秋元康さん作詞のHKT48の楽曲が女性蔑視だと炎上中だが、リケジョを増やすために考えるべきこと。
秋元康さんが作詞したHKT48の「アインシュタインよりディアナ・アグロン」の歌詞が女性差別的だといって話題になっている。
この歌詞の批判には、女性蔑視を正面に据えたものがまずある(秋元康の歌詞を「女性蔑視」と批判したら、AKB運営から「名誉毀損及び侮辱罪」「記事を削除せよ」の恫喝メールが)。
ディアナ・アグロン(本来はダイアナ・アグロン)が出演するドラマ『glee(グリー)』は、そもそもマイノリティに配慮したドラマだそうだ。アグロンが演じる少女クィン自身が、高校時代にシングルマザーになったにもかかわらず、最終的にはその経験を書いたエッセイが評価されて名門・イェール大学に進学するという女の子の自立のドラマであり、まさにこの曲の「女の子はバカで可愛ければいい」という価値観を否定するドラマだという批判がある(「女の子」を愚弄した秋元康を断罪する。 『glee』が私たちに教えてくれたこと)。ドラマの『glee』を換骨奪胎したことに対する批判が数多く寄せられている(【炎上】HKT48の新曲が海外ドラマ『glee』を侮辱しているとネットで大炎上!! 「女性蔑視だ」「全然ドラマを理解していない」と物議)。
かと思えば、別の記事では、女性200人に対する意識調査を5回行って、「秋元康さんが書いた歌詞のような思考」をもった女性が、約半分なので「普通に」「多くいる」と結論付けている。
ちなみに上の質問の両方に私は「イエス」と答えるが、かといってこの楽曲の価値観はまったく支持していない。しかも過半数は、「そう思わない」と答えている。自由回答で抜粋されているように、
と質問文が多義的に解釈されることが問題であり、うまく設計されていない調査の例として授業で取りあげさせてもらった。そもそも、差別や蔑視は「対象となっている当人がどう思うか」がいちばん重要なのでという前提はどうかと思う。「○○とはこういうものだ」と自分自身も縛り、自己に内面化されるものが差別というものだからである。
私が心配するのはこの曲では、単に女性は勉強しなくて馬鹿でいい、といっているだけではなく、わざわざアインシュタインを引いてきているところである。
アインシュタインってどんな人だっけ?
聞いたことあるけど本当はよく知らない
教科書 載っていたような
なんか偉い人だった
好きなのはディアナ・アグロン
マリー・デュリュ=ベラというフランスの教育社会学者がいる。彼女は『娘の学校―性差の社会的再生産』という本で、女性の教育投資について論じている。女性が将来職業生活を続ける見込みよりも結婚生活への期待が大きい場合、親も結婚やホワイトカラー職に有利な教育投資を行い、女性は文系に水路づけられるというのである。女性が理系を選ばない理由は、そこにメリットを感じないだけではなく、男性ばかりのなかで「男性に伍してやっていく」という自信や自尊心が、すでに奪われてしまっているからというのだ。
「リケジョ」を増やせという国策があるものの、研究者に占める女性の割合は国際的にも日本は著しく低く、14.4パーセントにすぎない*1。さらにいえば、大学教授における女性の割合は、理学で4.9パーセント、工学で3.5パーセントである*2。私自身の経験から言えば、小学校の先生に「理系に進んだほうがいい」と太鼓判を押されたこともある。しかし中学校以降、授業中に何度も「女子学生は空間図形が苦手」「女性は数学が苦手」と当の数学教師に言われるにつけ、「女子学生が数学できたら面倒くさいことになりそうだ。ただでさえ成績が良ければ生きにくいのに」と、勉強をやめた経緯がある。多くの女子学生が「授業中に先生に『女子は数学が苦手』といわれました」と訴えてくるのに驚いたが、これはけっして私だけの特殊な経験ではない。女子学生の勉学の芽を摘まないであげて欲しい。
秋元康さんのヒット曲に、『セーラー服を脱がさないで』というものがある。私が中学生のときに聞いて、ショックを受けた曲である。今回あらためて歌詞を調べてみたところ、たいしたことのない歌詞であることに、拍子抜けした。
セーラー服を脱がさないで
ちょっぴり怖いけど、バージンじゃつまらない
おばんになっちゃうその前に、おいしいハートを…食べて
なぜ思春期の自分はあれほどに傷ついたのだろう。おじさん(失礼)に「私たちは性的に扱われることを期待しているんです」と言わされるというその構図、若さだけが自分たちの価値だと言わされることに思春期の自分は、激しく傷ついたのだった。
女の子は恋が仕事よ ママになるまで子供でいい
と秋元さんはいう。しかし、子どもから母親になるまでの間に、まさに思春期の「自立」の過程がある。無垢な少女と母親以外の役割を、女性にも認めるべきだ。
これは恵泉女学園大学の大日向雅美学長の授業を受けた女子学生が作った歌詞である。素敵なので紹介したかった。
ポピュラーカルチャーには大きな影響力がある。ましてや東京五輪組織委員会の理事である秋元さんには、社会的な責任がある。少女たちを激励するような曲を、今度はぜひお願いしたい。
*注1
*注2