【なぜ仮面ライダーは鬼となったのか?】鍛え抜かれた仮面ライダー響鬼と少年との心温まる成長物語とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
あっという間に6月も半ばですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回のテーマは「鬼」です。
広辞苑によれば、鬼とは「想像上の怪物。仏教の影響で、餓鬼、地獄の青鬼、赤鬼があり(中略)人間世界に現れる。後に陰陽道の影響で、人身に、牛の角や虎の牙を持ち、裸で虎の皮のふんどしをしめた形をとる。」とされています。
さらに「鬼のような」無慈悲な人を指したり、「鬼に金棒」、「鬼の目にも涙」といったことわざでも表現される等、「鬼」とは私達日本人の生活において、非常に身近な存在といってもよいでしょう。
また、古来より日本で語り継がれてきた物語の中でも、鬼達は邪悪な存在として登場しており、「桃太郎」や「一寸法師」では、主人公と対峙する悪役として鬼達が登場しました。
・・・このように、悪い怪物としての印象が強い「鬼」。しかし鬼は物語の中で悪役として描かれたことも多かった一方、「泣いた赤鬼」のような児童文学をはじめ、いくつかの物語では心優しき悲しい存在としても描かれてきました。
それは、我が国が世界に誇るアニメ・特撮ヒーロー番組においても同様で、これらの作品では、悪い鬼の姿が描かれてきた一方、鬼の姿を模したスーパーヒーローが、人々を守る大活躍もまた描かれてきました。
そんな数ある「鬼」に縁のあるアニメ・特撮ヒーローの中で、今回焦点を当てるのは『仮面ライダー響鬼(2005)』。
本作は、国民的特撮ヒーロー番組である『仮面ライダー』シリーズの1作品であり、『仮面ライダークウガ(2000)』を起点とする平成仮面ライダーシリーズの第6作でした。
この仮面ライダー響鬼のモチーフは「鬼」。
鬼の容姿をした仮面ライダー達が、日本各地に潜む妖怪(魔化魍)を退治する物語として、約1年間に渡り放送されました。
そんなたくさんの鬼の仮面ライダーが登場する『仮面ライダー響鬼(2005)』。
本作はどんなお話なのか、少し覗いてみたいと思います。
※本記事は「私、ヒーローものにくわしくないわ」という皆様にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をして参ります。お好きなものを片手に、ゆっくり本記事をお楽しみ頂けますと幸いです。
【昭和から平成への超変身!】熱くよみがえった新時代のヒーロー!平成仮面ライダーシリーズ栄光の歴史とは?
さて、本記事では『仮面ライダー響鬼(2005)』の物語に焦点を当てていきますが・・・その前に少しだけ、仮面ライダーシリーズについてご紹介をさせてください。
仮面ライダーは、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、人間の自由と世界の平和を守るため、愛車であるバイク(サイクロン号)に乗り、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人達と戦う物語が展開されました。
その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の派生作品が次々に放送され、昭和の仮面ライダーシリーズとして定着していくことになります。
時代が昭和から「平成」に変わると、平成仮面ライダーシリーズの放送が開始されました。その第1作となったのが『仮面ライダークウガ(2000)』でした。
本作で試みられたのが、仮面ライダーシリーズにおける「既成概念の破壊」であり、「仮面ライダー=改造人間」、「仮面ライダー対悪の秘密結社」、「奇声を放つ戦闘員の集団と、それを率いる悪の怪人」といった、昭和の仮面ライダーシリーズで定着していた概念、いわば「お約束」を破壊し、平成という時代に適合した新たな仮面ライダーを創造しようとしていたのです。
これまでの仮面ライダーシリーズの既成概念を破壊する、全く新しい世界観で好評を得た『仮面ライダークウガ(2000)』に続き、シリーズのバトンは次回作『仮面ライダーアギト(2001)』、さらに『仮面ライダー龍騎(2002)』と継承されました。
後にこれらの作品は「平成仮面ライダーシリーズ」と呼称されることになりますが、これらのシリーズにて共通して行なわれたのは、やはり先述した「既成概念の破壊」でした。ざっくりいえば「どこまでやれば仮面ライダーとして許されるのか?」といった、まるで世間の仮面ライダーに対するイメージを解体するような挑戦が続いていたのです。
「世界平和ではなく自らの願いのために戦うのは仮面ライダーじゃないのか?」
「仮面ライダーだけでなく、怪人側にも重厚なドラマを展開したらどうか?」
「仮面ライダーを改造人間ではなく、職業として描いたらどうか?」
・・・といった具合に、挑戦に次ぐ挑戦を重ねてきた平成仮面ライダーシリーズは、シリーズ第6作目を迎えることになります。第6作として放送されたのは、シリーズ初の「鬼」をモチーフとした異色の仮面ライダーでした。
次章からいよいよ、平成仮面ライダーシリーズ第6作『仮面ライダー響鬼(2005)』の物語について、少し掘り下げていきたいと思います。
【鍛えてますから!】中学生の少年と仮面ライダーの師弟関係を描いた名作『仮面ライダー響鬼』の物語とは?
ここまで上述してきた過程を経て、平成仮面ライダーシリーズはシリーズ第6作『仮面ライダー響鬼(2005)』の放送を開始しました。
『仮面ライダー響鬼(2005)』は、日本に古くから伝わり、現代も各地に潜んでいる妖怪・魔化魍(まかもう)と日々戦う仮面ライダー達の活躍を描いた物語。
そして本作の主人公である仮面ライダー響鬼を慕う、とある「少年」の成長物語でもあります。
本作に登場する仮面ライダーは「鬼」と呼ばれ、日々精神と肉体を鍛え抜き超人的な変身能力を身につけた存在。よって、従来の仮面ライダーのように改造手術を経て超人となったヒーローではありません。自分を極限まで鍛え抜いて、卓越した身体能力(鬼闘術)や大自然を操る能力(鬼幻術)を身につけて、妖怪達と戦う者達でした。
さらに異色なのが、彼らは先輩の仮面ライダー達のように「変身ベルト」では変身しません。これまでの仮面ライダーは、主人公が独自の変身ポーズをとるとベルトがピカピカ発光し、「パッ」と仮面ライダーの姿に変わるのに対して、主人公である仮面ライダー響鬼は違いました。
なんと響鬼、音叉(おんさ)で変身します。ヒビキという31歳の男性が変身音叉・音角を取り出し、これを打ち鳴らすことによって音波が発生、音波を出した状態で額にかざすと、全身が紫色の炎に包まれて変身完了。さらに、この変身時も「へん~しん!」のようなかけ声もなく、まるで奮起するかのような「ハッ!」の一声で変身を完了させるという・・・独特な変身方法でした。
そして響鬼の得意技もライダーキックではありません。『仮面ライダー響鬼(2005)』に登場する仮面ライダー達は、それぞれ楽器(音撃武器)を持っており、「清めの音」を奏でることで、妖怪達(魔化魍)を退治する姿が描かれました。
歴代の仮面ライダー達と比較しても、極めて個性的なヒーローである仮面ライダー響鬼。常に自分を鍛錬し続け、前線に立ち続けるベテラン戦士。仮面ライダーの象徴ともいえる「オートバイ」も、当初響鬼は運転が苦手であったものの、特訓を経て克服。そんな強くて格好良い響鬼ですが、『仮面ライダー響鬼(2005)』では、彼に憧れるひとりの弟子が登場しました。
彼の名は、安達明日夢。屋久島で偶然ヒビキ(仮面ライダー響鬼)と出会い、鬼と妖怪(魔化魍)の存在を知り、彼の超人的な活躍に心を動かされた高校1年生(15歳)。優しく繊細な性格ゆえに傷つきやすく、悩み多き少年でした。
この明日夢少年、ヒビキと出会ったことで、彼とその仲間達と交流を深めるようになります。彼自身も前線に出るヒビキと交流していく傍ら、勉学が上手くいかなかったり、万引きをする少年少女の姿を目撃して逆恨みを買ったり、ブラスバンド部に入部しても希望が通らなかったりと、物語の中で数々の悩みに直面します。
そんな明日夢少年を支え続けたのがヒビキでした。明日夢少年を気遣い、寄り添いながらも、自身を鍛え続けるヒビキに、明日夢少年は尊敬の念を抱き、ヒビキを「人生の先輩」と認識する気持ちが芽生えるようになります。
ただ、明日夢少年は当初、自分がヒビキのような鬼(仮面ライダー)になりたいとは思っていませんでした。ところが彼が「ヒビキさんの弟子になりたい」と思うようになった事件が発生します。
それは、「京介」と呼ばれるライバルの出現でした。明日夢少年のクラスに編入した優等生である京介。あらゆる面において優れている少年であり、マザコン気質が玉に瑕である彼ですが、「鬼」に深い関心を持ち、なにかと明日夢少年に絡んでくる上、ライバル視さえします。
「君はどうやってヒビキさんに取り入ったんだ。君みたいななんの取り柄もない人間がさ。」(京介)
京介はヒビキに弟子入りを志願しますが、ヒビキはそれを拒否。明日夢も京介に触発されてヒビキに弟子入りを志願しますが、これもヒビキは了承しませんでした。
その後、明日夢と京介が協力して響鬼達の活躍をサポートしたことで、最終的に響鬼は2人を弟子にすることを了承します。
ところが、そんなヒビキの弟子となった明日夢少年に、またしても新たな転機が訪れました。それは、彼が重病に苦しみながらも懸命に生きる少女(直美)と出会ったことで、病気に苦しむ人達を助ける医学の道を志すようになります。
「明日夢・・・鬼の道っていうのは、迷いながら歩く道じゃない。自分の生きる道を決められない奴に、なんの人助けが出来るんだ。」(ヒビキ)
ヒビキはあえて、弟子の道か医学の道かに悩む明日夢少年を突き放します。ライバルであった京介とも喧嘩別れをした明日夢少年は、医学部への進学を目指して勉強に集中するようになります。
「俺はなぁ、お前とちゃんと勝負して勝ちたかったんだよ!それなのに・・・裏切りやがって!」(京介)
「お前には関係ないだろ!」(明日夢)
「俺はお前を許さない・・・絶対に許さないからな!」(京介)
明日夢少年が医学の道を志して1年後ー。助けを求める少年の救助を機に、明日夢は京介と再会。京介は厳しい修行を重ね、鬼(仮面ライダー)に変身できるようになっていました。その後ヒビキとも再会した明日夢は、両者を巻き込んだ大きな戦闘を経て、夕日の海を眺めながら肩を並べます。
精神的に大きく成長した明日夢に、ヒビキは語りかけます。
「出会ったとき・・・屋久島の朝日を一緒に見たのを、覚えてるか?太陽っていいよな。」(ヒビキ)
「一生懸命生きてきたつもりです。弟子じゃないって。ヒビキさんに言われたから。ヒビキさんに憧れてたんです。初めて会ったときから、ずっと。そして僕もいつか、ヒビキさんみたいになりたいって。でもそれじゃダメなんじゃないかって、気がついたんです。ヒビキさんに何でも頼って、ヒビキさんの真似をして。それじゃ、本当に僕が目的を持って、良く生きてるってことにはならないんじゃないかって。それがヒビキさんが教えてくれたことなんだって。僕は鬼にはなりません。よくわかったんです。もっとたくさんの人を助けていきたいって。」(明日夢)
「これでもさ、離れてた時間・・・ずっと明日夢のことが心配だったよ。難しいよなぁ・・・強く生きてくって。俺は信じてるんだ。人間は、いつだって変われるんだって。鬼になることだけが、俺の弟子になることじゃない。」(ヒビキ)
明日夢は静かに笑みを浮かべます。
「鍛えたな・・・明日夢。出会ったころからずっと、明日夢は自慢の弟子だったよ。俺についてこい。これからは俺の側で、自分らしく生きてみなよ。」(ヒビキ)
「・・・はい。」(明日夢)
明日夢は、再びヒビキの弟子になりました。
鬼の道ではなく、医学の道へと進んだ明日夢ですが、彼はヒビキとこれからも共に歩んでいくことを決意します。
鬼になることだけが、ヒビキの弟子になる道ではなかったのです。
2005年から2006年までの約1年間、全48話にかけて放送された『仮面ライダー響鬼(2005)』。本作は妖怪から人々を守る仮面ライダー(鬼)達の活躍を描いた傍ら、ひとりの少年の成長物語でもありました。
本作を放送当時ご覧になっていた方の中には、もしかしたら「京介ではなく、明日夢に仮面ライダーになって欲しかった」という方や、感情移入していたキャラクターが思い通りにいかずにモヤモヤした・・・という方もいらっしゃったかもしれません。
放送当時、私はちょうど明日夢とほぼ同じ位の年齢で、やりたいことや新しい夢が見つかるという意味が、まだしっくりこなかった年齢でした。
しかし大人になって見直してみると、「少し人生経験を積んでから、改めて観るとしっくり来る」感覚に浸ったのもまた事実で、新しい夢ができたり、やりたいことが変わる意味を、成人を経てやっと感じ取ることができたものです。
来年(2025年)は、『仮面ライダー響鬼(2005)』の放送からちょうど20周年という節目の年を迎えます。
先輩・後輩の仮面ライダー達と肩を並べながら、現在も人々を守り続けている仮面ライダー響鬼と、また再会できる日を心待ちにしております。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(参考文献)
・菅家洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダー Official Mook 仮面ライダー平成 vol.6 仮面ライダー響鬼』、講談社
・鈴木康成、『語れ!仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ
・鈴木康成、『語れ!平成仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ