Chim↑Pomが森美術館で個展を開催。美術館への異議申し立ても含む、人騒がせな展覧会
またもやChim↑Pomが、やらかした。
Chim↑Pomとは、2005年に東京で結成されたアーティスト集団。そして目下、森美術館で開催中の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」は、まことに人騒がせな展覧会である。
というのも、美術館の展示室に入る前の段階から波乱含みだからだ。
展示室手前のエントランスには、託児所がお目見え。このところ、ベビーカーの貸出しや授乳室のある美術館や文化施設が増えつつあるが、誰の目にも触れる場所に堂々と、いや、ぬけぬけと託児所を構えるのは前代未聞である。
しかも、この運営はクラウドファンディングで資金調達される。つまり、多くの人々の声と意志で成り立つ仕組み。したがってこの託児所は、子育て世代も美術館を満喫できるようという目論みだけにとどまらない。「美術館はーっ、託児所をーっ、用意しろーっ!」という大きなシュプレヒコールとしても響き、美術館への異議申し立ての一面でもあるのだ。なんとも人騒がせな!
美術館の中に猥雑な都市の混沌を持ち込む
そして最初の展示室も、いきなり圧巻である。天井が高いことで知られる森美術館の展示室に新たに床をこしらえ、2層に分けたのだ。
下のフロアは随所に建設工事用の単管パイプが組まれ、すっきりした動線なんか知るもんかっ!と言わんばかりにごちゃごちゃと作品を設置。迷子になるような空間に仕立てた。
さらに上のフロアはアスファルトで舗装。階段やはしご、スロープで上下を行き来できる仕掛けだ。
つまりChim↑Pomは、美術館の中に都市の混沌を持ち込んだのだ。
しかも、かの六本木ヒルズの最上層にある美術館に、裏通り的で猥雑な街の匂いを漂わせるかのように。なんとも人騒がせな!
なお、活動初期のChim↑Pomは、渋谷でねずみを捕まえてピカチュウみたいな剥製にしたり、渋谷の空にカラスを大量発生させたり、出発点はストリートにあった。そして、その後もたびたび都市の問題を作品に取り上げ、それは現在も一貫している。
よって、この一室目の展示で、初期から現在にかけてのChim↑Pomの活動を凝縮したと言える。
ヒンシュクを買ってきたChim↑Pomの表現
なお、Chim↑Pomはお騒がせ集団としてヒンシュクを買ってきた面もある。
その一例は《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009年)で、タイトルどおり、広島の原爆ドーム上空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を浮かばせる作品だ。同作に対して数多くの被爆者は怒りや嘆きを覚え、被爆者ならずともChim↑Pomを非難する声が絶えなかった。
だがChim↑Pomは、この作品を「なかったこと」にはしなかった。今回は、糾弾する新聞の論評を含む資料とともに同作を展示。また、この作品に続く、広島を題材とした一連の作品も展示されている。
それから、東日本大震災も、Chim↑Pomが関心を持ち続けるテーマのひとつだ。
たとえば、《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》(2011年)は、井の頭線の渋谷駅の連絡通路内にある岡本太郎の巨大壁画に、Chim↑Pomが落書きをした作品。第五福竜丸の被爆をテーマとした壁画のすみっこに、福島第一原子力発電所の事故の模様とドクロ型の黒煙が描かれた絵を貼り足したのだ。
こちらも当時、世間を騒がせたものである。そしてその後も、Chim↑Pomは折に触れて東北に出かけ、多種多様な作品やプロジェクトを繰り出し続けている。それらの作品も本展で見られる。
つまり、ひとつの作品だけを取り上げて、あーだこーだと言っても始まらない。その後の作品も見た上で判断しろとChim↑Pomは見る者に挑発する。
このように「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」には、結成から17年間の活動を網羅する展覧会である。
だが、回顧するのが目的ではなさそう。これからのChim↑Pomがどのような展開を見せつけるのか、本展はその手がかりとなりそうだ。
会期:2022年2月18日(金)〜5月29日(日)
時間:10時〜22時(火曜のみ17時まで)
会期中無休
会場:森美術館
料金:[平日]一般1800円(1600円)、学生(高校・大学生)1200円(1100円)、子ども(4歳~中学生)600円(500円)、シニア(65歳以上)1,500円(1,300円)
[土・日・休日]一般2000円(1800円)、学生(高校・大学生)1300円(1200円)、子ども(4歳~中学生)700円(600円)、シニア(65歳以上)1700円(1500円)
※本展は事前予約制(日時指定券)を導入。専用オンラインサイトでチケットを購入するとカッコ内の料金となる
※当日、日時指定枠に空きがある場合は、事前予約なしで入館可能
冒頭の画像は、
Chim↑Pom 《ヒロシマの空をピカッとさせる》 2009年 Courtesy:ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京) 撮影:Cactus Nakao