耳慣れない「節ガス」 要請検討の背景は? 家庭でできる対策は?
政府による「節ガス」要請の検討が本格的に始まった。ガスの使用量が夏の3倍ほどになる冬場の最需要期を見据え、官民で連携して議論を加速させたい考えだ。
資源を武器に揺さぶりをかけてくるロシアの動きを警戒しつつ、夏も冬も綱渡りが続くエネルギー需給にどう対処すればいいのか。
まだ耳慣れない「節ガス」について、現状と展望をまとめた。
翻弄されるドイツ
このたび「節ガス」制度の検討が始まった背景には、日本企業が持つサハリン2に対するロシア側の事実上の「接収」など、極めて不安定な情勢がある。ロシアの強硬姿勢を受け、日本政府の危機感は一段と強まっている。
注視しているのはドイツの対応だ。
ウクライナ侵攻後のロシアは、関係が悪化する欧州各国に対し、従来行ってきたガス供給を縮小・停止するなど、資源を武器に強硬策に打って出ている。
その煽りを最も受けている国の一つがドイツである。ドイツはこれまでガス輸入量全体の過半をロシアに頼っていた。特にその生命線とも言えるのが、ロシアからバルト海を通じてドイツまで延びる海底ガスパイプライン「ノルドストリーム」だ。
ロシアからの供給減を踏まえ、ドイツ政府は3月末に「ガスに関する緊急計画」のレベル1、「早期警戒(early warning)」を発令した。2019年に計画が発表されて以降、初の措置となった。
計画では、レベル1の「早期警戒」、レベル2の「警報(alert)」、レベル3「緊急(emergency)」の3段階がある。
3月の早期警戒の発令を受け、関係省庁やガス事業者が危機管理チームを結成した。その一環で、連邦ネットワーク庁では「Gas flows from Russia」として、ロシアからの供給状況の「日報」を日々ホームページ上で更新している。
さらに、ロシア国営ガス会社・ガスプロムは6月に入ると、ノルドストリームの供給量の6割削減を強行した。その急減ぶりはグラフから一目瞭然だ。
これを受け、ドイツ政府は6月23日に「ガスに関する緊急計画」に基づき、警戒レベルを「早期警戒」からレベル2の「警報」へと引き上げた。
さらに追い打ちをかけるように、ノルドストリームによる供給が7月11日、完全に止まった。運営会社による定期検査が理由とされているが、真偽のほどは定かではない。ロシア側が供給を止め続けるとの疑惑も浮上し、ドイツ側は警戒感をあらわにしている。
仮にレベル3の「緊急」が発令されれば、ガスの供給に政府が介入する。連邦ネットワーク庁が病院など優先度を決めてガスの配給を采配することになる。
サハリン危機
日本もドイツの状況を対岸の火事と見るわけにはいかない。
サハリン2のほか、経産省も携わるサハリン1など、日本勢が権益を持つガス事業は複数ある。
いずれもロシア側の意向で権益が移ろいかねない危うい状況が続く。「節ガス」要請の検討は、最悪の想定でこの冬に臨まねばならない切迫感の表れでもある。
このたび検討されている「節ガス」の対応案も、数値目標を設けない第1段階から逼迫して深刻な第3段階までで、ドイツと同じ3ステップに分かれる。
知恵持ち寄るガス各社
それでは具体的に節ガスはどういった対策ができるだろうか。
今回の検討では、
といった論点が出ている。
例えば、東京ガスは「ウルトラ省エネブック」という対策集を以前から作成しており、「リビング編」、「キッチン編」といった具合に、さまざまな省エネ対策をまとめている。
例えば、「お風呂のふたを閉める」「ひとり1分シャワーの時間を短縮する」といった行動でどの程度の省エネ効果、「節ガス」効果があるのか、イラストや数値で分かりやすく伝えている。
このほか、大阪ガスは「かしこいくらしのヒント図鑑」として、リビング、バスルーム、キッチンごとに省エネのちょっとしたコツを紹介している。東邦ガス「くらしのecoスタイル」、京葉ガス「省エネ・節電ガイドブック」などもあり、こうした各社の事例を一覧的に見られる仕組みをつくり、知恵を出し合おうという狙いだ。
また、ガス会社は電力の自由化で電力事業を強化する中、節電を呼び掛ける機会も増えている。
東京ガスは節電に応じてポイントがもらえるキャンペーンをPRするなど積極的だ。節ガスが広まるにつれ、「節ガスポイント」の施策も検討されていくだろう。
家庭需要は25%
今の政府も企業も家庭内でできる「節ガス」例の紹介が多い。ただ今後は家庭外、すなわち、工業用や商業用で行うべき節ガスも注目されていくはずだ。
日本ガス協会の資料「都市ガス事業の現況2021-2022」によると、都市ガスの需要は60%弱が工業用、約25%が家庭用、10%弱が商業用となっている。
排ガスがクリーンで低公害の天然ガス自動車(NGV)のバスを導入している自治体や、電気式より短時間で乾くガス式の乾燥機を置くコインランドリーなども、節ガスの余地がある対象となり得る。
冬場、特に北海道や東北の寒冷地では、秋口から暖房機器を使う企業や家庭も少なくない。早いところで10~11月からファンヒーターなどの暖房需要、ガス需要が高まってくる。
それまで半年もない。その間、ロシアがどう出てくるかも読めない。最悪の想定をしつつ、備えを尽くすしかない。厳しい冬になりそうだ。