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絶望の時代にいかに連帯を強め前進し続けていくか

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
北欧のアクティビストたちはモチベーションをどのように保っているのか(提供:イメージマート)

地球沸騰、紛争、物価上昇などと暗いニュースが続く今、若いZ 世代は「絶望の時代」に生きているともいわれている。小さい頃からスマホで世界で起きていることを知り、自分たちが将来は環境破壊が進んだ社会に暮らしていることを想像すると、身勝手な大人たちが遺す資本主義と家父長制の結果に憤りを覚えるのも無理はない。その怒りやフラストレーションを、スウェーデン出身のグレタ・トゥーンベリさんのように行動に変えている人もいる。全ての人がそうではないが、そのようなムーブメントを起こす「活動家」たちは、この時代にいかにモチベーションを維持しているのだろうか。

8月末、ノルウェーの首都オスロではノーベル平和センター主催による「ノーベル平和カンファレンス」が開催され、過去の受賞者たちが集まっていた。スウェーデン出身のベアトリス・フィンさん(Beatrice Fihn)は核兵器禁止条約を推進する核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の元事務局長。2017年にICAN代表としてノルウェーでノーベル平和賞を受賞した。

「人権の英雄」というテーマで、ベアトリス・フィンさんは22歳のギーナ・ギルヴェールさん(Gina Gylver)というノルウェー出身の女性と話をしていた。ギーナさんは、ノルウェー最大規模の環境青年団体「自然と青年」(Natur og Ungdom)のリーダーだ。フィヨルド訴訟や風力発電所のために先住民サーミ人の人権侵害が続いていることなど、ノルウェー政府に対して抗議運動をする中心人物のひとりである。

右からベアトリス・フィンさん、ギーナ・ギルヴェールさん 筆者撮影
右からベアトリス・フィンさん、ギーナ・ギルヴェールさん 筆者撮影

「身勝手な大人」の事例として、ギーナさんはあるジャーナリストとの電話のエピソードを話した。

ジャーナリストはこう言ったんです。『あなた方の組織は50年も存続しているのに、世界は今まさに地獄に落ちようとしている。それで、あなた達は一体何を間違えたのですか?』と。17歳のまだ高校生のような若者たちの組織に責任を負わせようとしたんです。とても不公平です。私たちがいなければ、社会はもっとひどいことになっていたでしょう。一方でメディアや政治家が最近の異常気象と気候変動を関連付けずに、では「石油をどうするか」「いかに排出量を減らすのか」と話し合わないのはとても奇妙です。

ギーナ・ギルヴェールさん

私はこの10年間、気候変動問題に取り組んできました。ノルウェーで気候変動に携わるのは奇妙な気分です。というのも、ノルウェーは自分たちのことを、『緑豊かな偉大な国』だと言ってきましたが、実際にはそうではないからです。ノルウェーでこのような会話を始めるのは非常に難しい。なぜなら、私たちの国としてのアイデンティティ・生産活動・産業の大部分に関わる話だからです。

ギーナ・ギルヴェールさん

希望を持つかは「選ぶことができる」

ギーナさんは、私たち、とくにノルウェーという恵まれた国に住む人々は『信じるか信じないか』『希望を持つか持たないか』を選べる立場にあり、物事がうまくいかなくても『諦めない責任がある』と考えている。

すべての活動家は、『希望とは選択』であることを知っています。それは選択であると同時に、『とてつもない責任』でもあります。私たちは今、大惨事を避けるために最も重要な時期に生きています。私たちはこの時代に生まれることを選んだわけではありません。気候とは『勝ち負け』ではありません。もし達成できなかったとしても、誰も諦めることは許されません。

ギーナ・ギルヴェールさん

楽しみ、友情や連帯を育む必要性

ノルウェー最高裁判所前で、ノルウェー政府がサーミ人の人権侵害をしてもうすぐ2年になることを抗議するギーナさんと仲間たち 筆者撮影
ノルウェー最高裁判所前で、ノルウェー政府がサーミ人の人権侵害をしてもうすぐ2年になることを抗議するギーナさんと仲間たち 筆者撮影

彼女たちのような活動家が、日々、罵倒や嘲笑などを浴びていることは想像しやすいだろう。実名も顔もだして活動していると、さまざまな批判の声や「あなたはおかしい」と思い込ませようとする人々が集まってくる。

ベアトリスさんは核減縮の活動をしていると、まさにそのような「自分がおかしいのか」と思い込ませる言説のシャワーを浴びると語った。

この分野では『分厚い皮膚』を身につける必要があります。NATOの人たちや将軍、軍の人たちとの会合に出席するたびに、私は何もかも『間違っている』と言われてきました。もちろん、そんなことを言われ続けたら自分に影響してきます。自分の主張が不確かなものに感じてきて、とても心配になります。

ベアトリス・フィンさん

だからこそ、コミュニティが重要だと彼女は話した。

仲間が集まるイベントに行くと、『ああ、そうだ、私たちは実は大勢いるんだ』と思い出すんです。同盟関係を築き、互いに支え合い、協力し合えるようなコミュニティを作ることは必要です。それこそが、人権擁護者を保護し、この闘いは自分たちだけではないことを確認するためのレシピなのです。強大な権力があなたの後を追ってきて批判するとき、あなたが『完全に孤独で見捨てられた存在』になることが最大の目的のひとつなのです。

ベアトリス・フィンさん

ギーナさんの所属する「自然と青年」団体は、政府に抗議する時に先住民サーミのコミュニティと連帯することがよくある。

私たちはマイノリティの存在を忘れがちで、基本的人権を侵害しながら明日の社会を築くことはできないからです。だから、『アライアンス』(同盟)はとても重要だと思っています

ギーナ・ギルヴェールさん

最後に、ベアトリスさんは、政治家に批判をフォーカスさせることの重要性を説いた。

「ノルウェーの首相は?」「脱原発の計画は?」「ロシアの核兵器をなくす計画は?」。私たちは政治家に焦点を当てなければならないし、彼らはより厳しい質問に答えなければならない人です。私たちは意思決定者ではないのですから。

ベアトリス・フィンさん

転んでも立ち上がるレジリエンスを養う

若者の政治参加を目指す「NO YOUTH NO JAPAN」の代表・能條桃子さんとメンバーたちはノルウェーでギーナさんたちと交流 国境を越えて若い活動家たちがつながっている 筆者撮影
若者の政治参加を目指す「NO YOUTH NO JAPAN」の代表・能條桃子さんとメンバーたちはノルウェーでギーナさんたちと交流 国境を越えて若い活動家たちがつながっている 筆者撮影

北欧で活動する人々や、選挙で敗退を経験した政党などを取材し続けてきて、感じることがある。「諦めない」「転んでも、また立ち上がって進み続ける」力が大事なのだと。

この分野で落ち込んだり、皮肉になったり、希望がないと感じたりするのは簡単なことだ。それこそが権力者が望む状況なのだ。希望を捨てて、政治に無関心になったり、選挙で投票することをやめたり。それは短期的な自己防衛術かもしれないが、長期的な解決策にはつながらない。選挙、訴訟、抗議活動、いかなる場合でも、結果がどうあれ、落ち込んだ後は立ち上がって歩み続ける「レジリエンス」(逆境から立ち直る強さ)を養っていくことが、この絶望の時代には生きる希望となっていくのだと、北欧市民を見ていると感じる。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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