドの「emmi(エミ)」は、日本初の抗ウイルス・トータルウエアブランド「VIBTEX(ビブテックス)」とコラボレーション。サマーコレクション第2弾を4月に発売しました。

ワンピース、スカート、ロゴTシャツの3型を用意しました。抗ウイルス機能を備えながら、フェミニンなシルエットや楽な着心地を備えていて、伸びやかな装いに整えやすいデザインです。

ウイルス対策が「新たな日常」のスタンダードに ヤギ(YAGI)の「ビブテックス」

抗菌性を備えた「VIBTEX」は、「ウイルスと戦う、すべての世界市民を守る服」がコンセプト 画像協力:ヤギ
抗菌性を備えた「VIBTEX」は、「ウイルスと戦う、すべての世界市民を守る服」がコンセプト 画像協力:ヤギ

「ビブテックス」は全てのアイテムが抗ウイルス素材でできているブランドです。ブランド名は「VIRUS BLOCKING TEXTILE」の頭文字に由来。アイテムの色は清潔感がある白で統一しているのが特徴です。繊維商社のヤギがプロデュースしています。1893年に創業し、125年を超える歴史を持つ、繊維業界の老舗です。

ヤギのマテリアル事業本部第三事業部315課の卜部司課長に「ビブテックス」の特長を聞きました。

Q: 「ビブテックス」に施されている抗ウイルス加工とはどういったものでしょうか?

A: 天然ミネラル(鉄、カリウム、アルミニウム、チタンなど)が空気中の水分と反応し、OHラジカルという分子を生成します。そのOHラジカルの強力な酸化力で繊維上の特定のウイルスの数を減らし、細菌の増殖を抑制します。

Q: 「抗菌」と「制菌」との違いは何でしょうか?

A: 「抗菌」とは、生地表面上の細菌の増殖を抑制することです。時間が経てば増殖します。「制菌」とは、生地表面上の細菌をそれ以上増やすことなく、菌数を減少させることです。

Q: 「ビブテックス」を使っている他ブランドからの評判はいかがですか。

A: マッシュスタイルラボの「エミ」ブランドは売り上げが好調だと聞いています。新型コロナウイルスの影響で、抗ウイルス、抗菌機能に対するニーズは高まっています。衣服に付着したウイルスをできる限り自宅に持ち帰りたくないというニーズは少なからずあるのだと思います。機能性が付加されていることは購買の後押しになっているようです。

Q: 消費者は今後、抗ウイルス・抗菌機能を持つ繊維を求める意識が高まっていくと思いますか?

A: 今後もウイルスや菌に対する意識は高まっていくと思われます。新型コロナが落ち着いたとしても、ニーズとしては継続すると感じています。一度、こういう経験をすると、ウイルス対策をする生活スタイルがスタンダードになると思います。

卜部氏が語るように、抗ウイルス・抗菌機能を高める加工はますます浸透し、日常の装いになじんでいくようになっていくのかもしれません。

独自技術で競い合う 繊維メーカー・商社の様々な「抗ウイルス」アプローチ

国内の繊維メーカー・商社からはそれぞれの技術を生かした抗ウイルス繊維が相次いで開発されています。独自の研究開発に基づくだけに、ウイルスや細菌と立ち向かう技術や効果は一様ではありません。それぞれの持ち味を知れば、目的に見合った賢いチョイスが可能になりそうです。

■シキボウ 抗ウイルス加工「フルテクト」

日本を代表する人気ブランドに採用される素材も現れました。「ANREALAGE(アンリアレイジ)が2021年春夏コレクションで用いたのは、シキボウの抗ウイルス加工「FLUTECT(フルテクト)」を施した生地です。メディカルテクノロジーをファッションに融合させ、人を守ることを実現するコレクションを支えました。ロックバンドの「サカナクション」が「アンリアレイジ」と共同で制作したTシャツやマスクなどのアイテムにも「フルテクト」を使用。新型コロナウイルスにも効果が確認されている「フルテクト」はマスクや防護服、ユニフォームなど幅広い繊維製品に採用されています。

■東レ 抗ウイルス加工「マックスペックV」

東レの「MAKSPEC V(マックスペックV)」は抗ウイルス加工の耐久性を高めたポリエステル素材です。新型コロナのように、外側に脂質膜(エンベロープ)のあるウイルスに効果があり、エンベロープを破壊することによって、ウイルスの数を減らす効果が期待できます。

■クラボウ 抗ウイルス加工「クレンゼ」

倉敷紡績(クラボウ)の「CLEANSE(クレンゼ)」は抗ウイルス・抗菌機能を持たせる繊維加工技術です。繊維上の特定のウイルス(エンベロープ有・無の両方)の数を99%以上減少させ、特定の細菌の増殖を抑制。新型コロナを含む、約20種類の微生物やウイルスに対する効果を確認しているそうです。

■豊島 抗ウイルス加工「リピュール」

繊維商社の豊島は抗ウイルス・抗菌機能を持たせることができる「Repur(リピュール)」加工を施した商品を手がけています。薬剤を使って、繊維を後加工することによって、機能を付加する仕組みです。

■小松マテーレ 抗ウイルス加工「エアロテクノ」

マスクのヒット商品「ダントツマスクール」で知られる、化学素材メーカーの小松マテーレの強みは抗ウイルス加工素材の「AEROTECHNO(エアロテクノ)」。光触媒技術や特殊吸着剤を組み合わせた独自技術です。新型コロナウイルスへの効果も確認済み。マスク関連商品からスタートしているところも、頼もしく感じられます。

抗菌の上を目指す「制菌」に注目! モリリン(Moririn)の「ビオシールド」

災害キットで社会に寄り添う「MIZICA PROJECT」 画像協力:モリリン
災害キットで社会に寄り添う「MIZICA PROJECT」 画像協力:モリリン

創業360年の歴史を持つ老舗繊維専門商社のモリリンは、「大切なひとや時間、そして場所をまもるためのお手伝いがしたい」という思いから立ち上げたプロジェクト「MIZICA PROJECT(みじか プロジェクト)」に取り組んでいます。抗菌にとどまらない制菌剤・加工プログラムの「BIO SHIELD(ビオシールド)」は、このプロジェクトの基盤となる技術です。

「みじか プロジェクト」から生まれた防災セットは、災害が起きた際、支援物資として活用される予定です。Tシャツやタオル、マスクなど、被災者がすぐ必要になりそうなアイテムを、かさばらない圧縮パッケージにまとめました。着る人を選ばないジェンダーレスでシンプルなデザインも被災者の状況に配慮してのこと。「ビオシールド」の技術は今後、様々な商品に活用されていく見込みです。

モリリンの営業統括本部 新規事業室 室長の大塚一郎氏に「ビオシールド」の長所やミッションを聞きました。

Q: 「ビオシールド」とはどういった加工でしょうか?抗菌との違いは?

A: 最大の特長は安全性です。原材料の酸化亜鉛は化粧品やサプリメントに使われています。類似商品でも銀やチタン、銅などを使用したものがありますが、亜鉛はもともと人間の体内に存在するので、安心・安全です。

「ビオシールド」は制菌加工の効果で、繊維に付着した細菌を抑制します。臭いの基となる原因菌を99%抑制する制菌剤を使った加工です。この制菌効果の高さが、細菌の繁殖を抑制する「抗菌」との違いです。「抗菌」機能の上位が「制菌」というとらえ方でもよいかと思います。

Q: 災害キットの狙いは?

A: MIZICA PROJECT自体が「制菌加工の認知拡大を通じ、社会・環境に寄り添う取り組み」をキーワードに行っています。弊社の持つモノづくりのノウハウを活用し、賛同頂いている企業様と共に災害支援を行いたいという想いから第一弾としてこの災害キットの取り組みを開始しました。

Q: 制菌・抗菌機能は新たなスタンダードになっていくでしょうか?

A: 制菌・抗菌機能は広がると考えています。その機能があるから買うという考え方よりも、「その機能がないから買わない」と消費者が思うような機能になることが、「みじか プロジェクト」の理想の姿かもしれません。

大塚氏が語るように、自分の健康・安全を自ら守るという意識はこの先、服を選ぶ際の「ものさし」になっていく兆しが見えつつあるようです。

マスクから広がる「抗ウイルス、抗菌・制菌性」繊維

今回、取り上げた事例以外にも、いろいろな抗ウイルス、抗菌・制菌性を備えた商品や技術が登場しています。機能を確かめるには、繊維評価技術協議会が定める品質保証の「SEKマーク」のような第三者の認証・評価を受けているかどうかが一つの目安になるでしょう。公式サイトやプレスリリースなどの記述も信頼性を見極めるうえでの参考になります。

まずは身近なマスクから、こういった機能を確認する買い方を取り入れるといいかもしれません。コロナ禍が一段落しても、健康や安全を守る必要性が薄れることはなさそうなだけに、素肌に触れるマスクや衣類の抗ウイルス・抗菌・制菌性を裏付けるテクノロジーを知っておいて損はないでしょう。

(関連サイト)

マッシュスタイルラボ「emmi」

ヤギ「VIBTEX」

モリリン「MIZICA PROJECT」

シキボウ「FLUTECT」

東レ「MAKSPEC V」

クラボウ「CLEANSE」

豊島「Repur」

小松マテーレ「AEROTECHNO」

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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