シャーム解放機構って何?これからシリアはどうなるの? #専門家のまとめ
シリアで政権を「打倒」し、同国の領域の広範囲の支配権を奪取した勢力の主力は、シャーム解放機構を名乗り、外国起源の諸派も従えるイスラーム過激派です。彼らは何者で、これからのシリアはどうなるのでしょうか?
ココがポイント
エキスパートの補足・見解
シャーム解放機構は、イドリブ県などを占拠している際も「救国政府」なる行政機関を設置し、その「政府」を通じて行政サービスを提供したり、各種の政策を推進したりしてきました。その一方で、治安や警察、宗教についての権限はシャーム解放機構が握り、「救国政府」をフロント団体として、イスラーム過激派としての自派の存在を後景化してきました。このやり方ですと、行政・政策上の不手際はフロントとなる「政府」のせいになり、シャーム解放機構の制圧下の住民が同派の責任を問う制度やメカニズムは用意しなくてもいいことになります。シリア紛争勃発当初に各地に現れた、地域社会・市民社会が草の根的に行政サービスや司法を担おうとした試みは、間もなくイスラーム過激派に負けて急速に衰退しました。シャーム解放機構が国際社会の支持や承認を得ようと、実質的な権力を握ったままフロント的な「政府」の陰に隠れるということは、実はこれまでのシリア政府の非公式な人間関係を通じてなされる政治的権益配分を政府・議会・裁判所に「決定」、「執行」させるという二重構造とたいして変わりがないということです。