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東京オリンピック・パラリンピック招致決定で願うこと

萩原智子シドニー五輪競泳日本代表

東京オリンピック・パラリンピックが決定!

日本時間9月8日早朝、アルゼンチン・ブエノスアイリスで行われた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、「2020年夏季オリンピック・パラリンピック」の開催地が、日本・東京に決定。夏季大会としては、1964年以来、56年ぶりの開催と言うこともあり、日本全体が盛り上がっている。

今回は子供たちの支持も感じられた

私は、日本オリンピック委員会(JOC)の「オリンピック教室」で学校を回り、子供たちに、運動の時間や座学の時間を通じて、オリンピックの価値(卓越性・尊敬・友情)を伝える機会があった。その中で、繰り返し、東京オリンピック・パラリンピック招致についても話をさせてもらった。その中で大きな衝撃を受けたことがあった。

前回の2016年東京オリンピック・パラリンピック招致活動にも参加したことがあったが、当時は、学校でオリンピックの成り立ちなどで質問をしても反応がないことが多く、それが当たり前のような空気さえあった。しかし今回は、質問に対して、複数の子供たちが活発に発言してくれたのが印象に残る。それに加え、もし2020年に東京へ招致が決まったら、「選手として出場したい」や「通訳としてボランティアしたい」と言った意見も。2016年の招致活動に比べて、子供たちがオリンピック・パラリンピックについて理解していることに手ごたえを感じていた。これは、ロンドンオリンピック・パラリンピック日本代表選手の大活躍や現役アスリートが積極的に招致活動に尽力してくれたことも大きな力となっている。

前回の招致では、国民の支持率が低いことも指摘されてきた中で、今回は、国民のオリンピック・パラリンピック招致への関心、熱意が、はっきり感じられていた。町を歩いていても、招致活動で使用されていたピンバッチを胸に付けている人が多く、招致へ向けて「オールジャパン」体制になっていると感じたこともあった。

笑顔あふれる東京五輪に

オリンピック・パラリンピックは、技と力を競い合うためだけのものではない。オリンピックは、1896年に、ギリシャのアテネで、平和を祈念して始まった。スポーツが与えてくれる影響は、はかり知れないものがある。特にスポーツ現場で生まれる「笑顔」は最高だ。笑顔は、優しさのシンボルマークであり、世界共通。言葉が通じなくても、心が通じ合える最高のツールとなる。心が強いからこそ、笑顔になれると感じる。

私が出場した2000年のシドニーオリンピックで、小さな平和、スポーツの素晴らしさを感じる出来事があった。男子100m自由形に出場した赤道ギニアのエリック・ムサンバニ選手の泳ぎを見たときだ。オリンピックの舞台で、溺れそうになりながら泳ぐ彼の姿に、いつしか会場全体が総立ちになり、彼に声援を送った。その光景を今でも鮮明に覚えている。

スポーツは、たった一人の一生懸命な姿で、人種を越えて、心をひとつにできる。スポーツの世界で、強さと優しさを教えてくれたのが、五輪だった。スポーツの力は、本当に素晴らしいと、あらためて実感した瞬間でもあった。日本でも、きっとそれぞれの競技の会場で、小さな平和が誕生するだろう。

被災地復興を第一に

今回の東京オリンピック・パラリンピック開催にあたって、「復興」が大きなテーマとして掲げられている。東日本大震災が起こり、約2年半が過ぎようとしている。福島、宮城、岩手には、何度か訪れているが、まだ「本当の意味での復興」は出来ていない。

現地の人たちと話をする中で、何度も耳にしたのは、「これは、まだ復興とは言えない。」と言う言葉。沢山の瓦礫の山があり、その近くをマスクをした子供達が登下校する姿も。福島では、まだ原発の影響で、家に帰れない方々も存在している状況だ。福島では、外で活動出来る時間が少ないため、肥満傾向児の割合が全国最高値に達した現状がある。この状況を打破できるようなアプローチをしていきたい。

今回、東京オリンピック・パラリンピック招致に対し、被災地・福島の知人は、「地震、津波、原発、風評などの4重苦と今も続く汚染水問題、水問題は死活であり影響は底知れない。この状況の中でのオリンピックだが、希望の光は待ち望んでいる。沢山のスポーツ選手が、被災地に来てくれて、励ましてくれたことは、大きな力になった。一方では、五輪に浮かれている環境ではない、もっと福島を向いて復興加速して、の願いもある。」と複雑な胸の内を明かしてくれた。今回の東京オリンピック・パラリンピック招致は、被災地の「希望の光」として、大きな期待を寄せていることは間違いない。

東京オリンピック・パラリンピック招致が決定したことで、7年後の2020年に向けて、明確な大きな目標が生まれた。特に被災地復興を第一に考え、みんなで7年後を迎えたい。2020年の開催に向けて、心をひとつにできる、大きな共通目標。オリンピック・パラリンピック開催が決定した今、復興に向けて、ここからが本当の勝負であり、真価が問われることになる。

パラリンピックの強化や環境整備にも期待

東京オリンピック・パラリンピック開催決定は、日本全国が、スポーツ活動にチャレンジするきっかけになり、環境の整備も進んでいくだろう。

オリンピック代表選手と共に、活躍が期待されるのは、パラリンピックに出場する選手たちだ。私は、何度かパラリンピックを目指す競泳選手と合宿を共に過ごしてきたが、2016年リオデジャネイロ、2020年東京を目指している選手たちにとって、現状、強化体制が整備されているとは言いがたい。

選手や関係者が問題点として挙げるのは、練習場所の確保、指導者不足、強化費も課題として挙げられている。都内では、練習環境の整備が徐々に整ってきてはいるが、まだ完全な強化体制ではない。それに加え、地方では、パラリンピックを目指す選手の受け入れが出来る施設が少なく、指導者も不足している現状。夢舞台を目指したくても、チャレンジすら出来ないのだ。今回の東京への招致に対し、パラリンピック関係者が大きな期待をしていたのも事実だ。東京オリンピック・パラリンピック招致の成功で、パラリンピックの強化体制も大きく変化していくことを期待すると共に、しっかりバックアップ出来るよう、私自身も精進したい。

日本を誇りに思える大会に

日本は、これまでにも数多くの国際大会開催経験があり、「日本での試合が楽しみ」「日本が好き」と言ってくれる選手も多く存在している。胸を張って、世界中から選手を迎え入れることができることを誇りに思う。

今まで以上にオリンピック・パラリンピックを身近に感じられると共に、日本の一体感が生まれると信じている。日本を感じ、日本を好きになる。みんなが同じ気持ちで、心をひとつにできる目標があることは、幸せなこと。日本人として、日本を誇りに思える瞬間を味わいたい。

日本のすべての人々が笑顔で迎えられる7年後にしたい。

シドニー五輪競泳日本代表

1980年山梨県生まれ。元競泳日本代表、2000年シドニー五輪に出場。200m背泳ぎ4位。04年に一度引退するが、09年に復帰を果たす。日本代表に返り咲き、順調な仕上がりを見せていたが、五輪前年の11年4月に子宮内膜症・卵巣のう腫と診断され手術。術後はリハビリに励みレース復帰。ロンドン五輪代表選考会では女子自由形で決勝に残り意地を見せた。現在はテレビ出演や水泳教室、講演活動などの活動を行っている。

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