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北欧で流行っているコーヒーの淹れ方「エアロプレス」とは?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
コーヒー先進国ノルウェーより最新情報 Photo:Asaki Abumi
エアロプレスの淹れ方は簡単・自由 Photo:Asaki ABumi
エアロプレスの淹れ方は簡単・自由 Photo:Asaki ABumi

北欧ノルウェーといえばコーヒーが有名な国。注射器のような形をした抽出器具でコーヒーを淹れる「エアロスプレス」という淹れ方が、コーヒーにこだわる首都オスロのカフェで目立ちはじめています。お湯とコーヒーの粉を器具にいれて、プレスするだけなので、使い方はとっても簡単。一般家庭でも気軽に導入できます。

エアロプレス世界大会へ進む、ノルウェー代表を決める国内大会が、3月14日(土)にオスロで開催されました(ちなみに、2013年度の世界大会の優勝者は日本人の佐々木修一バリスタ!)。今大会には驚きも多く、初心者でも世界大会へと進む可能性があるのだということがわかりました。大会当日のレポートです。

紺色のシャツを着ているのがウェンデルボー氏 Photo:Asaki Abumi
紺色のシャツを着ているのがウェンデルボー氏 Photo:Asaki Abumi

主催はコーヒーをデザインする団体「カフィカゼ」、審査員3人のリーダーは、2004年度に世界バリスタチャンピオンに輝き、今でも北欧コーヒー界を盛り上げる先駆者、ティム・ウェンデルボー氏です。

大会の大きなポイントのひとつは、ティム・ウェンデルボー氏が審査員ということ。エアロプレスという手法を世界に広めた第一人者であり、コーヒー農家との透明性ある関係を大事にしている彼は、コーヒー界の人々からも尊敬され、大きな支持を集めます。

優勝カップが決まったときの決定的瞬間 Photo:Asaki Abumi
優勝カップが決まったときの決定的瞬間 Photo:Asaki Abumi

審査員3人は誰が淹れたコーヒーかを知ることはできず、競技者が抽出中の様子は見学しません。目の前にコーヒーカップが運ばれてきたら、カッピングという手法でテイスティングをし、一番おいしいと思ったカップを同時に指差します。今回、多くの人を驚かせたのは、審査員の選んだカップが、たびたび一致しなかったということです。

これは誰かの評価方法がおかしい、というわけではなく、酸味をどれくらい重視するかなどで個々の基準が異なるからだそうです。ただ、ウェンデルボー氏の選ぶカップというのは、やはり大きな意味をもちます。ほかの審査員2人がウェンデルボー氏とは違うコーヒーを選ぶ場合が続くと、誰かが「う~ん」ときまずそうな顔をする時もありました。

「一番おいしいコーヒー」を決める難しさ

優勝したのは初出場のベルントゥセン氏 Photo:Asaki Abumi
優勝したのは初出場のベルントゥセン氏 Photo:Asaki Abumi

優勝者を決めた瞬間は、会場が「Wow!」とざわつきました。なぜならカップ2つのうち、ウェンデルボー氏が片方を、審査員2人がもう片方を指差したからです。この場合は多数決で、ほかの審査員2人が選んだカップが優勝となります。

ただ、ウェンデルボー氏も「え、本当?」と顔を一瞬渋らせ、ほかの審査員も「あらら、やってしまった」という表情をしたのは印象的でした。

優勝しかけたのは、コーヒー初心者!

2位に輝いたのは無名の一般人 Photo:Asaki Abumi
2位に輝いたのは無名の一般人 Photo:Asaki Abumi

さらに、会場を驚かせたのは、ウェンデルボー氏が最後に選び、決勝で2位となったコーヒーを淹れた人が、エアロプレス初心者ということです。アン・カトリン・アンデルセン氏は、コーヒー業界では働いたことがなく、大会までにエアロプレスを練習で淹れたのは、たった15回!(ちなみに1位のベルントゥセン氏はKaffelab出身でエアロプレスを過去に入れた回数は500回以上)。コーヒー歴の長いプロたちを負かせ、2位に輝いたのは、運なのか、それとも隠された実力なのでしょうか。

プロが勝つとは限らない世界

コーヒーのレベルが高いオスロで有名なバリスタ勢が、必ずしもトップスリーを独占できるとは限らないのがエアロプレス大会の面白さです。1位や3位のバリスタは複数の調理器具を使用していましたが、2位のアンデルセン氏はシンプルなレシピで挑みました。

ティム・ウェンデルボーが選んだカップのほうが注目を浴びる?

「誰だって、優勝できる可能性があるということです」と語るのは、アンデルセン氏を短期間でコーチした、コーヒー歴の長いイングリ・ヨンセン氏。「ウェンデルボー氏にカップが選ばれたというだけで、喜ぶバリスタは多い」と、北欧のコーヒー事情に詳しい、オスロ発のカフェ「フグレン」東京店のマネージャーである小島賢治氏は語ります。優勝しなくても、ウェンデルボー氏に選ばれたというだけで、アンデルセン氏は十分な尊敬のまなざしを会場で集めていました。

1位と2位のカップについて、ウェンデルボー氏は「2位のカップのほうがバランスがとれていて、甘味もあると思った。1位のカップはレモン系の酸味なんだけれど、バランスがとれていない酸味」と評価。どちらのカップがバランスがとれているか、審査員たちの正反対の評価を聞いて、会場にいた参加者は興味深そうに笑っていました。

誰だって、簡単においしいコーヒーを淹れられる!

アンデルセン氏の活躍は、「プロのバリスタの間で流行っている淹れ方なんて、難しそう」と、まだエアロプレスに挑戦したことのない人々の警戒心を和らげるのではないでしょうか。エアロプレス器具は日本でも購入可能なので、ぜひ気軽にお家で試してみてはいかがでしょう?あなたのコーヒーも、プロの実力をしのぐほどの、おいしい一杯になるかもしれません。

ノルウェー国内大会2014の様子

地球の歩き方 オスロ特派員ブログ「ノルウェー・エアロプレス選手権2014 一番おいしいコーヒーを淹れたのは?」

Photo&Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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