伝説的アイドルグループ・“初期BiS”のメンバー再結集に騒然、アイドルシーンに与えた影響を振り返る
2014年に一旦解散した伝説的アイドルグループ・BiSの初期メンバー(以降“初期BiS”)が再結集し、7月8日に歌舞伎町シネシティ広場(東京)でフリーライブ『You’ve been cheated』を開催することが7月5日、発表されました(ちなみにBiSは2016年に新たな体制で再結成され、現在まで活動中)。
今回のライブに出演する“初期BiS”のメンバーは、10年前の7月8日に横浜アリーナ(神奈川)で開かれた解散ライブ時、同グループに所属していた、カミヤサキさん、テンテンコさん、ファーストサマーウイカさん、プー・ルイさん、ヒラノノゾミさん、コショージメグミさんの6名。
このライブは解散10周年記念の1日限りのものになるようで、“初期BiS”のマネージャー、プロデューサーを担当していた渡辺淳之介さんは自身のXで「映像なんか残すわけないやん。見たいならなんとしてでも来いよ。」と投稿しています。
“初期BiS”は日本の女性アイドルの常識を変化させ、可能性を拡張させた
そんな“初期BiS”の再結集の知らせに、アイドルファンらは騒然となりました。なぜなら“初期BiS”は、現代の日本の女性アイドルシーンを語る上で欠かせない存在であり、また無数のアイドル関係者にも多大な影響を与えたからです。
2010年にプー・ルイさんが中心となって結成され、以降、メンバーチェンジを繰り返しながら活動した“初期BiS”。同グループが紹介される際、必ず言及されるのが、ファーストシングル「My lxxx」(2011年)のミュージックビデオの内容をはじめとする過激な売り出し方やパフォーマンスです。
たとえばライブでは、同じ曲を連続して歌ったり、スクール水着姿で客席へダイブしたり、下ネタを口にしたり、多くの人たちが思い描いていたそれまでの日本の女性アイドル像をことごとく壊していきました。つまりアイドルの常識を変化させ、可能性を拡張させたのです。
そんな特殊な活動スタイルは当初、AKB48、ももいろクローバーZといった人気女性アイドルグループのカウンター的な立ち位置にも見えましたが、しかし着実に女性アイドルシーンの中核へと食い込んでいきました。
加えて印象的だったのが、「研究員」と呼ばれるファンたちによる熱狂的な応援です。メンバーたちの成長過程を生々しく見せることで、研究員たちも一蓮托生のような気持ちで歩むことができたのです。密な関係性はどこか感動的でもありました。
そんなグループだからこそ、メンバーも個性的でした。特に現在、全国的に知られるタレントになったのがファーストサマーウイカさんです。
ファーストサマーウイカさんはBiS解散後、BILLIE IDLE(R)(※註1)での活動を経て、バラエティ、ドラマなどで活躍するタレントに。2023年、筆者はそんなファーストサマーウイカさんにインタビュー(※註2)をおこなったのですが、その際「私にとってはBiSの活動で得たものがすごく大きかったですが、それを超える大変さもありました」と話していらっしゃいました。売れっ子になった彼女がそのように振り返るほど、BiSというグループは強烈だったのです。
※註1:(R)は正しくは丸括弧内にR
※註2:ファーストサマーウイカ、嫉妬と羨望が原動力「私はルサンチマンが人より根深い」(Yahoo!ニュース)
アイドルファンであれば自然に体が反応する代表曲「nerve」
“初期BiS”の登場を機に、いわゆるロック系の女性アイドルグループも全国で増加しました。地下アイドルのライブへ足を運べば、“初期BiS”を想起させるアイドルグループやソロアイドルをよく目にしました。
また、カバー曲の演奏を中心とするライブイベントでは、必ず何組かは“初期BiS”の曲を披露していました。なかでも人気曲だったのが、2011年にリリースされた「nerve」。誰もが真似できる“エビゾリ”のようなポージングの振付、メンバーと研究員が人差し指で触れ合うパフォーマンスなどで一体感を生む同曲は、膨大な数のアイドル曲のなかでも随一の“アンセム”となりました。「nerve」を聴けば研究員でなくても体が自然に反応し、ついつい歌い踊ってしまうほど。否が応でも盛り上がることから、カバー曲中心のライブイベントでは重宝されたのです。
そういった影響力はステージに立つアイドルだけにとどまらず、プロデューサー、マネージャーら運営にも及びました。渡辺淳之介さんのプロデュース術に憧れを抱いたかのような、思い切ったアイデアや奇策を打ち出す運営が出てきたのです。良し悪しは別として、“炎上上等”でとにかく注目を浴びることを最優先とするアイドルや運営も少なくありませんでした。
あと、アイドル運営へと“転身”するバンドマンが目立ち始めたのもこの時期からです。その流れが本格化したのは後述するBiSHがきっかけですが、“初期BiS”もその一端を担いました。「女性アイドルがロックバンドのような曲を歌い、ハードなパフォーマンスをおこなう」というスタイルは、バンドマンたちを刺激し、また活路を見出させたと言えます。
ほかにも、2014年にバラエティ番組『ゴッドタン』(テレビ東京系)に出演した際に驚くほど体を張って笑いを取りにいったこと、「IDOL」とプリントされたTシャツがアイドルグッズの枠を飛び越えてファッションとして親しまれたことなど、トピックスを挙げればキリがありません。
AKB48、ももいろクローバーZ、でんぱ組.incなどによって2000年代以降のアイドルシーンは活気付いたとされますが、本当の意味で「アイドルには夢がある」「いろんな可能性がある」と思わせたのは、“初期BiS”だったのではないでしょうか。
ちなみに2023年6月29日の東京ドームでの公演をもって解散した大人気グループ・BiSHももともとは渡辺淳之介さんが「BiSをもう一度始める」と宣言し、2015年に活動をスタートさせたグループでした。BiSHの大ブレークは、“初期BiS”があってこそと言えるかもしれません。
“初期BiS”はまさに伝説でした。とてつもないインパクトを残したアイドルグループだったこともあり、今回のフリーライブの実現、そしてメンバーたちの再結集のアナウンスは大きな騒ぎとなったのです。