日本の「STAP特許出願」拒絶理由にハーバード大が想定外の応答
今年の3月に「日本でもSTAP特許出願に拒絶理由通知」という記事を書いています。小保方さんを発明者の一人とするSTAP細胞の製造方法に関する特許出願(もう、理研は権利を放棄しておりブリガム・アンド・ウィメンズ病院(ハーバード大)の単独出願になっています)に特許庁から暫定的な拒絶が通知されたというお話しです。
この出願(特願2015-509109)、もう権利化はあきらめたのかと思っていたのですが、なんと応答期期限ぎりぎりの9月7日にクレーム補正と意見書による対応が行なわれていました。結構大胆なクレーム補正が行なわれています。説明の簡略化のためにクレーム1(一番範囲の広いクレーム)のみを説明します。
旧クレームが「細胞をストレスに供する工程を含む、多能性細胞を生成する方法。」であったのに対して新クレームは「細胞を、低pHストレスに供する工程を含む、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法であって、該低pHが、5.4~5.8のpHであり、且つ、pHの調整がATPを用いて行われることを特徴とする、方法。」と変更されています。
重要なのは、「多能性細胞」を「Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊」に変更している点です。つまり、多能性(すべての細胞に分化できる能力)という条件はもうあきらめたことになります。STAPとは「刺激惹起性多能性獲得細胞」のことですので、もはやこの出願は「STAP特許出願」ではなくなってしまいました。バカンティ教授の宣誓供述書等により「STAP細胞はありまあす」を主張している米国での対応とは対照的です。方向性を転換して「STAP現象」などと呼ばれていた途中経過の特許化を目指すということだと思います。
ゆえに、仮に今後この出願が特許化されたとしても、STAP細胞が特許化された、また、STAP細胞の存在が証明されたという話にはなりませんので、注意が必要です。
ただ、仮にこの出願が特許化されてしまうと、将来的に誰かが酸によるストレス+何らかの工程により多能性細胞を作る方法(いわば真のSTAP細胞の作成方法)を発見した時に、この特許のライセンスがないとその方法を実施できなくなってしまうという問題が発生し得ますのでちょっとややこしいことになります。
技術的な詳細については、細胞生物学のバックグラウンドをお持ちの方に是非フォローして頂きたく思います。
【追記】IT・科学カテゴリーに科学ライターの詫摩雅子さんが技術的詳細まで突っ込んだ記事を書かれていますので是非ご一読ください。