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グーグル好決算でも株価下落? 背景に「AIへの期待」の高まりか

山口健太ITジャーナリスト
グーグル好決算でも株価下落(グーグルのWebサイトより、筆者作成)

米アルファベット(グーグル)が発表した2023年7-9月期決算は、市場予想を上回る数字となったものの株価は大きく下げています。

その要因として指摘されているのが、クラウド事業の成長率鈍化です。背景には「AIへの期待」の高まりがありそうです。

クラウド事業の成長率は鈍化

昨今の景気減速を見越した広告不況などを背景に、グーグルの売上高成長率は2022年に大きく鈍化していました。

その後、2023年4月以降は回復傾向にあり、今回発表した7-9月期は、検索やYouTubeの広告収入が2022年以来となる2桁増を達成しています。

売上高全体の8割近くを占める広告事業の復調を背景に、7-9月期の売上高や1株あたり利益は市場予想を上回る好決算となりましたが、10月25日に株価は9.5%下落しています。

決算発表後、アルファベットの株価は下落(グーグルのWebサイトより)
決算発表後、アルファベットの株価は下落(グーグルのWebサイトより)

その要因として指摘されているのは、グーグルのクラウド事業における成長率の鈍化です。

売上高の推移としては、右肩上がりに伸びており、赤字を縮小して2023年からは黒字に転換するなど、いたって順調に見えます。

Google Cloudの四半期ごとの売上高(アルファベットの決算資料より、筆者作成)
Google Cloudの四半期ごとの売上高(アルファベットの決算資料より、筆者作成)

しかし前年同期比の成長率という点では、かつての40〜50%に比べると下がってきており、今回発表した7-9月期は市場予想を下回る22.5%の成長にとどまりました。

成長率は下落傾向にある(アルファベットの決算資料より、筆者作成)
成長率は下落傾向にある(アルファベットの決算資料より、筆者作成)

最近は経費削減がトレンドになっており、クラウドの支出も「最適化」しようという動きがあります。しかし、アマゾンやマイクロソフトを追う立場のグーグルには、基本的に高い成長率が期待されているといえます。

一方、グーグルより規模で先行するマイクロソフトのAzure事業の成長率は、前四半期の26%から29%に高まっており、株価でも明暗が分かれる結果となっています。

とはいえ、アルファベット全体の中で、クラウド事業が占める割合は約10%です。なぜその成長率が「本業」以上に注目されるのか、考えられる理由の1つとしては、AIへの期待の高まりが挙げられます。

2022年11月末にブレイクしたChatGPT以降、良くも悪くもAIは株式市場を牽引する話題になっています。株価を爆発的に伸ばしたNVIDIAは主要7社にカウントされる存在になりました。

AIを実際のサービスとして提供するにはクラウドの利用は不可欠です。こうしたAIによる需要増は、ビジネス利用における経費削減を補って余りある効果が期待されているといえます。

アルファベットCEOのスンダー・ピチャイ氏は、決算発表後のカンファレンスコールの中で、「資金調達をした生成AIスタートアップの半数以上がグーグルクラウドの顧客である」と説明。将来に向けた種まきはできていることをアピールしています。

しかし、グーグルの「Bard」がChatGPTに遅れを取ったというイメージがまだ残っているのか、クラウドでの競争についても市場から不信感を持たれている可能性があります。

検索や広告もAI活用へ

AIを用いたサービスの開発や運用には多大なコストがかかることから、「AIは本当に儲かるのか」という基本的な疑問は根強く残っている印象があります。

これに対してマイクロソフトは、開発者向けの「GitHub Copilot」の有償ユーザーが100万人を超えたことを発表するなど、AIが儲けにつながることを証明しつつあります。

一方、グーグルは屋台骨である検索サービスに生成AIを取り入れたり、広告主が効果的な広告を打つことを支援したりと、クラウド事業以外の部分でも着実にAIの活用を進めているようです。

今回はクラウド事業の成長率が注目されたものの、本質的にはAI活用はまだ始まったばかりという印象を受けます。グーグルのサービスがどう変わっていくのか、引き続き注目といえるでしょう。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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