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”50歳の統一王者”が誕生間近か 〜IBF、WBA世界Lヘビー級王座統一戦、ホプキンス対シュメノフ

杉浦大介スポーツライター

4月19日 ワシントンD.C./DCアーモリー

IBF、WBA世界ライトヘビー級王座統一戦

IBF王者

バーナード・ホプキンス(アメリカ/55勝(32KO)6敗)

12ラウンド判定(2-1/116-111、116-111、113-114)

WBAスーパー王者

ベイブト・シュメノフ(カザフスタン/14勝(9KO)2敗)

Photo By Kotaro Ohashi

49歳にして王座統一

「ボクシングではない別の競技を見ているみたいですよね」「観客もミュージアムか何かで作品でも眺めているみたいな感じでしたね・・・・・・」

試合後、リングサイドに陣取ったベテランカメラマンとそんな言葉を交わした。 

49歳のホプキンスと30歳のシュメノフとの間で行なわれた統一戦は、最後の2ラウンド以外は手数の少ない時間帯が多かった。会場に陣取った6823人のファンも終盤までは静かなままで、ワシントンD.C.名物の“スミソニアン”と呼ばれるミュージアム群で骨董品でも眺めているような錯覚に陥ったほど。それでも多くのラウンドは老雄が支配し、採点は意外にも2ー1ながら、勝者がどちらかは誰の目にも明らかだった。

「俺は特別なんだ。何でかを説明する必要すらない。(今夜は)素晴らしい夜で、俺は偉大なチャンピオンだ」

そう語ったホプキンスは、実際に3ラウンド以降は軽々とペースを掌握していった。WBA王者を5度も防衛したシュメノフの単調な攻撃を空転させ、ジャブといきなりの右を有効にヒット。11ラウンドには右オーバーハンドを完璧なタイミングで打ち込み、2004年にオスカー・デラホーヤをボディで沈めて以来のノックダウンを記録する見せ場も作った。

エキサイティングではなくとも高視聴率

46、48歳でメジャー団体のタイトルを獲得し、49歳でタイトル防衛を成功と、様々な史上最年長記録を更新して来たホプキンス。ここで史上最高齢でタイトルを統一した選手にもなり、殿堂入り確実のキャリアに新たな勲章が加わった。

そんな歴史的背景が影響しているのか、この夜の統一戦に限らず、ホプキンスの試合には一種独特の空気が漂う。

エキサイティングで劇的な結末が待ち受けていないことは分かっている。手に汗握るような展開にならないことも分かっている。それでもファンは観ずにはいられず、ほぼ確実に判定に持ち込まれるにも関わらず、ホプキンス戦の中継は毎回高視聴率を稼ぐという。

ボクシング界の常識を覆し続ける自称“エイリアン”の進撃は続く。いかにもこの選手らしい老獪なパフォーマンスでDCの夜に幕を引き、ホプキンスは“50歳のタイトルホルダー誕生”という金字塔にまた一歩近づいた。

“エイリアン”の今後

「引退する前に全団体統一ライトヘビー級王者になりたい。スティーブンソン(と戦うために)、カナダに行ってやるよ。そのための書類を集め始めなければならないな」

試合後のリング上でホプキンスはそう息巻いた。

その言葉通り、WBC世界ライトヘビー級王者アドニス・スティーブンソンが5月24日に予定するアンドリュー・フォンファラとの3度目の防衛戦をクリアすれば、3団体統一戦の実現が視界に入って来る。

今年2月に超強力アドバイザーのアル・ヘイモン氏と契約したスティーブンソンは、今後はホプキンスと同じShowtimeの後押しを受けることが濃厚。「あともう一度はビッグファイトのリングに上がりたい」と発言し続けて来た老雄にとっても、素晴らしい雰囲気になるであろうカナダでのビッグマネー・ファイトは魅力的のはずだ。

他に有力な選択肢もないだけに、スティーブンソン対ホプキンス戦が秋にも組まれる可能性はかなり高い。

23勝(20KO)1敗のハードパンチャーで、スピードも備えたハイチ生まれのカナダ人はホプキンスにとっても危険な相手。敵地の異様な雰囲気の中で、49歳の健康面にも心配が集まる一戦となりそうだ。

ホプキンスの人間離れした耐久力と確かなスキルに敬意を払うとして、これほど高齢の選手が席巻し続けてしまう現状はボクシング界にとって良いばかりではない。36歳でピークを迎えた遅咲きのスティーブンソンに、そろそろ引導を渡してもらいたい気もする。

ただ、もしもこの試合にも勝って三団体統一し、来年1月15日に50歳の誕生日を迎えれば・・・・・・まだ現役ながらにして、ホプキンスの名声は伝説的な域に達する。そして、スティーブンソンが時おり垣間見せる粗さを考えれば、そんなシナリオが十分に可能に思えるのも紛れもない事実なのである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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