浅草伝法院通りで占拠する店舗~本来、どの程度の固定資産税都市計画税が必要?(後編)
後編では、この分析結果に基づき、今後、どのような解決が社会的に望ましいかを検討したいと思います。この際、当事者にも話をうかがいました。
■台東区役所に話を聞いてみた
実は、自転車で移動(前編参照)の小回りを生かして、台東区役所の道路管理課に話を聞いてみました。
報道の通りの「1月17日に訴訟提起をした」という情報の他、「区の記録としては、この区道には店舗部分についても杭などは打ち込まれているとの記録ない」との話をお聞きしました。
また、建築課に聞くと、建物を建築する際に本来は必要となる建築基準法上の『建築確認』の記録は発見できないとのことでした。
実は、そもそもこの店舗が建物と言えるかも疑問なのです。「建物であるか否か」は建築基準法や不動産登記法でその定義が異なるため、明確に定義することは難しいのですが、地面に対する定着性がない場合はコンテナ同様と見なして建物とは言えないとも解釈する余地が考えられます。
本件の場合も、区道に杭が打ち込まれた記録もないため、店舗は「建物ではない、コンテナ類似のもの」という余地が高いとのことでした。
この場合は、建物扱いにはならないので建築確認の問題とはなりませんが、脱法行為の要素は否めず、釈然としないものは残ります。
その一方で、建物の登記が発見できず、その場合は仮に地代の収受がなされていたとしても、借地借家法に基づく借地権が成立しないであろう点も認識できました。
■都税事務所に話を聞いてみた
次に、台東区を管轄する台東都税事務所に話をお聞きしましたが、所有者ではないので具体的な情報は確認できないのは仕方がないのですが、一般論としての見解を伺う意図で店舗の写真を見せても「建物かどうかは写真だけでは判断しかねる」との返答。また、課税対象となる償却資産に該当するかについても回答しかねるとのことでした。
ただ、仮に建物であったとしても、総務省の固定資産評価基準に基づき評価された固定資産税評価額が20万円以下の場合は免税点以下のため、課税されません。
そもそも建物と言えるか相当に微妙である他、万が一、建物扱いであったとしても固定資産税評価額が20万円に届いていなさそうであるため、「建物の固定資産税や、これに連動する都市計画税を逃れている」という状況はないものと推察されました。
■店舗の人にも話を聞いてみた
前編で書いた通り、金曜日中なのにあまり店舗は開いていませんでしたが、辛うじて開いていた店舗の経営者らしき男性に話をお聞きしました。
「みんな生活かかっているからね。ここを出ていけと言われたら困るね」とのコメントでしたが、筆者の印象としては、「難しいことはわからないので、その程度の回答しかできない」と言っているように感じられました。
■では、今後の見通しと、どう解決していくかを考えてみた
ここからは私見です。
①まず、店舗の立ち退きは当然に必要であると考える
店舗を構える場合、最低でもその店舗の土地・建物の固定資産税(・都市計画税~都市計画税については地方の過疎地では課されない場合もある)の負担があるはずです。
賃借の場合は当然、地代ないし家賃に固定資産税等も含む形で店舗を構える者が負担する形となります。
税務の基本的な思考として、租税平等主義というものがあるのですが、現状はこれらの店舗だけが「実質的に固定資産税都市計画税を免れている」状態と言え、少なくとも今後についてこれを免れるのは許されないでしょう。
実際問題としても、周囲の店舗はきちんと税の負担をしているのに、「なんであそこだけ・・・」という感情は抱いても不思議ではないと思います。
②道路の痛みは大丈夫か?
上記の側溝によりかかる写真を見てもわかる通り、「道路に通常は予定していない重い物が置いてある」ことにより、道路そのものが損傷していく面も無視できないでしょう。
地面の下がどうなっているのかは不明ですが、仮に道路の下に何等かの管や構築物がある場合、これらが傷んでいて色々と支障をきたす場合すら考えられなくはないです。また、少なくとも道路の舗装も長年、修理ができていないこととなります。
そもそも区道は、公共のものであり、占用許可が得られない限り、特定の者が占用することは許されません(道路法32条)。そして、その占用許可に際しては許可基準があります(道路法33条)。
法的背景も当然に考える必要があるでしょうが、それと同時に占用許可に際しては道路管理等の支障の有無も考えるべきでしょう。けれども、これらの適切性が担保できていない以上、道路に万が一の傷みが生じた場合は、道路を利用する社会全般が迷惑を被る可能性があるため、早急な対応が必要なことは言うまでもないでしょう。
そして、このような背景は何も伝法院通りのみに言える話ではなく、もし全国のどこかに同様の占用の類例があれば、その場所においても同様の点が指摘できることも忘れてはならないでしょう。
③最低でも過去の固定資産税都市計画税の累積分相当は、実質的な課税の公平の観点から何らかの形で精算の必要はあると考えられる。
前編で語った通り、仮に6平米程度の土地の占用があったとすると、令和3年現在、79,000円/年の固定資産税都市計画税が店舗1件につき本来はあることとなります。
そして、浅草の地価は過去はもっと低かったため、45年間の固定資産税都市計画税の累積分は79,000円/年×45年→3,555,000円よりは低いと考えられるものの、占用料は「固定資産税都市計画税の税額『+α』」であるため、結局は2~3百万円程度以上の過去の占用料の請求が台東区から1件ずつに対してなされる余地は考えられなくはないでしょう。
正確な新規適正地代の評価は不動産鑑定士の鑑定評価に依拠することとなりますが、不動産鑑定評価基準の構造を考えても、新規適正地代の評価額は固定資産税都市計画税以上の額になるはずです。
正直、所有者たる区が「どいてください」と言っているのに、対価すら払っていない状況で占用権を主張して「いやです」というのは、個人的には無理があると思います。
昭和52年当時の区長(故人)が「今まで通り営業できるようにする」と言っていたとのことですが、それを記録した書面があるならまだしも、それすらない状況下であれば、それが本当かという点にも疑問が残ります。
第一、仮に当時の区長がそのような発言をしたのであれば、その契約書なり覚書なりを「便宜を受ける側」が書面にて記録として保管すべきです。それを怠った時点で手落ちがあった点を指摘せざるを得ません。
ただし、実務的なことを言うと、早期の立ち退きを前提に過去の占用料を免除ないし減免する余地はあると思います。
区としても、いつまでも道路管理ができないのも疑問ですから、現実的な落としどころとして、占用料相当は減免ないし免除し、場合によっては店舗の処分費用も面倒を見て退去という線はなくはないと思います。ただ、処分費用に税金を費やすのもどうかという面も他の納税者からしたら疑問を禁じ得ない面もあるのですが。
④全国各地の同様な例に対する解決ルール構築の根拠にすべき
筆者も全国すべての不動産を知っているわけではないので、類例がどの程度あるのかは存じあげませんが、同様の不適切な占用事例がないとも言い切れません。
今回の事例は、今後、全国のどこかにあるかもしれない同様の事例の解決ルールの規範になるとも考えられます。その意味でも、本件の解決は他の事例にも適用できるような内容であることが望ましいと考えます。
その際、固定資産税都市計画税を実質的に免れていた面は無視してはならないでしょう。
⑤現実的な線として、営業継続を希望する店舗経営者には斡旋を
自治体は、特定の者の営業に不当に便宜を図ることは許されるべきではありません。
ただ、店舗の経営者の「生活があるからね」との言葉もまた真理であり、不法占用をしていた点は別として、社会に貢献しようと頑張っておられる方々である点は事実です。
ですので、「現状維持の店舗営業」はダメとしても、十分に事業採算性がとれているために、適切な家賃負担を前提として継続営業を希望される方に「区に税金を不当に使わせない範囲」で、「宅建業者と提携しながら、近隣の店舗その他の斡旋の配慮」をすることは必要でしょう。また、そのような配慮をすることが社会的にプラスと言えるでしょう。
個人的にも、「占用はダメ、以上」と突き放すだけではなく、十分に採算が得られているがために家賃を負担してでも営業の継続を希望する店舗経営者に対しては、区側にも税の無駄遣いのない範囲でそのような配慮をしてほしいなとは思います。
以上、筆者の所感を書いてみましたが、これとて絶対の正解というわけではありません。このような問題について、社会全体で考えるきっかけにしてはいかがでしょうか。