国民民主党に燻り続ける立憲民主党への恩讐~なぜ京都と静岡で、維新と連携しようとしたのか
合意文書に玉木氏が驚愕
日本維新の会と国民民主党は4月20日午後、次期参議院議員選挙における相互推薦の合意文書に調印した。国民民主党が京都選挙区で日本維新の会の公認候補・楠井祐子氏を推薦し、日本維新の会は静岡選挙区で国民民主党の推薦候補・山崎真之輔氏を推薦するという内容だ。
調印後で行われた会見で、日本維新の会の馬場伸幸共同代表は「政治は数が力なので、1議席でも多く思いを共有できる仲間を作りたい」と述べ、国民民主党の前原誠司代表代行は「政権交代を目指す受け皿を作るために、日本維新の会と我々が協力しなければならない」と明言した。しかしこれが国民民主党内に波乱を巻き起こすことになる。
両者が会見を行った直後、合意文書が国民民主党の玉木雄一郎代表のもとに届けられたが、それを読んだ玉木氏は驚愕した。京都と静岡での相互推薦については、20日正午に開かれた両院総会で了承済み。しかし合意文書の「その前提として両党は、『身を切る改革』を実行し、その実現のために尽力する」との記載内容については、党の了承は得られていなかったのだ。さらに合意文書には「政権交代を実現」と明記されていた。これでは日本維新の会との「連立宣言」と受け取られてもしかたない。
すぐさま執行役員会が召集され、この問題について検討された。しかしこの時は解決には至らず、翌朝に再度執行役員会が開かれ、日本維新の会に再協議を持ちかけることになったのだ。
なぜこのような騒動が発生したのか。前原氏は「(党の了承を得なかった内容を記載したのは)早計だった」とミスを認めた。21日には馬場氏、前原氏、榛葉氏が再協議して、「解説書」の作成などについて意見交換したが、それでおさまる様子は見えない。原因は連合が今年2月に作成した参議院選に向けた基本方針だ。
連合の基本方針と相いれない
同基本方針には1月の原案にはなかった「政策実現に向けて立憲民主党、国民民主党と引き続き連携を図ることを基本とする」と記載されたが、同時に「基本政策が大きく異なる政党と連携・協力する候補者は推薦しない」と明記されている。この「基本政策が大きく異なる政党」について連合の芳野友子会長は2月17日の会見で、「念頭に置いているのは共産党で、日本維新の会などは地域によって判断する」と言及。すなわち連合の支援を得ている国民民主党は限定的に日本維新の会と協力できても、全面的な連携は不可能ということになる。もっともこの基本方針は次期参議院選をターゲットにしたものだが、これからの大型選挙にも適用されないとは限らない。
それにしてもなぜ、前原氏は日本維新の会との連携に前のめりになったのか。その原因を探っていくと、3年前の参議院選に遡る。この時、前原氏は京都選挙区に国民民主党から元秘書の斎藤アレックス氏を出馬させるつもりだった。しかし当時立憲民主党幹事長だった福山哲郎氏がLGBT活動家で落下傘候補の増原裕子氏を擁立したため、斎藤氏の出馬を断念せざるをえなくなった。
かつての仲間・福山氏への恩讐
これは前原氏にとって、屈辱であったはずだ。1993年の衆議院選から連続10回当選した前原氏は、1998年の参議院選で初当選した福山氏より政治キャリアが長い。しかも党代表を2度務めた上、民主党政権で国交大臣や外務大臣なども歴任した。しかし旧民主党系で候補を統一しなければ、定数2の京都選挙区で日本共産党に議席を獲られるのは確実。強引な福山氏のやり方に、涙を飲んだわけだ。
そうした経緯が、今年1月の京都新聞のインタビューでの「(次期参議院選で京都選挙区から5度目の当選を狙う)福山氏に1本化する義理はない」発言に繋がったのだろう。もともと前原氏は安全保障についての考えなどで、立憲民主党の本流とは相いれない上、2020年6月には日本維新の会の馬場氏らと「新しい国のかたち(分権2.0)協議会」を立ち上げている。これが今回の相互推薦の基礎となっていることは、馬場氏も前原氏も認めるところだ。
さらに最近、京都において日本維新の会の浸透が著しい点も、前原氏が同党に傾倒する理由だろう。2021年10月の衆議院選で日本維新の会は京都府内で比例票を26万6728票獲得し、15万8980.314票の立憲民主党より10万票以上も多かった。また今年4月10日に行われた京都府議補選(北区)では、日本維新の会公認の畑本義充氏が1万1161票で当選し、唯一の女性候補だった立憲民主党の松井ようこ氏は畑本氏の約半分の6305票しか獲れなかった。「福山氏と敵対するわけではない」と前原氏は言うが、京都選挙区は定数2で、1議席を争うわけではないという意味にすぎない。こうした数字を見る限り福山氏は、大きな脅威にさらされているという他はない。
静岡にも残る前回参議院選の禍根
立憲民主党と対抗する京都選挙区とは異なり、静岡選挙区では国民民主党は自民党系勢力と対峙する。自民党は昨年10月の参議院補選で山崎氏に負けた若林洋平元御殿場市長を擁立することを決定。「補選とは異なり、2議席中自民党の指定席をとればいい」と関係者は楽観的だ。
また現職の平山佐知子氏は2016年の参議院選では民進党公認・社民党推薦で当選したが、希望の党や立憲民主党に参加せず、無所属クラブを経由して無派閥を貫き、“非自民枠”を狙う。もっとも平山氏は当選以来、今は自民党に入った細野豪志元環境大臣と近く、4月18日に立候補表明した時に自民党入りは否定したものの、そのスタンスは自民党に近いと見られている。
以上2名の“自民系”に対し、山崎氏は完全な“非自民系”といえるだろう。ただし当選早々週刊誌に女性問題を暴かれ、その後遺症が今も残る。連合静岡からの推薦を得てはいるが、満場一致ではなく、「再度スキャンダルが出たら、推薦は取消す」という条件が付いた。
立憲民主党は独自候補を擁立せずに自主投票とする予定だが、地方議員の一部からは根強く擁立の声も出ている。このような中で国民民主党の会派に所属する山崎氏をなんとしても当選させたいのが、同党の榛葉幹事長だ。そのために国政で議員を出していない日本維新の党の票がほしい。維新は昨年の衆議院選で15万8381票の比例票を獲得し、2019年の参議院選での7万7467票から倍増させた。
さらに榛葉氏には前回の参議院選で、立憲民主党の福山氏と蓮舫氏に刺客を立てられたという苦い記憶がある。その意味で前原氏と“思い”が同じといえる。
今回の騒動で明らかになったのは、国民民主党の中に立憲民主党に対する“恩讐”がある点だ。その先の方向性についての思いは、党内でかなりの差があるようだ。参議院選を乗り越えた後、その差はいっそう開くのか。今後の政局の原因になる燻りは、このあたりにあるように思えてならない。