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ドイツ・「サスティナブル観光」国際サミット参加レポート 港町リューベックとキールより その1

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
コロナ禍以降はキャンピングの人気が急上昇。持続可能な旅の代表。

ドイツ観光局(DZT)主催「気候変動と価値観の変化の時代における旅」をテーマに世界中から集まるメディアに向けて討論を行う「インカミング&ブランドサミット」が6月上旬、ドイツ北部のシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州(SH州)リューベックで開催された。この国際サミットの中心課題は「持続可能性」。古都リューベックからSH州の州都キールまで、バルト海と北海の2つの海に囲まれた地域を5日間にわたり訪問した。(画像はすべて筆者撮影)

気候変動の影響は地球規模で感じられるが、干ばつ、洪水、森林火災といった異常気象の多くは、私たちの目の前から離れた場所で起きていることが多い。特に気温の変動や天候の変化に関しては、理論的にはその原因も人為的な気候変動である可能性があるが、ドイツでもいくつかの地域で明らかな変化が起きている。

DZTペトラ・ヘ―ドルファーCEO
DZTペトラ・ヘ―ドルファーCEO

サミットのコアイベントは 聖アネン美術館にて開催され、DZT のペトラ・ヘードルファーCEOの「サスティナビリティにおける観光ブランド、「GermanySimplyInspiring」と題したキーノートスピーチで幕を開けた。

アンホルト・イプソス国家ブランド指数副社長ジェイソン・マックグレース氏は、国際競争における観光国ドイツの評価に関して最新の国家ブランド指数調査結果を紹介した。

マーケッテイング広報部長バーバラ・シュワルツ氏(左)とビジネスツーリズム部長アイケ・クリスティアン・フォック氏
マーケッテイング広報部長バーバラ・シュワルツ氏(左)とビジネスツーリズム部長アイケ・クリスティアン・フォック氏

またリューベック観光局マーケティング広報部長バーバラ・シュワルツ氏が、「リューベック&トラヴェミュンデ。北ドイツの宝石」と題して街の魅力を紹介した。

アフターコロナ、ロシアによるウクライナ侵攻、そしてインフレによる物価高など、観光業界リカバリーに立ちはだかる阻害要因は多々あるが、今回の訪問先で共通する「水」を中心に気候変動と持続可能な旅のこれからを考えてみた。その1ではリューベックを中心に「水」をテーマとして、その2ではキールで持続可能に対応したビジネス事例を紹介したい。

リューベックの魅力「世界遺産、ハンザ同盟都市文化、水」 

ハンザの女王と称されるリューベックは、ドイツ北部ハンブルクから北東約 70キロメートルほど離れたバルト海沿岸に位置する人口 22 万人の街。ハンザ同盟の中心都市として商業で栄え、トラヴェ川とトラヴェ運河に囲まれた中州は、8世紀以上にわたる街並みが現在もそのまま残る旧市街になっている。

リューベックは1143年、ホルシュタイン伯アドルフ・フォン・シャゥエンブルクによって設立された。13世紀には帝国都市として自治権を獲得し、北海・バルト海貿易を独占していた。ハンザ同盟を結成して同盟衰退の17世紀まで約500年にわたり、ハンザ同盟の盟主として繁栄を遂げた。

右はレンガ造りの船員組合(ギルドハウス)、空には気球が飛んでいた
右はレンガ造りの船員組合(ギルドハウス)、空には気球が飛んでいた

当時の名残が随所に残る中世の路地をのんびりと散策しながら、8世紀以上にわたるモニュメントを巡り、古い城壁の奥に息づく活気に浸り、スタイリッシュな北欧の美を飽きることなく満喫できるはず。

リューベックを特徴づける魅力は、「ユネスコ世界遺産、ハンザ同盟都市文化、水」の3つの領域だ。

旧市街北に建つ城門はかつてリューベックの中世都市要塞にあった最古の門。中世都市を守る4つの要塞門が東西南北にあった。現在は東のホルステン門とこの門の2つが残っている
旧市街北に建つ城門はかつてリューベックの中世都市要塞にあった最古の門。中世都市を守る4つの要塞門が東西南北にあった。現在は東のホルステン門とこの門の2つが残っている

第1に完全に水に囲まれた旧市街全域が1987年、ユネスコ世界遺産に登録されたこと。文化的な歴史、それぞれの世紀の時代の多彩な景観は、旧市街の建築文化全体にその姿を現している。参考までにドイツには2023年7月現在、計51の世界遺産があり、世界では3番目に多い世界遺産数を有している。 

旧市街全域が世界遺産に登録された決め手となったのは、今日まで保存されている計画的な街並み、歴史的建造物の原形、そして5つのゴシック様式のレンガ造りの教会と7つの塔を持つ、紛れもない街のシルエットだ。1800の建造物が世界遺産に登録されており、90の中世の路地と中庭が現在も旧市街に保存されている。

かつて修道院だった聖アネン美術館の回廊にて
かつて修道院だった聖アネン美術館の回廊にて

第2にハンザ同盟都市としての伝統、多くの博物館や文化イベントなどで訪問客の心をときめかせる文化シーンがあること。

生活を彩るトラヴェ川
生活を彩るトラヴェ川

第3にリューベックの特徴である水の存在だ。人々の生活を彩る水は、数世紀にわたって交易と繁栄を可能にしてきただけでなく、今日のすべての「流れ」を可能にしている。水辺や水上での体験は、リューベックの優れた生活の質だけでなく、休暇の質を支える要素となっている。

ホルステン門と塩倉庫群

リューベックのランドマーク・ホルステン門
リューベックのランドマーク・ホルステン門

リューベックのランドマークはトラヴェ川沿いの「ホルステン門」。旧市街の入口に位置するこの門は15世紀後半に、裕福な街を敵の攻撃から守るための要塞の一部として建てられた。厚さ3.50メートルにも及ぶ堅固な壁の重みで地面に負荷がかかり、傾いている。現在内部は市の歴史博物館となっており、昔のリューベックの模型や、帆船模型、中世の武具などが展示されている。門の上部に書かれているラテン語は「内に結束を、外に平和を」という意味。

塩倉庫群だったレンガ造りの建物(右)
塩倉庫群だったレンガ造りの建物(右)

ホルステン門のすぐ近くには1398年に完成したステクニッツ運河を通ってリューネブルクから運ばれた塩が保管されていた、ルネサンス様式のレンガ造りの歴史的な塩倉庫群があり、独特な雰囲気を醸し出している。リューベックから塩がスカンジナビアに運ばれ、ハンザ同盟都市にとって非常に有利なビジネスであり、当時の富の基盤でもあった。  

市庁舎

市庁舎
市庁舎

ルネッサンス様式の白い建物アーケード部分のカフェはマルクト広場の一等席
ルネッサンス様式の白い建物アーケード部分のカフェはマルクト広場の一等席

リューベックの市庁舎がマルクト広場に建設されたのは1230年。それ以来、市庁舎はほぼ1世紀ごとに増築され、今日ではさまざまな時代の様式や建築が見事にミックスされている。16世紀に増築された白いアーケード部分はルネッサンス様式、議会ホールはゴシック様式、謁見の間はロココ様式と多彩な建築様式が混在している。

ゴシック様式の部分は、リューベック特有の黒レンガ造りで圧倒される美しさ。バルト海からの強風を通すための大きな丸穴が開いた壁や緑色のとがった塔も特徴的だ。舎内はガイドツアーで見学できる。

旧市街の芸術と文化

リューベックには11の博物館がある。今回のサミット会場は、その一つである聖アネン美術館で開催された。10年前に2つの館が合体して聖アネン美術館地区となった。

聖アネン美術館内の中庭にて
聖アネン美術館内の中庭にて

入口のある近代的な美術館では、1945年以降の芸術に関する臨時展示が行われている。歴史的な美術館では、かつての聖アネンの回廊の部屋で、約9,000平方メートルの敷地に中世の重要な展示物が展示されている。マルチメディア・プレゼンテーションでは、ミュージアム・クオーターの多様なエリアが組み合わされ、7世紀にわたる芸術と文化をバーチャルに巡ることができる。

3人のノーベル賞受賞者

マン兄弟の記念館は白い建物
マン兄弟の記念館は白い建物

リューベックは3人のノーベル賞受賞者を輩出した。 トーマス・マン(1875-1955)1929年ノーベル文学賞、ウィリー・ブラント(1913-1992)1971年ノーベル平和賞、ギュンター・グラス(1927年ダンツィヒ生まれ、2015年リューベック没)1999年ノーベル文学賞。ウィリー・ブランド・ハウス・リューベックとギュンター・グラス・ハウスでは、2人のノーベル賞受賞者の仕事と人生を知ることができる。兄ハインリッヒ(同じく作家)と弟トーマス・マン兄弟の記念館「ブッデンブロークハウス」は、改修工事中。

リューベックの名産品

市庁舎アーケードカフェ「ニーダーエッガー」
市庁舎アーケードカフェ「ニーダーエッガー」

一度は食したい本場のマジパンケーキ
一度は食したい本場のマジパンケーキ

市庁舎アーケード店の対面にあるニーダーエッガー店の3階がマジパン博物館。マジパンでつくられたホルステン門
市庁舎アーケード店の対面にあるニーダーエッガー店の3階がマジパン博物館。マジパンでつくられたホルステン門

マジパン博物館にて
マジパン博物館にて

街の名産品としてあげたいのはまずマジパン。日本でも有名なマジパンの老舗店ニーダーエッガーは市庁舎のすぐ横にある。店内には無料で見学できるマジパン博物館もあるので、カフェで一休みしながら立ち寄りたい。

また、リューベックには、ボルドーから若い赤ワインを樽単位で輸入し、街のワインセラーで熟成させて瓶詰めし、"Lübecker Rotspon "としてブランド化するという、非常にユニークで歴史的な伝統もあり、料理と共に是非味わいたい。

中世から現代までの社会福祉

聖霊養老院正面
聖霊養老院正面

ハンザ同盟で財を成した裕福な商人たちは、私腹を肥やしただけでなく、老人や病人、ホームレスなどを受け入れる福祉施設や船員組合などの施設設立のために資金も惜しみなく提供した。なかでも13世紀後半に建てられた「聖霊養老院Heiligen-Geist-Hospital」は、ヨーロッパで最も古い中世の医療・救貧施設のひとつ。

聖霊養老院大ホールにて
聖霊養老院大ホールにて

入口の大きなホールには、富豪による寄付で建設された階段や装飾も見応えがある。

生活を特徴づける水

水はリューベックの人々の生活を特徴づける要素。水辺のピクニックを楽しみ、Eボートに乗って島の形をした旧市街を周遊するのもおすすめ。

バルト海景観。海とビーチチェア、砂浜
バルト海景観。海とビーチチェア、砂浜

また、リューベックのシーサイドリゾート地 トラヴェミュンデは、リューベック湾にそそぐトラヴェ川の河口に直接面しており、ウォータースポーツのメッカ。北海やバルト海でよく目にする「シュトランドコルプ(藤製の日よけ付きビーチチェア)」と海、レストランやクラブ、ビーチ施設が立ち並ぶこの地区は、まるで海外にいるような雰囲気を醸し出している。

7月16日付公開のレポートによると、トラヴェミュンデは、「人気あるビーチ」の第1位だった。全体ではトップ10の人気ビーチの半数がSH州にある。きめ細かい砂、澄んだ水、長い散歩道が魅力的なビーチでリラックスしたいなら、わざわざ空路で遠出をしなくても北ドイツで充分楽しめ、しかも環境にも優しい。

このランキングは、別荘予約のポータルサイトHoliduが、インスタグラムとTikTokでビーチに言及した投稿の数を測定した結果だ。

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リューベックサミットでのワークショップ締めくくりで、DZTヘ―ドルファーCEOは、次のように語った。

「観光誘致の国際競争で訪独外国人を支えている土台は、エコロジーと経済性、そして社会責任とのバランスである」

60か国を対象として行われたアンホルト・イプソス調査結果によると、国家ブランド指数2022年でドイツは1位、6年連続首位を達成した。ドイツは国家の市場価値分野において8年連続で国家ブランド指数総合ランキング首位を保持している。

最後に、バルト海と北海の生活を特徴づける要素である「水」の現状と課題について、探ってみた。

ドイツ連邦統計局の「2023年の北海とバルト海の現状・持続可能な利用に関する報告書」によると、気候変動は日常生活にまで及んでいると述べている。

今や国際社会は、健全な海があってこそ健全な地球があることを認識している。国連の持続可能な開発目標14(SDG14・海の豊かさを守ろう)は、その進むべき道を示している。富裕な北海とバルト海の沿岸諸国(オランダ、ドイツ、デンマーク)も、この目標に照らし合わせて評価されなければならない。 

海洋汚染をコントロールし、SDG14を達成するためには、2025年まであまり時間が残されていない。北海とバルト海に面する国々は、この分野ですでに前進を遂げている。政治的措置が効果的であり、法律や禁止令によって海洋汚染と闘うことができることは明らかになっている。

しかし、北海やバルト海に流れ着く有害物質や潜在的に有害な物質は、いまだにあまりにも多い。過去に海水に排出されたものが長期間にわたって環境を汚染しているのだ。海洋に存在する膨大な量のプラスチックやマイクロプラスチックに対して、革新的な解決策が必要とされている。

また地球温暖化で気温が高くなり、陸上の氷河や氷床に貯蔵されていた氷も溶け出している。解氷した水は海に流れ込み、海水量が増えて海面が上昇する危機も今や現実に起こっている。

気候変動はすでに世界中の海洋を大きく変化させている。こうした変化は今後も続くだろうし、温室効果ガスを削減することでしか緩和できない。北海とバルト海の流域国がSDGs14の実施を最優先で推進することがより重要だ。海洋生態系が安定し、回復力が高まれば高まるほど、気候危機のストレスに対処しやすくなる。

ちなみにドイツ・ルフトハンザ航空(LH)とドイツ国鉄(DB)では2030年までに温室効果ガス削減50%(2019年比)を目指している。(リューベック国際サミットLHアレクサインダー・トルヴェート氏、DBマックス・クリスティアン・ランゲ氏による報告)

自然豊かなリゾート地を守り、水や自然の恵みと共生するためには、一人一人が配慮することで、大きな成果が生まれることは言うまでもない。

リューベックが生んだ偉大な政治家ヴィリー・ブラントの名言をここに記したい。

「大きなことを語るよりも、小さなことを実行することの方がより重要だ」 

次回はバルト海南西部にあるリューベック湾を経てキールまでの旅と持続可能なビジネス事例を紹介したい。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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