消費税率引き上げで先行き不安強まる…2019年8月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は上昇、先行きは下落
内閣府は2019年9月9日付で2019年8月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「このところ回復に弱い動きがみられる。先行きについては、消費税率引上げや海外情勢などに対する懸念がみられる」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が3月分以降、6か月連続する形となっている。
2019年8月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス1.6ポイントの42.8。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「やや悪くなっている」が増加、「変わらない」「悪くなっている」が減少。原数値DIは42.6。
→詳細項目は「飲食関連」「住宅関連」「製造業」「雇用関連」が下落。「製造業」のマイナス2.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス4.6ポイントの39.7。
→原数値では「飲食関連」「雇用関連」以外が減少、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは39.1。
→詳細項目は「飲食関連」「雇用関連」以外が下落。「小売関連」のマイナス9.0ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。
昨今では現状判断DI・先行き判断DIともに低迷傾向と表現できよう。
ここ数か月はDIの明らかな低下、つまり景況感の悪化が確認でき、報告書のコメントもそれを裏付けるようなものに変わっている。また冒頭でも触れている概況のフレーズの変化は注目に値すべきもの。景況感の回復の弱さどころか後ずさり感すら覚えるところがある。とりわけ先行き判断DIの下落ぶりが著しい。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
今回月の現状判断DIは合計で前回月から1.6ポイントのプラス。詳細項目では「小売関連」「サービス関連」が上昇。もっとも大きな上げ幅は「小売関連」の3.6ポイント。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。
景気の先行き判断DIでは詳細項目のうち「飲食関連」「雇用関連」が上昇。上げ幅は「飲食関連」の2.1ポイントが最大。今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。
「小売関連」の下げ幅が9.0ポイントと非常に大きなものとなっているが、具体的なコメントで確認した限りでは、2019年10月に実施予定の消費税率引き上げへの不安が大きな影響を与えているようだ。
消費税率引き上げへの不安強まる
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・消費税増税を意識した買物の傾向が強くなっている。特に4Kテレビなどの高価格商材、リフォーム関連の販売量が増えている(家電量販店)。
・暑い日が続いて飲料水、アイスがよく売れている。また、お祭り期間中も天候に恵まれて人出もよい状態である(コンビニ)。
・来客数に変化はみられない。また、消費税増税前の駆け込み需要も見受けられない(乗用車販売店)。
・訪日外国人が激減している。韓国人観光客が減り、売上に影響が出始めている(ショッピングセンター)。
■先行き
・酷暑が落ち着くと、一般客が増えるほか、団体客の需要も増えてくる(一般レストラン)。
・旅行業界でいえば、香港や韓国の情勢等不安材料が多いので、全体的に考えるとマイナスと見込まれる(旅行代理店)。
・消費税増税と、それによる駆け込み需要の反動で、売上が大きく減少すると想定している(百貨店)。
・野菜の相場安と、消費税増税による節約で、既存店の来客数および買上点数の前年割れが続く(スーパー)。
今年の8月は昨年ほどではないもののそれなりの暑さが続き、季節商品は相応な動きを示した模様。他方、米中貿易摩擦に加え、韓国や香港での情勢不安定化によって観光などで悪影響が生じている。10月に予定されている消費税率引き上げについても、駆け込み需要の類はさほど見られず、引き上げ後の消費低迷への不安感の方が大きいようだ。
企業関連では米中貿易摩擦の激化に伴う世界経済の後退感への不安が確認できる。
■現状
・民間の継続工事に引き続き、公共工事の発注も出そろってきている。保有労務量からみると、建築工事では、く体工事や仕上・設備工事が飽和状態となってきている(建設業)。
・米中貿易摩擦のあおりを受け、半導体関連は依然重い動きである。後期にかけて、持ち直しの傾向はあるものの、中小企業への影響は、読みが困難な状況である(電気機械器具製造業)。
■先行き
・海外からの受注状況に改善がみられないことに加え、円高となってきていることが懸念される(一般機械器具製造業)。
・米中貿易摩擦により、企業の設備投資が減っている。この状態は3か月後も続くと予想され、景気の悪化につながる(不動産業)。
企業関連では消費税率引き上げよりも米中貿易摩擦の方が影響は大きいようだ。またそれが円高を容易に引き起こすことから、企業にとってはダブルパンチとなっている感はある。
雇用関連では人材需給に変化が生じている気配が見える。
■現状
・製造業を中心とする業種で、求人数は余り増加しておらず、どちらかといえば減少傾向にある。また、一部の業種では親会社からの受注減により休業を開始したなど、余りよい話もなく、景気のピークは過ぎたと感じている(職業安定所)。
■先行き
・管内企業からは、米中貿易摩擦等の今後の影響について懸念する声も聞こえているが、今のところ直接的な影響については聞いていない。相変わらず人手不足の声はよく聞かれる(職業安定所)。
DIの動向の限りではすでに景気のピークは過ぎたどころか不景気に向けた動きの中にある感は否めないのだが、雇用関連では相反する声が見受けられる。つまり双方の動きが同時に起きていると読み取ればよいのだろうか。また「親会社からの受注減により休業を開始」の辺りは米中貿易摩擦の影響による可能性は否定できない。
今件のコメントで全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計18件、先行き計43件、合わせて61件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好13件、やや良好16件、不変79件、やや悪い49件、悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでもないことが統計からはうかがえる。ただこの数か月は「やや悪い」の件数が増えているのが目に留まる。
消費税率の引き上げに関しては先行きのコメントにおいて「消費税」だけで686件もの言及が確認できる(前回月は556件)。駆け込み需要や景況感対策の施策への期待の声もあるが、不安や懸念といったネガティブな内容が圧倒的に多く、景況感の悪化が危惧される。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見受けられず、これが現状なのだろう。
また駆け込み需要の類もあまり見受けられないのが大いに気になる。「目立った動きは無い」「ほとんど聞かない」「実感がない」「盛り上がりは感じられない」などが多分である。
米中貿易摩擦に関しては先行きのコメントにおいて「中国」で24件、「米中」で67件が確認できる。こちらもネガティブな内容がほとんどで、景況感の足を引っ張っていることは間違いない。特に製造業でマイナスの影響が顕著化しているのが目に留まる。今後、米中間の対立が受注量にさらなる影響をおよぼすことは十分に考えられるよう。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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