Yahoo!ニュース

シャーム解放機構って何?これからシリアはどうなるの? #専門家のまとめ

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 シリアで政権を「打倒」し、同国の領域の広範囲の支配権を奪取した勢力の主力は、シャーム解放機構を名乗り、外国起源の諸派も従えるイスラーム過激派です。彼らは何者で、これからのシリアはどうなるのでしょうか?

ココがポイント

しかし、次に何が起こるのだろうか。HTSはイスラム武装組織アルカイダにルーツをもち、暴力の歴史もある。
出典:BBCNEWS JAPAN 2024/12/9(月)

アメリカと国連はいずれも、HTSを依然としてテロ組織として指定している
出典:Business Insider 2024/12/9(月)

シャーム解放機構の統治の方針や志向が「イスラーム国」やターリバーンと何か違うということは難しい
出典:Yahoo!ニュース「イスラーム統治」がもたらす白黒の世界 2023/8/11(金)

エキスパートの補足・見解

シャーム解放機構は、イドリブ県などを占拠している際も「救国政府」なる行政機関を設置し、その「政府」を通じて行政サービスを提供したり、各種の政策を推進したりしてきました。その一方で、治安や警察、宗教についての権限はシャーム解放機構が握り、「救国政府」をフロント団体として、イスラーム過激派としての自派の存在を後景化してきました。このやり方ですと、行政・政策上の不手際はフロントとなる「政府」のせいになり、シャーム解放機構の制圧下の住民が同派の責任を問う制度やメカニズムは用意しなくてもいいことになります。シリア紛争勃発当初に各地に現れた、地域社会・市民社会が草の根的に行政サービスや司法を担おうとした試みは、間もなくイスラーム過激派に負けて急速に衰退しました。シャーム解放機構が国際社会の支持や承認を得ようと、実質的な権力を握ったままフロント的な「政府」の陰に隠れるということは、実はこれまでのシリア政府の非公式な人間関係を通じてなされる政治的権益配分を政府・議会・裁判所に「決定」、「執行」させるという二重構造とたいして変わりがないということです。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

髙岡豊の最近の記事