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「Apple Music」中国で成功する見込みなし、海賊版はびこる中国デジタル音楽市場

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

海外メディアの報道によると、米アップルが6月8日に発表した新たな音楽配信サービス「Apple Music」はアジア市場、とりわけ中国では成功の見込みがほとんどないと、アナリストらは見ているという。

「音楽は無料で入手」が常識の中国

米ウォールストリート・ジャーナルによると、中国ではデジタル音楽にお金を払うという習慣が根付いておらず、有料音楽配信サービスを利用する人はごく一部に限られている。

Apple Musicは今後アジア市場で、ソーシャルネットワーキングやオンラインゲームを手がける中国テンセント・ホールディングス(騰訊控股)、検索大手の中国バイドゥ(百度)などが提供する音楽ストリーミングサービスと競合することになる。

だがアップルが地域の消費者に価格面で魅力的なサービスを提供するのは極めて困難だという。

またインドのメディア、テックポータルによると、同国には「Saavn」や「Gaana」といった無料音楽配信サイトがあり、価格に敏感な同国の消費者から注目を集めているという。

月額10ドルは高額、アジアでは月額2〜5ドルが相場

アップルが8日に発表したApple Musicは、以下の3つを組み合わせたサービスだ。

(1)3000万曲以上の楽曲をストリーミング配信する「Apple Music

(2)著名なDJが選んだ楽曲をラジオ放送のように流す「Apple Music Radio

(3)ミュージシャンが楽曲やビデオ、バックステージのスナップ写真などを投稿してファンと交流する「Apple Music Connect

アップルはこれを月額9.99ドルの料金で、6月30日に世界100カ国以上で開始すると発表したが、具体的にどの国でサービスを始めるのかや、各国の料金についてはまだ公表していない。

しかし、この9.99ドルという料金は、アジアの多くの消費者にとって高すぎるという。

ウォールストリート・ジャーナルによると、香港の市場調査会社カウンターポイント・テクノロジー・マーケットリサーチのアナリストは、「アジアでは無料に近い金額、あるいは月額2〜5ドルが最適」と指摘している。

なおアップルのウェブサイトを見ると、同社は日本のサイトに同サービスのページを設けており、「まもなく登場」と案内している。

インドのサイトにも同様のページがあり、「Coming soon」と書かれているが、中国サイトには、今のところそのようなページは見当たらない。このことからアップルは当初中国でサービスを提供しないのかもしれない。

中国には100以上の違法サイトが存在

ウォールストリート・ジャーナルの別の記事を見ると、そのことを裏付けるかのような事情が中国デジタル音楽市場にはあるようだ。

記事によると、中国では米国の人口をはるかに上回る4億7800人もの人がオンライン音楽を楽しんでいる。しかし昨年の同国におけるダウンロード販売とストリーミングサービスを合わせた売上高はわずか9100万ドルだった。

ちなみに同紙が引用した国際レコード産業連盟(IFPI)の統計によると、昨年売上高が最も多かったのは米国で、その金額は35億ドル。

これに英国が5億9900万ドルで次ぎ、日本は4億5900万ドルで3位。このあとドイツの3億1500万ドル、フランスの2億3200万ドルと続き、中国は11位だった。

同紙によると、中国には100を超える違法音楽サイトがあり、そのうち人気のあるサイトの1つには1カ月当たり1億6850万人が訪れている。この数は、法にのっとり運営しているどのオンライン音楽サービスの利用者数よりも多いという。

こうした違法サービスがはびこるオンライン音楽事情を背景に、中国では有料サービスが定着せず、ほとんどが無料で提供されているという。

ただし、なかには将来の市場拡大を見据え、有料サービスに力を入れている企業もある。前述のテンセントだ。同社は無料音楽サービス「QQ音楽」に「グリーンダイヤモンド」という月額1.60ドルほどの有料サービスを設け、様々な特典を付けて利用者を募っている。

だが、それでもその会員数は300万人程度。これはQQ音楽全体の1割にも満たない数だと、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

JBpress:2015年6月11日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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