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ドイツ・「サスティナブル観光」国際サミット参加レポート リューベックとキールより その2

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
北海とバルト海の夏の風物詩「シュトランドコルプ(藤製の日よけ付きビーチチェア)

「サスティナブル観光」をテーマとして視察したドイツ北部の旅。前回に続き、今回はリューベック湾岸を経て世界遺産に登録されているワッデン海とキールから持続可能な取り組みを紹介したい。(画像はすべて筆者撮影)

リューベック湾岸・野生保護地区

ドゥマースドルファー沿岸でかわいい出迎えに遭遇した
ドゥマースドルファー沿岸でかわいい出迎えに遭遇した

ワッデン海へ向かう途中、まずリューベックとトラヴェミュンデの間にあるドゥマースドルファー沿岸(Dommersdorfer Ufer)を訪ねた。

自然環境保護地区では水泳も禁止されている
自然環境保護地区では水泳も禁止されている

この沿岸はトラヴェ川沿いに広がっており、氷河期、何世紀にもわたるヤギや羊の放牧、バルト海近海の影響と洪水、上流と下流の絶え間ない海運によって形成されたユニークな景観と文化を持つ地域で、野生生物保護区として守られている。

ドゥマースドルファー沿岸の自然環境保護ステーションにて
ドゥマースドルファー沿岸の自然環境保護ステーションにて

トラヴェミュンデは1802年に早くもリゾート地として独自の成功物語を築き、かつての漁村の生活を一変させた。旧市街、歴史的リゾートの背景、港の大型船、ノルダーモール桟橋、壮大な砂浜、ドイツ最古の灯台、伝説の4本マストの艀船パサートなど見所満載だ。

4本マストの艀船
4本マストの艀船

国境を越えた世界自然遺産ワッデン海

ワッデン海といえば7月末、オランダのアメーランド島から27キロの沖合で発生した自動車運搬船火災発生のニュースが報道され、ドイツも大きなショックを受けた。船が沈没して環境破壊を引き起こすのを防ぐことはできたものの、火災発生の背景が明確になるまでしばらく時間がかかりそうだ。

ワッデン海にて
ワッデン海にて

オランダとドイツ、デンマークの3か国にまたがっているワッデン海は国境を超える世界自然遺産として知られている。ドイツのワッデン海は、SH州に属するワッデン海国立公園、ニーダーザクセン州ワッデン海国立公園、ハンブルク・ワッデン海国立公園で構成されている。

ワッデン海にて・鮮やかな色のクラゲ・すでに死んでいるとガイドさんが教えてくれた
ワッデン海にて・鮮やかな色のクラゲ・すでに死んでいるとガイドさんが教えてくれた

SH州のワッデン海国立公園は、ドイツにある16の国立公園のひとつで、南はエルベ川河口、北はデンマーク国境に挟まれたSH州北海沿岸に位置する海。自然のプロセスがほとんど破壊されずに残っている、最後の大規模潮汐生態系のひとつである。

多数の生物が共存しているワッデン海
多数の生物が共存しているワッデン海

潮の満ち引きが6時間ごとにあるワッデン海は、動物や鳥、アザラシなどの宝庫で、それらを保護するために、国立公園レンジャー、国立公園ガイド、自然保護協会のボランティアが、宿泊客や地元の人々に情報を提供し、国立公園の保護規則が守られているかを監視している。

ワッデン海を保護するために入場料を払う・家族チケット(大人2人、子供3人)27ユーロ
ワッデン海を保護するために入場料を払う・家族チケット(大人2人、子供3人)27ユーロ

この干潮時を目指して、観光客が一斉に集まってくる。毎年200万人の行楽客がSH州西海岸を訪れている。さらに1300万人の日帰り旅行者もいるそうだ。

マルティマール・ワットフォーラム

マルティマール・ワットフォーラム入口
マルティマール・ワットフォーラム入口

マルティマール・ワットフォーラム(Multimar Wattforum )は、SH州ワッデン海国立公園の情報施設。西海岸の中心部に位置し、港町テーニングのアイダー川沿いにある。地質学的な詳細や地元の動物について展示・解説している自然史博物館兼水族館だ。

触って、試して体感できる展示は家族に人気
触って、試して体感できる展示は家族に人気

3000平方メートルを超える敷地に、クジラ、干潟、世界遺産について老若男女を刺激するインタラクティブな展示がある。探検すること、触れること、試してみることに重点を置いている。

マッコウクジラの骨格標本。生存中の重量は約48トン、頭部の骨格重量は約2トンと圧巻
マッコウクジラの骨格標本。生存中の重量は約48トン、頭部の骨格重量は約2トンと圧巻

見どころは、全長17.50メートルのマッコウクジラの骨格標本が展示されているクジラ展示室、北海の280種の動物が展示されている37の魅力的な水族館、ダイバーが週に2回魚の群れに餌を与える壮大な大水槽など。

セーリングの街キール

シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州観光局 局長Dr ベティナ・ブンゲ氏。リューベックサミットにて
シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州観光局 局長Dr ベティナ・ブンゲ氏。リューベックサミットにて

バルト海に面したSH州の州都キールは、セーリングの街として知られる。全長約17キロメートルのバルト海の入り江周辺の風景は、帆船、クルーズ船、砂浜、牧草地、森、湖がキールならではの光景を見せている。

水と太陽を満喫する若者たち
水と太陽を満喫する若者たち

キール市民の生活は、水と共にある。スカンジナビア半島ほどではないものの、キールもフィヨルドの街として美しい景観から観光名所も多々ある。

大型クルーズ船は見るだけでも楽しい
大型クルーズ船は見るだけでも楽しい

また大型クルーズ船はもちろんのこと、船舶がいつも停泊しており、国外への玄関口として、独特な雰囲気を持っている。

天候に左右されず好評の市内観光バス
天候に左右されず好評の市内観光バス

市内観光には「ホップオン、ホップオフのバスで主要観光スポットを巡る」、デンマークの91年間の統治時代を振り返り、それが街の発展にいかに有益であったかを知る「デンマーク時代のキールを知るツアー」や「海洋保護ツアー」など、キールならではの興味深いツアーを提供している。

海からキールの街並みを見学
海からキールの街並みを見学

キールの持続可能性プロジェクト

市庁舎前広場は世界からヨットが集まるセーリングの祭典「キールウィーク」の準備でスタンド設置が始まっていた
市庁舎前広場は世界からヨットが集まるセーリングの祭典「キールウィーク」の準備でスタンド設置が始まっていた

キールの人々はバルト海とともに生きており、海を保護していかなければならない。この街が直面している課題や、貴重な生息地を保護するためにもキールは、2050年までに気候変動に左右されない都市になるという目標を掲げている。

市内の花壇の管理は、ボックスごとにボランティアが責任をもって世話をしている。植物に向き合うことから自然保護を学ぶこともできるプロジェクトのひとつ。
市内の花壇の管理は、ボックスごとにボランティアが責任をもって世話をしている。植物に向き合うことから自然保護を学ぶこともできるプロジェクトのひとつ。

これには、エネルギー消費、温室効果ガス排出の削減、再生可能エネルギーの促進などの対策が含まれる。風力発電所の建設、太陽エネルギーの利用、エネルギー効率化対策の推進を通じて、再生可能エネルギーの拡大を促進するなどをゴールに設定している。

市内の歩行者天国を気持ちよく闊歩するガチョウの家族に通行人も足を止めて凝視していた
市内の歩行者天国を気持ちよく闊歩するガチョウの家族に通行人も足を止めて凝視していた

これらの取り組みは2021年のドイツ・サステナビリティ・アワードの大都市部門を受賞しているそうだ。ここでは、キールにおける持続可能なガストロノミー/小売店の取り組みは約20あるそうだ。一例を紹介しよう。

近年、ドイツの各都市では観光スポットの見学を推奨するだけでなく、持続可能な取り組みについてのツアーも行っている。参考までに昨年はベルリンから循環型経済でさらに持続可能な都市を目指す取り組みを紹介した。興味があれば是非目を通してほしい。

帆船で100%ヴィーガンレストラン

潮風に吹かれながら船でいただく食事はなぜか美味しい
潮風に吹かれながら船でいただく食事はなぜか美味しい

キール港に停泊している帆船フリーダム(Freedom)では、100%ヴィーガンのサンドイッチ、軽食、ケーキ、アイスクリームを楽しむことができる。古い帆船を買い取り修復し、運営は協働組合制で行われているそうだ。

アウトドアファッションを「サスティナブル」にした先駆者ティモ・ぺルシュケ氏

キール観光局マーケッテイング部のカタリナ・フォルプさんの案内で市内を巡った。最後に持続可能な取り組みとして紹介してくれたのは、「ラブ・マイ・アース(以下LME)」。

LME 店内にて
LME 店内にて

同店の創設者ティモ・ペルシュケ(Timo Pershke)氏が日曜日にもかかわらず出迎えてくれた。

ティモ・ペルシュケ氏
ティモ・ペルシュケ氏

同氏は2021年秋、サスティナブルなアイテムへのアクセスをより簡単にすることを目的にLMEをオープンした。取り扱っている主要商品は、レディース&メンズのアウトドアファッション。ジャケット、パンツ、Tシャツ、ジャンパーなどリサイクル可能なポリエステル素材を使用した衣料品をはじめ、マリンスポーツ用品や電動自転車なども提供している。商品は、すべてヨーロッパで生産されている。

営業は週4日。他の2日は、イベントや生徒を対象とした持続可能性や環境教育、海洋保護を学ぶワークショップ会場として、徐々に開放していく予定だという。

商品は購入もレンタルもニーズや目的に応じて可能で、自分のスタイル、スポーツ、そして地球の保護を簡単に組み合わせることができる。それが同店の価値観だという。

ユニークなのは、同店の取り扱う品には価格表示がされていない点だ(オンライン上では一部明記されている)。個人の判断で価格を決め、支払うという。

LME店内
LME店内

LME 店の商品を購入するためには、最低15ユーロの1回限りの寄付をしてサポーターになる。お礼として、持続可能なラインナップの中から寄付金に見合った商品を寄贈するという流れだ。ちなみに新規サポーター1名につき、寄付額から20%を国際的な非営利団体「Right to Play(遊びとスポーツを通じ、あらゆる環境の子供達の可能性を引き出すことを使命とする)」に寄贈し、子供たちの教育支援を行っているそうだ。

ペルシュケ氏はLMEを立ちあげる前、キール発アウトドアファッション企業PyuaのCEO として、多大な成功を収めてきた。その背景を少し紹介しよう。

サスティナブル衣料に目覚めたきっかけは日本からのリサイクル素材

同氏がアウトドアファッションに興味を持ち始めたのは学生の頃。ブラジルのサーファー天国に惹かれ、現地へ飛んだ。そして地元ブランドからウェットスーツやビキニを仕入れ、ドイツのサーファーショップに販売し、その後、ミュンヘンのファッション企業にアドバイスを提供した。

そんな中、日本のあるアパレル企業からリサイクル素材を送られた時、彼は感動し、取引先すべてにその素材を提供しようとした。しかし誰もその素材を欲しがらなかった。だったら自分がエコファッションを立ちあげようと一念発起し、リサイクル素材を用いたエコブランドPyuaを2008年に創設した。

その1年後、最初のスキー・ジャケットが発売された。当時、彼は再生ポリエチレンテレフタレート(PET)製の800着を生産した。新品のポリエステルに比べて、二酸化炭素を77%、エネルギーを83%削減したという。

こうして同氏は、これまではニッチだったウインタースポーツとエコを主軸としたファッションビジネスを国内外に拡大していった。

PyuaはFair Wear Foundation(フェア・ウェア財団)のメンバーであるだけでなく、繊維産業におけるより良い労働条件のためのキャンペーンも行っている。製造工程はすべてリサイクル・ポリエステルで構成されている。これが可能なのは、同社がリサイクル会社と緊密に連携しているからである。

特別に開発された「クローズド・ループ・リサイクル」により、同社は古着コンテナや専門小売店から使用済み衣類を回収し、そこから新しい製品を作るよう努めた。ポリエステルのみで構成される繊維製品は、粒状に分解され、そこから新しいポリエステル糸を得ることができる。再利用できないジッパーやボタンなどの残骸は、ダウンサイクルによってさらに処理される。

こうしてPyua は独自のリサイクル原理を開発した。従来のポリエステル生産に比べ、同社のリサイクル時に必要なエネルギーは5分の1以下となり、CO2削減を実現した。

またPyuaは、ブルーサイン(環境、労働、消費者の観点における持続可能なサプライチェーンを経た製品に付与される認証)のパートナーとして、PFC(炭素とフッ素のみから構成される化学物質)やテフロンも製造に使用していない上、製造はもっぱらヨーロッパで行われている。

そんな中で2018年、ペルシュケ氏はPyua のCEOから身を引き、その後ラブ・マイ・アースを起ち上げた。

ティモ・ペルシュケ氏
ティモ・ペルシュケ氏

同氏は、市場は変化を求めていると考えている。

「自然を犠牲にして作られたものは、今後数十年の間に消えていくだろう。PFCを使用しないことを望む企業が増えている。一般の人々は、結果として持続可能性を意識するようになった」

廃棄された繊維から新しい服を手がけ、社会的で持続可能なファッション業界で先駆者として活躍するペルシュケ氏は、「自分の2人の子供達にも明るい未来を提供していきたい」と、最後に述べた。

リベンジ旅行がブームに 

ドイツ連邦統計局Statista Market Insightsの推計によると、ドイツの旅行・観光産業は今年、コロナ危機以前の水準を上回るという。

2023年の旅行・観光市場の売上高は約622億ユーロとなり、「パッケージ・ホリデー」市場が最大のセグメントで、383億ユーロの取扱高が見込まれる。

旅行・観光市場はCOVID 19の大流行により大きな圧力を受けた。外国への旅行は、封鎖、制限、健康上のリスクのために不可能となり、世界中の人々に影響を与えた。

この危機から新たな旅行トレンドが生まれた。 第一に、数年間旅行ができなかったため、人々はより多くのお金を貯めることができた。市場の再開以来、この現象は「リベンジ旅行」として知られるようになった。

観光客にとって、特に旅行方法において、持続可能性がますます重要な役割を果たしている。環境への関心は、旅行会社による新しい、より持続可能な旅行の提案につながり、市場を再構築している。さらに、炭素税のような規制が旅行行動や観光に影響を与える可能性もある。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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