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ロシアW杯までに、日本代表について知っておきたいこと。アウェー豪州戦で小林悠を抜擢したもう1つの理由

河治良幸スポーツジャーナリスト
ストライカー小林悠はセットプレーの守備でストーンとして地味だが重要な役割を担う。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

日本代表は3月23日のマリ戦、27日のウクライナ戦をへて、5月20日からロシアW杯に向けた最終キャンプに入る。5月中旬に30人前後のメンバーが発表され、日本での”壮行試合”となる30日のガーナ戦の翌日に23人のW杯メンバーが発表される見込みだ。

その選考にも関連して、カギになるセットプレーの守備で知っておきたいことがある。日本は基本的に相手のターゲットマンにマンツーマンで付き、残る選手が”カベ”や”ストーン”と呼ばれる役割を担う。例えば相手が6人ゴール前に上がってきたら、6人がペナルティエリア内で彼らをマークする。

残る3人は1人がキッカー手前でカベとなり、同時にショートコーナーなどをケア。1人がペナルティエリア手前のミドルレンジをケアしながらカウンターの起点として備え、もう1人がニアサイドにストーンとして立ち、速く低いボールを跳ね返す、あるいはリバウンドをクリアするなどの役割をになう。

ターゲットマンのマークは2人のCBをはじめ、大迫勇也のような高さのあるセンターFWが付く形になるが、意外と語られないのがストーンの重要性だ。そして日本代表のハリルホジッチ監督こそ、このストーンの質にこだわる指揮官でもある。その象徴的な試合がアジア最終予選、アウェーのオーストラリア戦だった。

鮮やかなカウンターから先制点をあげたものの、PKを与えて同点とされ、結果的に勝ち切れずに終わった試合。ハリルホジッチ監督は勝機が十分にあったことを強調しつつ、プラン通りに戦い、最大のライバルに対してアウェーで勝ち点1を獲得した選手たちを称えた。そこで大きな役割を果たしていた1人が小林悠だった。

攻撃面では大きなチャンスを外すなど、持ち前の得点感覚を発揮できなかった。しかしながら守備では右サイドで前線から精力的にボールを追い、時に自陣までプレスバックして相手サイドバックの攻め上がりを牽制し続けた。その小林がセットプレーの守備で任されたのがニアのストーンという仕事。普段は本田圭佑がつとめることが多いが、ハリルホジッチ監督は本田にターゲットマンのマークを担当させ、ストーンを小林に託したのだ。

この試合では左サイドバックに本職センターバックの槙野智章が入ったこともあり、セットプレーの守備でオーストラリアに”高さ負け”するシーンは無かった。ターゲットマンをタイトにマークした選手たちの集中力も目立ったが、小林がニアで相手の速いボールに対応する役割を全うしたことが大きかった。マリ戦を前に、あらためてオーストラリア戦の役割について聞くと、小林はこう返答した。

「(川崎)フロンターレでもストーンの位置をやってますし、そこで跳ね返すのは得意なので、そういうところは自信を持ってやれるかなと思います」

もちろんメインの仕事は攻撃でゴールという結果を出すことであり、それが無ければ最終メンバーに残ることはできない。その一方で代表監督は選手の目立たない、しかし重要な役割を想定して23人のメンバーを絞り込んでいくことになる。コロンビア、セネガル、ポーランドの何れも日本代表より高さのあるチームばかりで、良質なキッカーも揃えている。相手のセットプレーは常に脅威になりうるのだ。

ここからのテストマッチはそうしたシーンのシミュレーションをしていく機会でもある。セットプレーの守備のディテールがあまり語られることはないが、ターゲットマンを誰がマークし、誰がミドルレンジに立ち、ニアサイドのストーンを担うのか。そこにも注目すると、メンバー選考に関係する、もう1つのポイントが見えてくるはずだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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