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コロナ禍で響くジョジョ作者の言葉「自分を信じてマンガを描き続けることが使命」

石井しこう不登校ジャーナリスト
マンガ家・荒木飛呂彦さん(撮影・全国不登校新聞社)

 新型コロナウイルスの影響で、私たちは生活がコロコロ変わる状況をすごしてきました。しかし、いま現在、コロナの影響は、よい意味で収まっているような、まだ深刻な状況でいるような、どうにも捉えがたい不思議な状況にあります。

 状況にあわせて動こうと思っても、今をどう捉えていいかも、この先の状況も読めません。

 そこでこの記事では、過去『不登校新聞』に掲載された『ジョジョの奇妙な冒険』の作者・荒木飛呂彦さんのインタビューから、この状況を乗り切るヒントを探っていこうと思います。

取材者は自分に自信が持てない19歳

 私たち『不登校新聞』編集部では2010年に、不登校をしていた19歳の男性といっしょにマンガ家・荒木さんにインタビューをしました。企画したのは当時19歳の男性自身。彼は不登校やひきこもりの人に限らず、今や10代や20代に共通した悩みでもある「自分に自信が持てないこと」に悩んでいました。荒木さんならこの悩みにヒントを与えてくれるのではと、彼が思ったため、インタビューに至りました。

 というのも彼が不登校になったのは小学校2年生の冬。理由は「理不尽なことが多かったから」だそうです。運動会や真冬のマラソン練習、音楽の授業、宿題…、学校の行事や勉強に対して「本当に必要なのか」と疑問に思っていたそうです。そんなことから心は学校から離れていき、登校時に腹痛も襲うようになって不登校に至りました。その年齢が小学校2年生。不登校になったことは後悔していないものの、早くから学校に適応できない自分は「この先も生きにくいのでは」と悩んでいたそうです。そんなときに好きで読んでいたのが荒木飛呂彦さんの代表作『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)。荒木さんに「自分に自信が持てない」「将来への不安がある」という悩みを率直にぶつけてみました。

取材を受ける荒木飛呂彦さん(左・撮影/全国不登校新聞社)
取材を受ける荒木飛呂彦さん(左・撮影/全国不登校新聞社)

――私は小学校2年生から不登校をしていました。いまはフリースクールにも楽しく通えていますが、将来への不安は拭えません。この先のことを、どう考えていったらよいのでしょうか。

 私の話をすれば、私はマンガ家としてひとりでマンガを描いています。そうすると「孤独に耐えねばならないとき」が必ずあるんです。たとえば自信を持って描いたストーリーでも、読者に受けいれられないことがあります。そんなときは「なんでなのだろう、世の中の人は何を考えているんだろう」と自信を失い、「私はひとりだ」という孤独感がさらに強まることがあります。そういうときは、天才と呼ばれる先人たちの生き方や姿勢に勇気づけられることがあります。

 ゴーギャンというフランス人画家が私は子どものころから好きでした。ゴーギャンのなかでとくに好きなエピソードといえば、絵を描くためだけにフランスからタヒチへまで行ったことです。地球の裏側と言ってもいいような場所へなぜ行ったのか。イメージで描いたっていいし、写真を見て描いたっていいわけです。しかも、そこまでこだわって描いたからといって、かならずしも絵が売れるという保証はありません。でも、そうした確固たる意志や自分の信念に沿った行動を見聞きすると、私はすごく励まされるんです。

 マンガ家はかならず孤独を感じるものですが、だからこそ「自分を信じる」という気持ちが大切です。自分のアイデアが読者にウケるかどうかは描いているときにはまったくわかりません。たとえどんなに有名なマンガ家であっても絶対的な確信は持てないと思うんです。私もそうです。マンガ家としてデビューして30年以上が経ちましたが、今でも確信は持てません。それでも自分を信じてマンガを描き続けること、それが自分の使命だと思っています。

荒木飛呂彦さん(撮影・全国不登校新聞社)
荒木飛呂彦さん(撮影・全国不登校新聞社)

――その「自信」を持つためには、どうしたらよいのでしょうか。

 修業をするんです。自信を持つための修業です。私はいまでも何十、何百タッチと、毎日たくさん描いています。だからこそ、あまりペンを握ったことがない人では絶対に描けない線を引けます。これは野球の素振りにも通じるんじゃないかと思います。ホームランだって、急に打てるようになるものではないでしょう。表立っては出てこない努力の積み重ねが自信につながっていくんだと思います。

 『ジョジョ』を描く前には、知能戦をテーマにした『魔少年ビーティー』や、究極の肉体をテーマにした『バオー来訪者』という作品を描いています。いま読み返してみると絵もストーリーも安定していませんが、この2作品がなければ、『ジョジョ』に行きつくことはなかったと思うんです。

――ありがとうございました。(2011年1月1日号『不登校新聞』掲載より一部編集)

方位磁石(イメージ/写真AC)
方位磁石(イメージ/写真AC)

◎向かいたい方向性を考える

 自信が持てないという19歳に対して、荒木さんは「自分を信じて描くのが自分の使命」だと答えてくれました。

 話を聞き終えて19歳の男性は「勇気をもらった」と語っていました。インタビューは10年前に行ったものですが、コロナ禍のいまこそ荒木さんの言葉は指針になると感じています。

 こんな状況判断が難しいときほど、荒木さんが話していたように「使命」を定めてみると道筋が見えるのかもしれません。自分の使命やミッションはなんだったのか。そこまで大げさなものはなくても、自分が大事にしているものを原則として方向性を考えてみる。そうすれば、先行きが見えなくても、向かいたい方向性だけは見えてきます。

 いずれにせよ、先の見えない若者に説いた荒木飛呂彦さんの言葉は、今だからこそ響いてくるものでした。

不登校ジャーナリスト

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。NPO法人で、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なうほか、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者にも不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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