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白斑治療の最前線:JAK阻害薬ウパダシチニブの可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【白斑とは?症状と従来の治療法】

白斑は、皮膚の一部が白くなる自己免疫疾患です。メラニン色素を作る細胞が破壊されることで、肌の色が失われていきます。顔や手足など、目立つ部分に現れることが多く、患者さんの生活の質に大きな影響を与えることがあります。

従来の治療法としては、ステロイド外用薬やカルシニューリン阻害薬の塗り薬、そして光線療法などが用いられてきました。しかし、これらの治療に反応しない難治性の白斑も少なくありません。

【新薬ウパダシチニブの登場と作用機序】

そんな中、新たな治療薬として注目を集めているのが「ウパダシチニブ」です。この薬は、JAK1(ジャヌスキナーゼ1)という酵素を選択的に阻害する働きを持っています。

白斑の発症には、インターフェロンγ(IFN-γ)というタンパク質が関与していることがわかっています。このIFN-γの信号伝達にJAK/STAT経路が重要な役割を果たしています。ウパダシチニブは、この経路を遮断することで、白斑の進行を抑え、色素の再生を促す効果が期待されています。

【臨床試験の結果:効果と安全性】

中国の研究グループが行った小規模な臨床試験の結果が報告されました。従来の治療に反応しなかった12名の難治性白斑患者さんに、ウパダシチニブを1日15mgの用量で16週間以上投与しました。

その結果、白斑の程度を示すVASIスコアが平均38.65%改善しました。特に顔の白斑では51.4%の改善が見られ、上肢や体幹では44.6%の改善が確認されました。生活の質を評価するDLQIスコアも平均41.9%向上しました。

副作用については、4名の患者さん(33.3%)で報告があり、最も多かったのはニキビ(16.7%)でした。重篤な副作用は見られませんでした。

この結果は、難治性白斑に対するウパダシチニブの有効性と安全性を示唆するものです。特に顔の白斑に対する効果が高いことは、患者さんのQOL改善につながる可能性があります。ただし、症例数が少ないため、今後さらに大規模な臨床試験が必要です。

日本では、ウパダシチニブは関節リウマチやアトピー性皮膚炎などの治療薬として承認されていますが、白斑に対しては未承認です。しかし、この研究結果は、将来的に日本でも白斑治療の新たな選択肢となる可能性を示しています。

白斑は、外見上の問題だけでなく、心理的な負担も大きい疾患です。新たな治療法の開発は、多くの患者さんに希望をもたらすことでしょう。ただし、自己免疫疾患の治療薬は慎重に使用する必要があります。ウパダシチニブの使用を検討する際は、必ず専門医と相談し、慎重に判断することが大切です。

今回の研究は小規模なものですが、難治性白斑治療の新たな可能性を示す重要な一歩と言えるでしょう。今後の研究の進展に期待が高まります。

参考文献:

1. Su X, Luo R, Ruan S, et al. Efficacy and tolerability of oral upadacitinib monotherapy in patients with recalcitrant vitiligo. J Am Acad Dermatol. 2023;89(6):1257-1259. doi:10.1016/j.jaad.2023.07.1015

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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