Yahoo!ニュース

イスラーム過激派の食卓:「イスラーム国 西アフリカ州」の児童教育

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
タイトル写真:2024年12月20日付「イスラーム国 西アフリカ州」

 各方面で「復活」の可能性が喧伝される一方で、広報活動は相変わらずさっぱりな状態のままの「イスラーム国」から、久しぶりに動画が発信された。「イスラーム国」の広報活動場裏では、同派が直接製作・発信する作品から、同派のファンや支持者たちによる二次創作や独自の作品まで様々なものが毎日飛び交っているが、ファンや支持者の作品からは同派の関心事やメッセージをうかがい知ることができないので、これらを眺めるのは結構面倒だ。2024年12月20日、「イスラーム国 西アフリカ州」名義で、「勝利の世代#2」と題する30分弱の動画が発信されたのは、そうした中で「イスラーム国」が自ら製作した久しぶりの作品だ。ちなみに、「勝利の世代」の第一弾は2022年1月18日付で発表されており、こちらについても「イスラーム国 西アフリカ州」の児童教育(≒虐待)と食事風景について駄文を書いたことがあるので、こちらも参照されたい。

 ナイジェリアを中心に活動している「イスラーム国 西アフリカ州」、これまで発信した各種の作品群から、一定の範囲を占拠、統治し、そこから得た(或いは外部から供給される)資源を基にかなり大規模な活動を営んでいることが示唆されている。タイトルの写真の通り、多数の幼児が集められ(≒拉致・監禁され)「イスラーム国」の自制代の担い手として教育(≒虐待)をほどこされているのだが、児童が着用している「制服」も目出し帽なのが何とも「イスラーム国」らしい。写真1の通り、教員も目出し帽姿なので、この服装が「イスラーム国」の仲間のしるしとして制度化されていると思うことにしよう。

写真1:2024年12月20日付「イスラーム国 西アフリカ州」20241222yahoo2
写真1:2024年12月20日付「イスラーム国 西アフリカ州」20241222yahoo2

 今般の動画には、教育の責任者を名乗る人物が登場し、教育課程について解説してくれている。それによると、(おそらくアラビア語が母語ではない)児童らは、初歩のアラビア語教育から始め、コーランの朗誦、イスラーム法の学習、戦闘や各種技術教育へと進んでいくそうだ。動画ではお決まりの(?)軍事教練の場面に多くの時間が割かれているが、「イスラーム国 西アフリカ州」が教育機関を運営すると称してから少なくとも数年は経過しているので、「年長組」の児童・生徒はそれなりに体格もいい青少年たちだ。また、児童・生徒たちが学習の成果を発揮(?)してアラビア語で扇動演説をするだけでなく、教練の教官役と思しき大人たちの演説も挿入されるが、興味深いのはこの大人たちのなかに、パレスチナ出身やマグリブ諸国のいずれか(或いはモロッコ)出身であることを示唆する名乗りをしている者がいることだ。かつて「イスラーム国 西アフリカ州」が設置された際、「イスラーム国」はアフリカ出身者にイラクやシリアに来てほしくなかったらしく、合流希望者は「西アフリカ州」へ行くこととのメッセージを発信したことがあったが、現在の「イスラーム国 西アフリカ州」は、本当はアフリカ出身者なんかと一緒に活動したくないアラブ諸国出身者を受け入れるほど勢力が安定しているらしい。彼らがアラブ諸国のどこかに捲土重来を果たす日が来るのだろうか。

写真2:2024年12月20日付「イスラーム国 西アフリカ州」20241222yahoo3
写真2:2024年12月20日付「イスラーム国 西アフリカ州」20241222yahoo3

 写真2は、児童・生徒たちが野外で牛を屠って焼き肉をする場面だ。「ナシード」と呼ばれる楽器を一切使用しない男性のみのコーラスをしながらの場面なので、当該の場面は「イスラーム国 西アフリカ州」の教育機関による余暇かレクリエーション行事のようだ。残念ながら、今般の作品には日常的な食事の場面は出てこなかったので、同派の児童教育(≒虐待)機関での日々の暮らしぶりについての情報は乏しかった。日常的な食事の調理・配布の模様や、児童・生徒たちの収監施設のような、組織の力量を見定める上で参考になる場面は、残念ながら今回の動画には出てこなかった。

 現在、イスラーム過激派はアフガニスタンやシリアで顕在化したように、アメリカやイスラエルや西洋諸国による馴致という、歴史的・文明論的転換期にいる。馴致の実験の中では、例えイスラーム過激派でも西洋諸国の「基準」を満たせば一定の領域で政治権力を奪取することや、支配下の住民に対する政策に一定の裁量権を持つことが許されるようだ。「イスラーム国」もこの馴致の過程に参加したがっている節がみられる。ただし、今般の動画を見る限り、動画は「いつも通り」少年兵が捕えた敵を処刑するスプラッター場面で一杯だったので、そういう意味では「落第作」と言えるだろう。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

髙岡豊の最近の記事