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北欧の自殺率は意外と高い ノルウェー王女の元夫の自殺 政府が心の病気調査へ、王様の言葉が感動を呼ぶ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
ルイーセ王女と自殺したアリ・ベン氏(写真:REX/アフロ)

昨年のクリスマス、ノルウェー王室のマッタ・ルイーセ王女の元夫であるアリ・ベン氏(47)が自殺をした。

作家でアーティストでもあったベン氏は、自由な言動で物議となることもあった。王女とは2016年に離婚したが、2人の間には3人の子どもがいる。「絵を描く」という共通の趣味があったソニア王妃とは、離婚後も親交が続いていた。

ベン氏は、「王室に新しい風を吹かせた人物」、「ありのままに生きようと自分を偽らなかった人」として、離婚後も芸能人のような立ち位置にいた。

自殺の動機は明らかになっていないが、同氏はメンタルヘルスが不調であることを世間に隠していなかった。

クリスマスは「家族や大切な人と一緒にいる」という風潮がある中、さらなる孤独感を感じる時期でもある。クリスマスの夜に命を絶った有名人の死は、ノルウェーの人々に大きな衝撃を与えた。

自殺が明らかになった直後、「教会SOS」の電話相談窓口には1日で800件もの連絡があり、ニュースに動揺している人が多いことは明白だった(公共局NRK

大晦日は国王のスピーチを生中継でテレビ鑑賞することがノルウェーでの習慣だ。元・義理の息子であり、3人の孫の父親でもあるベン氏の自殺に、文書以外ではコメントをしていなかった王様が何を言うか、大きな注目が集まっていた。

「私たちはクリスマスのアリ・ベンの死に大きく動揺をしております。市民の皆様が王宮前広場に火をともし、その思いやりに触れて、感動しました」

「身近に愛があっても、人生は時に辛いものです。闇の中で、もう何も救いがないと感じることもあります。命を絶つしか出口はないと思う人もいます」

「大好きだった人がいなくても、残った人は生き続けなければいけません。これから何が待っているか分からず、その不確かさが私たちをさら傷つきやすいものにします。私たちにできることは、互いを思いやることです」

悲しみを隠さない王様の姿に感動した国民は多く、SNSでは賞賛の声が相次いだ。

スピーチを公共局NRKで鑑賞した人は79万7千人、民間TV2では9万1千人(VG)。国王が病気となった2003年以来の高視聴率を記録した(同国の人口は530万人)

元旦には首相の新年のスピーチをテレビ鑑賞することも恒例行事となっている。ソールバルグ首相は、「アリ・ベンという、かけがえのない命を失いました。2018年にノルウェーで自殺をした人は674人もいます。多くの国が、精神的な健康の課題を抱えています。特に若い少女たちが」。

首相は、若者と若い少女を中心に、心の病気と自殺の原因を調査し、政府として対策を練ると発表した。

北欧の自殺率は意外と高い

世界保健機関(WHO)によると、世界の自殺者数は年間80万人近くに上る。

北欧は世界で一番幸福な国ランキングでトップ常連国だが、自殺率が低いわけではない。北欧5か国で自殺率が最も高いのはフィンランド。

人口10万人中の粗自殺率(2016年)

世界全体では10万人当たり10.5人

デンマーク 12.8人

フィンランド 15.9人

アイスランド 14人

ノルウェー 12.2人

スウェーデン 14.8人

日本 18.5人

参照:WHO Global Health Observatory data repository

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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