次期CEOはどんな人物がふさわしい? 難航が予想されるマイクロソフトの後継者選び
米マイクロソフトのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)が今後1年以内に退任すると発表されたことを受け、海外メディアがこぞってこのニュースを取り上げている。
とりわけ注目されているのが今後どのような人物が同氏の後継者になるのかという点なのだが、社内の各部門が大きな権限を持ち、影響力の大きいビル・ゲイツ会長やバルマーCEOが長年トップを務めてきたマイクロソフトのような会社では、後任選びは容易ではないと指摘されている。
ナンバー2が育たなかったバルマー体制
米ニューヨーク・タイムズによると、マイクロソフトでは過去十数年の間、次期CEO候補と目されてきた幹部が相次ぎ去った。
残された現在の幹部はバルマーCEOの強い個性に従うか、協調して仕事をするタイプ。このため同社ではナンバー2と言える人物が育っておらず、次期CEOが選びにくい状況にあるという。
アナリストらの間では、社外から次期CEOを探すのではないかとの観測も出ている。
その中には、米フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO(最高執行責任者)、マイクロソフトの元取締役で米ネットフリックスのCEOを務めるリード・ヘイスティングス氏、あるいはマイクロソフト出身で、現在フィンランド・ノキアのCEOを務めるスティーブン・エロップ氏などの名が挙がっている。
しかし、いずれせよ今のマイクロソフトに求められるのは、モバイル端末などの消費者向けテクノロジーに精通し、この分野に新たな息を吹き込むことができる人物。そして、マイクロソフトのエンジニアを説得することができ、大企業を改革した実績を持つ人。
これらの条件にあてはまる人物はなかなかおらず、現在のところ候補者名簿は白紙状態だという。
守りの姿勢が根底にある企業文化
一方、米ウォールストリート・ジャーナルは、マイクロソフトの社内で長年、常識とされてきた守りの姿勢という企業文化にメスを入れられる人物が必要だと指摘している。
記事は、2つの例を挙げて同社の企業文化を説明している。1つは、アップルがタブレット端末「アイパッド(iPad)」の初代機を発表した2010年1月の数カ月前にマイクロソフトが「クーリエ(Courier)」と呼ぶ2画面タブレット端末を開発していたという事実。
こちらについては、2010年の春にバルマーCEOが次期ウィンドウズの開発に注力することを理由に、計画の中止を従業員に告げている。
もう1つは、アップルがデジタル音楽プレーヤーのアイポッド(iPod)で成功を収めた2005年当時、バルマーCEOを交えた社内ミーティングで、マイクロソフトの社員が対抗サービスの可能性を検討するよう進言したこと。
この時バルマーCEOは皮肉を込めて「この中で我が社が音楽販売事業をやっていることを想像できる人は挙手してくれ」と言ったが、手を挙げる人は1人もいなかった。
1990年代に戻れ!
前者の結果はご存じの通りだ。今やタブレット端末はアップルだけでも年間7000万台を販売する急成長製品。一方パソコン販売は過去最大の落ち込みを記録。アイパッドに対抗すべく市場投入したウィンドウズ8も苦戦を強いられている。
後者の話の続きは、音楽プレーヤー「ズーン(Zune)」だ。社内ミーティングから1年以上過ぎてからマイクロソフトはこの製品を市場投入し、音楽配信サービスも始めた。だが結局アイポッドの牙城を崩すことはできず、ズーンはその後販売中止を余儀なくされた。
ウォールストリート・ジャーナルによると、マイクロソフトには、時として安全性と利益が、技術革新よりも優先されるという企業文化があるという。
同社では日々様々な新技術が開発されている。しかしせっかくそうして生まれた技術も、既存製品の利益を脅かすと判断されれば、中断される。これがアップルやグーグルなどのライバルの台頭を許した理由なのだという。
1990年代の同社には、既存の枠組みにとらわれずに物事を考えることができる技術者が大勢いた。そうした技術者を呼び戻すためにも、次期CEOは社外から選ぶのが望ましいという意見が聞かれるという。
(JBpress:2013年8月27日号に掲載)