中学受験最後の模試が終わって、親がどんな心構えでいたら、子どもにとって幸せか?
中学受験最後の模試のあとに、親がもつべき心構えについて、12月4日に実施された首都圏模試センターの「合判模試」の保護者会でお話しした講演録を掲載します。
模試の結果や偏差値表を駆使して慎重な併願戦略を
いよいよ12月にいよいよ入りまして、6年生の親御さんにとっては、中学受験という長い旅路の胸突き八丁かと思います。ここを乗り切るともうあとは、年を越してしまえば、どどどーっと進んでいく時期に入るかと思うんですけどね。今がいちばんしんどかったりする時期かなと思います。この会場には5年生の親御さんもいらっしゃると思いますが、1年後の自分をイメージして聞いてもらえればと思います。
例えば元塾講師だったら、過去問の仕上げ方とか苦手分野克服の方法とか、そういう具体的なお話ができるのかもしれませんし、あるいはデータを扱うのが専門のひとなら、出願状況予想みたいなデータ的な話ができるのかもしれないんですけど、私、ただのしがない物書きなもんでですね、テクニカルなことはあんまりお話しできないんですけれども、いろんな中学受験のあり方、ご家庭の様子であったりとかを取材してきた経験から、これからの時期に親御さんがどういう心構えでいたらお子さんにとって幸せか、そんな話をさせていただければと思っています。
今日が実質的に最後の模試だとなると、今日のこの模試の結果によって最終的な志望校が決まるという意味合いがありますよね。まだ揺れ動いているご家庭は多いかと思います。
お子さん自身が強く望んでいる第1志望であれば、仮に今回の模試の結果が思わしくなくて合格可能性が低くても、そこは譲らなくていいんじゃないのっていうのが、たぶん、多くの中学受験関係者に共通する見解だと思います。
お子さんが自分の意思で「この学校!」って強く思っているんであれば、それを「無理でしょ」って言っちゃうっていうのは、ものすごくモチベーションダウンに繋がりかねないので、「最後まで諦めないでやろう」と応援してあげていいかと思います。
お子さんがその第1志望にあんまりこだわりがなくって、どっちでもいいんだよねっていうふうに言ってるんであれば、そこは大人の視点で可能性が高いほうをアドバイスしてあげてもいいと思いますが、何にせよ、お子さんの納得がいちばんかなと思います。
ちょっと難しいのは、複数回入試が設定されている学校が第1志望の場合ですね。いくら第1志望とはいえ、どこまで深追いするか。先ほど第1志望を諦めなくていいと言いましたけども、難易度が上がる2回目、3回目の入試をどこまで深追いするのかっていうのはなかなか難しいところです。
せっかく第1志望のために頑張って来たんだから、2月1日の第1志望にはどんなことがあっても挑戦してみようという姿勢でいいと思います。でも、2回目、3回目の日程についてはさらに難易度が上がってしまうから、限られた入試のチャンスを、現実的に狙えるところに変えていこうという話し合いも、今日の模試の結果によっては必要かなと思います。その場合も、子ども自身が納得できるように、丁寧に子どもとコミュニケーションをとる必要があろうかと思います。
首都圏模試センターのデータによると、1人の中学受験生が6回から7回の中学入試を受けています。当然ながら第1志望にもち偏差値が届いてるのか届いてないのか、それぞれに状況違うと思いますけれども、当然ながらさらに、5割、8割の確率で合格がもらえそうな学校をいくつか併願していく。そのときに偏差値ってのは非常に重要になってくるわけですよね。
80%偏差値表とか、50%偏差値表とかあるかと思いますけど、やっぱり80%のほうだけ見ててもわからないことがあります。80%の偏差値表ではただの高嶺の花に見えた学校でも、50%の偏差値表を見ることで、「あれ、五分五分だ! 2回受けたらどっちかでは受かるかも!?」って思えてくることがあります。
ちなみに五分五分の合格可能性のところを2回受けたらどっちかで合格できる確率って何%かって皆さんぱっとわかります? 算数で確率を勉強した6年生であれば簡単に解けると思うんですけども、両方とも受からない確率を計算するんですよね。そうすると0.5×0.5じゃないすか。25%の確率でどっちも不合格になるってことは、75%の確率でどっちかには受かるってことですよね。
第1志望は例えば20%の合格可能性しかないならば、80%の確率で不合格になるということなんですけども、そこに例えば合格可能性50%出てる学校も受けることにしますよね、もう1つ、合格可能性80%出てる学校も受けるとしますよね。この3校を受けると全落ちの可能性って何%になると思います? 0.2×0.5×0.8ですから8%です。つまり92%の確率でどこかには受かるはずだと計算できます。
92%じゃ不安だというのなら、もう1つ合格可能性80%の学校入れときましょうか。それも早めに1日か2日の午後とかね、入れときましょうか。万が一に備えて、2月1日、2日のうちに1つでも合格取っておくと、それが、入試が長引いたときの、何よりのお守りになりますからね。そうすると、先ほどの全落ち可能性8%が、1.6%まで下げられるんですよ。さらにね、50%のところをもう1つ受けることにすれば、全落ちの可能性は0.8%まで下がります。つまり99%の可能性でどこかには受かる。5校をバランス良く受ければ、こうやって全落ち回避の作戦を立てることは可能なんです。
中学受験の裾野が広がって、2020年くらいから総受験者数が総募集定員を上回ってしまいました。まだ女の子の場合は総受験者数よりも総募集定員が多いのでいいんですけど、男の子の場合、受験者数に対する募集定員がもう85%ぐらいしかないんですね。だから7人に1人はどこにも入れないということが起こり得る。ということなので、特に男の子の場合は慎重に、併願戦略を練ってほしいと思います。
縁起でもないことを想定しておくのも親の役割
あとはですね、心構えとして、これからの時期に親御さんとして気をつけておいたほうがいいことを何点かアドバイスしようかと思います。
一つめは、もう今回の模試が終わったら、本当の入試が終わるまで、もうお子さんに対してネガティブなことは一つも言わなくていいんじゃないかなということです。「なんでそんな余裕かましてんの?」とかね、「そんなことしてる場合ですか?」みたいについつい小言を言いたくなっちゃうこともあると思いますけども……。
だって小言を言われてやる気になる人っていないじゃないですか。まだ時間があるときだったら、ちょっと厳しいこと言って奮起に期待するみたいな作戦もありなのかもしれませんけど、この時期にそんな賭けをして、調子を崩しちゃったら、なおさら焦るじゃないですか。
あるいは、思ってもみなかったネガティブなことが起こるかもしれませんよね。例えば今日の模試でやらかしちゃった!みたいなね。あるいは入試の当日で何か忘れ物をしてしまったりとかね。あるいは本当にもう不可抗力的に、入試当日に電車が止まってしまったとかというふうなこともあるかもしれません。そういうときにね、子どもが安心して目の前の問題に集中できる状況をつくってあげるのがいちばんの親の役割なわけです。
そうなると親御さんも焦ると思いますけど、自分自身が焦ってるときほど、根拠なく「大丈夫!」ってニコッて笑ってね、「お父さん、お母さんに、まかしといて大丈夫だから!」って笑顔で言ってあげて、子どもを落ち着かせてあげなきゃいけません。咄嗟のときにそういうリアクションができるようにしておく練習をしておくといいんじゃないかなと思います。
入試当日に何が起こるかわからないということで、いろんな準備されるかと思います。午後入試に行くときに昼食どこで取るのとか、大雪が降ったときにどんな交通手段が使えるのかとか、ある程度はシミュレーションしておく必要があろうかと思いますけれども、一方で、あんまり細かいトラブルまで想定して準備しすぎるとね、かえって緊張感が高まっちゃうと思います。親の緊張感は子どもに伝わっちゃって子どもの足を引っ張りかねないので、あんまり心配しすぎないように、なんとかなるさとおおらかに構える気持ちも大切です。
あとね、いよいよ入試が本番始まったら、もうSNS見ない方がいいんじゃないかなって思うんですよね。見ない方がいいし、書き込まなくてもいいんじゃないかな。スマホから一旦そのSNS系のアプリは削除しちゃってもいいでしょう。自分の気持ちが不安定なときに見てしまうと、どうしたって心に影響が出てくるので。
そのうえで、これも皆さんへのご提案です。仮に入試が早く終わったとしてもSNSへの合格報告投稿は、ちょっと待ってあげてもいいのかなと思います。5日あるいは6日までずれ込むっていう方々もいらっしゃって、そういった方々は非常にしんどい気持ちですごしているわけですよね。その人たちもSNSなんて見なきゃいいんですけど、冷静じゃないからこそついつい見てしまうっていう気持ちも、皆さんもおわかりになろうかと思います。
心配してくれてる方いらっしゃいますからね、できるだけ早く報告したくなるとは思いますけれども、それは個別に連絡すればいいわけで、SNSへの合格報告は、5日くらいまでは待ってもいいんじゃないかなと。4日、5日まで合格がもらえない状況にあることがどんだけしんどいことかってことは、皆さんもよくわかっていると思うので。一緒に頑張ってきた仲間への、それが無言の励ましなんだと思ってですね、少し待ってあげる気遣いもできるといいんじゃないですかね。
早いタイミングでいい結果をもらえて中学受験が終了したときに、「だけどまだ頑張ってる子いるんだよね。彼らも納得できる結果が得られるまで頑張ってほしいよね」って、そんな会話を親子で最後にできたら、中学受験の締めとして、すごく大事なことかなと思います。
あとはこれもね、ちょっと縁起でもないことを申し上げることになるんですけども、まさかが起こるのが中学受験なわけですよ。
リアルな掲示板での合格発表をやっている学校はありますよね。その瞬間そこにいるだけでいろんなドラマが見えちゃうと学校の先生たちは言います。当然、合格して「やった!」って抱き合って泣いている親子もいれば、ガクッとね肩を落として動けなくなっている親子もいる。
不合格を見た瞬間にお母さんがハンドバッグをストンと落としちゃって、その場に膝まづいちゃって、それからしばらく不合格になった男の子は隣でニヤニヤ笑って立っているしかできなかったって。ある学校の先生から教えてもらったんですけど。その子がそのときどんな気持ちでそこにいたのかと思うと……。その経験は、その子の心にものすごい傷を残してしまいますよね、きっと。もちろんがっかりするのはわかりますよ。でもそこは頑張ろうよって。親なんだから。子どもを守ってあげなきゃいけないんだから。そういう親としてのリアクションが、子どもにとっての中学受験の後味を大きく左右することになりますからね。
何が言いたいかっていうと、まさかのことが起きたときに気丈に振る舞えるように、そういう場合のリアクションを決めておいて、とっさのときには自分の意思と関係なく、自分の気持ちと関係なく、自動的にそれができるように自分をプログラミングしておいたほうがいいということです。縁起でもないですけども、そういうケースのことも想定して心の準備をしておく。これはね、親御さんの大切な役割なんじゃないかなというふうに思います。
今回が初めての中学受験体験だという方にとっては、これから何が起こるかわからなくて不安ですよね。そういうイメージトレーニングとしてですね、いま書店にたくさん並んでいる『勇者たちの中学受験』という本をお読みいただけるといいかなと思います。1月になってから何が起こるのかなっていうイメージトレーニングになるんじゃないか思います。すいません。なんか宣伝みたいで、宣伝なんですけどね(笑)。
「読むのが怖い」みたいな意見もちらほら聞くんですけども、決して怖いこと書いているわけじゃなくって、2022年の1月から2月に何があったのかっていうことを3組の親子に話を聞いて、それをほぼそのまんま書いているだけなんです。知り合いのいろんな中学受験関係者にも見てもらいましたけど、「話の内容自体はいたってあるあるだよね」って言われます。決して恐怖を煽っているわけじゃないんです。
でも何が怖いのかっていうと、要するに、親として受け入れがたい現実がやってくるってことが書かれているんですよね。自分がこの状況に置かれたときにそれに耐えられるかどうかっていう恐怖のようなんです。本を読んでくれた現役の中学受験生の親御さんたちと話してヒアリングしたんですけれど。
だからそこが怖いんだとすれば、なおのこと、いきなりそれを経験するよりも、他人事で少しでもイメージトレーニングさせてもらって、免疫をつくっておくほうがいいじゃないですか。
親御さんの笑顔が子どもにとっては満開の桜
「おおたさんの言うことはよくわかりました。だけど、ハラハラドキドキ不安でいっぱいなんです。どうしたら親としてでんと構えていられるようになりますか?」って聞かれることがあります。中学受験の親だったらドキドキして当たり前ですよ。
気分転換するのもいいでしょう。マッサージ行ったりとかね、子どもが塾に行ってる間に夫婦で何か美味しいものを食べてもいいでしょうね。でも親御さんが心の安定を得るためにいちばんすべきことは、お子さんの横顔よく見ることだと思います。
お子さん自身もね、数カ月後、数十日後に自分はどうなってるんだろうという不安の中でね、不安から逃げたい気持ちがありながら、やっぱりやんなきゃいけないっていうふうに気持ちが揺れ動いてる中で、過去問に挑んだりするわけですよね。その横顔を見ていると、「こんなに頑張ってるんだから、この努力が報われてほしい」と当然思うと思います。でも一方で、その横顔見てると、「でもこんだけ頑張れるようになったんだから、もう結果なんてどうでもいい」という気持ちも湧いてくると思うんです。
わが子の努力がどうしても報われてほしいんだけど、一方で結果なんてどうでもいいって思える。このアンビバレントな感情を、多くの受験生の親御さんがこの時期経験するんです。そこまでいったご家庭っていうのは、中学受験してよかったって、最後笑っているんです。
もし不安が強いんであればね、模試の結果ばっかり、あるいは偏差値一覧ばっかり見てて、もしかしたらお子さんの横顔が見えてないのかもしれない。不安を強く感じたときこそ、お子さんの横顔見てください。真剣な眼差しをしている瞬間があると思います。そこをじっと見ていると、先ほどのアンビバレントな気持ちを味わうことができるんじゃないかと思います。中学入試終わるとしばらくその表情見られませんからね。「中間試験、何それ?」みたいな(笑)。
せっかくそうやって見ようとしているのに、時々ね、そんな時期なのに、「なんでこんなふざけたことばっかりしてるの?」って感じることあろうかと思いますけども、子どもって本音と裏腹のことをやりますからね。すごく緊張してるとか、不安なときこそふざけちゃったりとかね。なんか表面的にふざけてる、やる気がなさそうに見えるというときこそ、「何やってんの!」って叱るんじゃなくて、その裏の心理状態をよく見るようにして、想像力を働かせてほしいと思います。
だけど想像してもわかんないですよ、本当のところはね。わかんないからこそ、やっぱり、やる気がないんだと勝手に決めつけないことですよね。揺れ動いてる気持ちの中でこの子も頑張ってるんだね、この子なりのベストを尽くしてるんだねと。そういうふうに子どもを信頼してあげる、信用してあげる。親が先に信頼してあげるから、子どもはその信頼に応えようとするんですよね。信頼の前貸しをしないといけないんですよ。いつ返してくれるのかわからなくても。
そうやって最後にね、入試本番、特に第1志望、本命受けに行ったときに、最後にわが子の背中を見送ることになるわけです。「ああ、もう親には何もできない。この子1人で頑張るしかないんだ」という気持ちで皆さん背中を見送ることになります。そこでね、もう自分にやれることないんだっていう爽やかな無力感を感じることができたら、僕はその中学受験は大成功だと思います。そこで、親の子離れができてるわけですからね。中学受験の非常に象徴的なシーンだと思います。本当に感極まると思いますけれども、その気持ちを心に刻んでいただくと、その後のまた波乱万丈な思春期の多感な時期を上手に乗り越えられるんじゃないかと思います。
あと数カ月でみなさんの中学受験が終わりますけれども、ほとんどの親御さんが何らかの後悔を口にします。あのときもっとこうしてあげればよかったみたいな。だけど、ちょっと考えてみてほしいんですけど、タイムマシーンみたいなものに乗ってあんときああしてあげればよかったって瞬間に戻ってやり直しをしたら、じゃあ、後悔のない完璧な中学受験に本当になるでしょうか。
確かにその時にやってしまった失敗は修正できるかもしれない。だけどそうしたら、別のところで別の後悔をすることになるかもしれないわけですよね。つまり、誰だって、一つや二つじゃ済まない後悔があると思いますけど、でもそれ以上に、皆さんが自分でも気づかないうちにうまくやっていたことがたくさんあったはずなんですよ。要するに後悔なんていくつかあって当然で、それ以上に皆さんは親として適切な対応をずっとやってきたからこそここまでたどり着けてるわけです。これだけたいへんな中学受験を最後までやりきったら、子どもはもちろん立派だし、親御さんも立派なことだと思います。
結果に関してね、いわゆるそのほろ苦さっていうのもあると思います。でも、せっかく中学受験するんだったら、これなんかは私がへそ曲がりだからなのかもしれませんけど、せっかくだったら合格だけじゃなくて、不合格も味わってほしいなって思いません? 悔しさみたいなものも経験としてね、味わってもらえたら、それもその子の人生の厚みになっていくでしょうから。
ほろ苦さの経験は、子どもにも味わってほしいですし、親御さんも心配しなくても多くの場合、ほろ苦さがね、どっかにやっぱり残るもんですよ中学受験って。ほろ苦さを受け入れられたときに、そのほろにがさが味わいに変わるんです。子どもの頃ってコーヒーとかビール飲んでも何が美味しいのかわからないじゃないですか。ほろ苦さを味わいだとわかるようになるのって、まさに大人の階段をのぼるってことだと思うんです。
思い通りにならなくて悔しい思いをしたとしても、「でもこの経験があったからこんなことに気づくことができた」とか「こういう苦々しい経験が目を覚ましてくれた」とか、そこに何らかの意義づけを感じられるようになると、その苦々しい経験が自分たちの糧になるんですよね。教訓を得たことになる。
ほろ苦さがない人生って、味気ないじゃないですか。何でも思い通りになる人生って、すぐ嫌になっちゃうと思いますよ。面白くも何ともないと思う。中学受験においても、ほろ苦さが残ったとしたら、そこに意義づけをすることによってそれを糧にして成長に繋げることができる。それが人生の味わいとして、その子の人生を支えることになる。
そういうように、受験が終わったときに残っているほろ苦さに意義づけをしていくことを、「中学受験のエピローグを書く」って僕は表現しています。最後の合否結果がわかった瞬間に中学受験がおしまいになるわけじゃないんですよ。その結果に対してどういう意義づけをするのかってことが、そこから始まるんです。そこから中学受験のエピローグをうまく書くことができれば、どんな中学受験だってハッピーエンドにすることができるんですね。
そこで、親の価値観、視野の広さみたいなものが、あるいはストーリー力が、すごく問われるとこだと思うんですけども、最後そこでね、親の力を発揮していただきたいなというふうに思います。
皆さんもね、お感じかと思いますけれども、子どもたちが12歳にして、何とか自分の好きな学校に行きたいって思うことも当然モチベーションなってますけども、実はそれ以上にね、親御さんの喜ぶ顔が見たいと思って頑張ってるんですよ、子どもたちは。
そうやって今まで子どもがね、親を喜ばせようと思って頑張ってきたわけですから、最後の最後ね、親が子どもを喜ばせる番ですよね。要するに親御さんが喜んでくれれば子どもたちも嬉しいわけですよ。だったら喜んであげればいいじゃないですか、どんな結果であったとしても、胸を張って。
複雑な気持ちはあるかと思いますよ、結果によっては。だけどその結果を思い切り喜んであげて、そしてハッピーエンドのエピローグ書いてあげることができれば、子どもは満足できるんですよ。
きっとこれまで、「ロード・オブ・ザ・リング」とか、「ネバーエンディング・ストーリー」みたいな日々でしたよね。悲しみの沼があったり、途方に暮れるような回り道をしなければいけなかったり……。でもそれでもなんとか諦めないで進んで来て、みなさんはとうとう、大冒険の最終幕を迎えてるわけですよね。そこで最後、親御さんが喜んであげれば、笑顔になってあげれば、その大冒険は子どもたちにとって大成功になる。それが子どもにとっての自信になるし、誇りになる。「12歳のとき、自分なりに頑張ったよな。それをお父さんもお母さんも喜んでくれたよな」というふうに思えると思います。
「桜咲く」って表現するじゃないですか。だけど結局、子どもにとっての桜って親御さんの笑顔なんですよ。
実は先ほどちょっと宣伝をしました『勇者たちの中学受験』の登場人物には、全部名前に意味があるんです。特に3つのエピソードの語り手の名前には小細工がしてあります。あんまりいうとネタバレになっちゃうんですけど……。
親は大きな希望を抱いて中学受験を始めるじゃないですか。でも途中でいろんな現実にぶち当たってもがきながら、さっきのアンビバレントな感情を味わって、ある意味の悟りに達するわけですよね。その末に、「なんだ、桜咲くって、自分が笑顔になればいいだけじゃん! なんだ、自分が桜なんじゃん!」と親が気づくわけですよね。そんな思いを、実は登場人物の名前に込めています。中学受験の親としての成長を、実は表してるんです。
自分の笑顔が子どもにとっての満開の桜なんだと思えるようになれば、中学受験は必ず笑顔で終われるんです。それが私が提唱している「中学受験必笑法」です。「ひっしょう」の「しょう」は、「勝つ」ではなくて「笑う」。「必ず笑う」です。なので、残りわずかな時間になって、たいへんつらいところかとは思いますけれど、「必笑」を目指して残りの旅路を歩んでいただきたいと思います。