Yahoo!ニュース

鶏だしに生しょうがの味が香る唯一無二のつゆ…東京御徒町「鶏だしそばうどん 三丁目」

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
「鶏だしそばうどん 三丁目」(筆者撮影)

 東京近郊にある立ち食いそば屋のつゆを調べてみると、鰹節系のだしとムラサキのきれいな濃口醤油の返しを合わせた「関東風つゆ」が圧倒的に多い。

 昆布・イリコのだしと薄口醤油の返しを合わせた「関西風つゆ」も、関西うどん文化の流入により提供する店も増えている。

 関東風のつゆは鰹節系のだしを使うのが一般的だ。ところが、この鰹節系に鶏だしを加え、さらに生しょうがの味が香る面白いつゆを提供している店が東京都内に1軒ある。御徒町にある「鶏だしそばうどん 三丁目」である。

もともとラーメン屋を経営し鶏だしの扱いは日常茶飯事

 「鶏だしそばうどん 三丁目」は2020年1月の開業である。高齢の店主と奥さんの2人で店を切り盛りしている。

 店主はそれまで秋葉原駅東側の東京都千代田区神田和泉町でラーメン屋を18年間経営していた。つまり鶏だしを使ったラーメンを作るのは「お手のもの」だったわけである。

 再開発で立ち退き後、新店舗を探したが、厨房も狭く立ち食いそば屋をやることにしたという。しかし、店主はそば屋になっても作りなれた鶏だしを使ってみようという心意気で今の鶏だしのつゆを完成させたという。しかもこのつゆは生しょうがの味がほんのりと香る唯一無二の味である。

これが鶏だしが香る「げそ天そば」(筆者撮影)
これが鶏だしが香る「げそ天そば」(筆者撮影)

御徒町から昭和通りを渡り交番ヨコをまっすぐ

 店はJR山手線御徒町駅の南口を東側に出て昭和通り方向へ進む。御徒町交番のある交差点を渡り、そのまま進むと右手に黄色い看板の店舗が現れる。駅から7-8分程度。間口は狭く縦長構造で、奥にテーブル席、手前にカウンターがある。

昭和通りの交番の路地を直進すると右手にある(筆者撮影)
昭和通りの交番の路地を直進すると右手にある(筆者撮影)

細長い構造の店内(筆者撮影)
細長い構造の店内(筆者撮影)

入口にはメニューがぎっしり(筆者撮影)
入口にはメニューがぎっしり(筆者撮影)

 店内にはメニューがたくさん貼られている。常連客だろうかひっきりなしに入店してくる。トッピングの天ぷらもたくさんそろっていてなんだか賑やかである。

「朝そば」や「げそ(下足)天そば」が並ぶメニュー(筆者撮影)
「朝そば」や「げそ(下足)天そば」が並ぶメニュー(筆者撮影)

ねぎ

「かき揚」や「げそ天」などのトッピング(筆者撮影)
「かき揚」や「げそ天」などのトッピング(筆者撮影)

まずは「げそ天そば」を食べてみた

 人気メニューのベスト3はその日の海鮮天を3点選んだ「海鮮天そば」、「かき揚げそば」、「げそ天そば」。さっそく「げそ天そば」(500円)を注文してみた。

 すぐに登場した「げそ天そば」には、ゆで玉子半分とねぎ、そして大きなげそ天がのっている。うわさの鶏だしのつゆをひとくち。ふくよかな丸味のある上品な味で驚いた。そしてその後から生しょうがの味が追いかけてきて、味をスッキリとまとめている。

 昔、秋葉原にあった「ラーメンいすず」の味を思い出した。決して同じではないが、しょうがと鶏だしと濃口醤油の要素が重なっているのだろう。けっしてパンチのあるつゆとかではなくマイルドだがしっかり主張しているような味である。

 そばは大手製麺所の茹麺を使用しているが、やや太めのそばとの相性がなかなかよい。「げそ天」は香ばしく大きくて食べごたえがある。ゆで玉子はかつてラーメン屋だった名残のような雰囲気もある。

なみなみと鶏だしつゆが入っている(筆者撮影)
なみなみと鶏だしつゆが入っている(筆者撮影)

「冷しげそ天そば」のつゆは絶品

 店主が「冷しもおいしいよ」というので、別の日に「冷しげそ天そば」(530円)を頼んでみた。こちらは「げそ天そば」と同じ構成に若芽がのり、冷たい鶏だしのつゆがかかったもので、わさびがついて登場した。さてつゆをひとくち。この冷しのつゆは抜群にうまい。なかなかよいアイデアの一品だ。あえて言うのなら山形県で有名な「冷たい鶏そば」のつゆのような雰囲気がある。『煮込んだ鶏肉をのせて食べてもうまいだろう』と妄想を考えてしまうのは私だけではないだろう。

「冷しげそ天そば」はつゆがうまい(筆者撮影)
「冷しげそ天そば」はつゆがうまい(筆者撮影)

大人気の「海鮮天そば」は天種が3つ

 大人気の「海鮮天そば」はその日の海鮮天が3つのって500円とお得な値段である。この日は「えび天」、「イカ天」、「アジ天」の3種類がのって登場した。この海鮮天と鶏だしのつゆがなかなか良い具合にマッチしている。なんだか不思議な感覚に包まれる。こちらもゆで玉子がいいアクセントになっている。

大人気の「海鮮天そば」はその日の海鮮天が3つのって500円(筆者撮影)
大人気の「海鮮天そば」はその日の海鮮天が3つのって500円(筆者撮影)

「かき揚げそば」も生しょうがの香る鶏だしつゆとよく合う

 また、後日「かき揚げそば」(430円)を食べてみたが、こちらの大きなかき揚げとそばと生しょうがの香る鶏だしのつゆが絶妙のバランスであった。

「かき揚げそば」とこのつゆがよく合う(筆者撮影)
「かき揚げそば」とこのつゆがよく合う(筆者撮影)

鶏だしつゆ1つでそばとラーメンの境界がせばまったように感じる

 ここまでくると、そばつゆとラーメンつゆの境界がわからなくなるような、むしろせばまったように感じられる。『ラー油や胡椒をかければラーメンに近い要素も出てくるし、麺を中華麺にすれば』などとさらなる妄想にかられてしまう。店主に中華麺を扱わないのか聞いてみたところ、「細麺でも茹でる時間が1分以上かかるから提供が遅くなって順番がずれてしまったりするし、厨房もスペースが足りないんだよね」とのこと。今後の楽しみにとっておこうと思う。

 しかし、そんなこともすべて包み込んだような店主と奥さんの掛け合いがいい雰囲気を醸し出している。他店がやっていない「鶏だしのそば」を自然体で扱っているのがとても心地よい。

 自家製の「おにぎり」や「いなりずし」もいいアクセントになりそうだ。今度は鶏だしが合いそうな「とり天そば」や「カレーそば」を食べに来ようと思う。

自家製の「おにぎり」や「いなりずし」もそろっている(筆者撮影)
自家製の「おにぎり」や「いなりずし」もそろっている(筆者撮影)

「鶏だしそばうどん 三丁目」

住所 東京都台東区台東3-42-7

営業時間 月~金 6:00~14:00

定休日  土日祝

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

坂崎仁紀の最近の記事