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「日本女子ゴルフの勢いは恐ろしい」と韓国ゴルフ界が戦々恐々とする理由…最も警戒する選手は誰?

金明昱スポーツライター
来季米女子ツアーで最も警戒すべき相手の1人と韓国でも評価の高い山下美夢有(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今年の米女子ツアーの最終予選会の結果を見て、一番驚いているのは韓国ゴルフ界かもしれない――。日本勢で突破を果たしたのは5人で、22年と23年の年間女王・山下美夢有、岩井千怜、岩井明愛、吉田優利、馬場咲希。このうち昨季が米ツアー1年目だった吉田を抜いた4人がルーキーイヤーとなるが、今年の日本開催の米ツアー「TOTOジャパンクラシック」で優勝した竹田麗央も来季から米ツアー初参戦となる。

 これに来季の米ツアーシード選手の古江彩佳、笹生優花、渋野日向子、畑岡奈紗、西郷真央、勝みなみ、西村優菜を加えると総勢13人。この大所帯に韓国経済紙「アジア経済」は「日本の勢いが恐ろしい」と驚きを隠せない。

「日本の選手たちが、来季米女子ツアーで旋風を起こす勢いだ。米女子ツアーの最終予選で新たな風を吹かせた。山下美夢有は圧倒的な技量を示し、トップ通過を果たした。最終日には8アンダーをたたき出し、2位に6打差をつけての1位。岩井千怜は5ラウンド、90ホールの勝負で優勝争いを演じて2位となり、米ツアー行きの資格を得た。これで終わりではない。千怜の双子の姉・明愛が5位タイ、吉田優利が9位に入り、トップ10に4人もの名が上がった。また、アマチュア時代から頭角を現した馬場咲希も24位タイでフルシードを確保した」

 特に山下については「山下は日本ツアーで13勝している実力派。12日現在の世界ランキングは14位だ。今季は2勝し、年間ポイントランキング2位、賞金ランキング3位、平均ストローク1位(3年連続)。22、23年は2年連続で5勝し、年間女王と賞金女王を手にしている」と伝えている。

「量と質で世界のゴルフ界を席巻する準備を終えた」

 さらに「身長は150センチながらも、正確なアイアンショットとパターの能力が抜群にいい。8月のパリ五輪でも日本代表として出場して4位タイ。来季米ツアー進出を目標にして、現地の適応にも力を入れた。今年5つのメジャー大会にすべて出場し、KPMG全米女子プロゴルフ選手権で2位タイに入った強者だ」と実力と実績ついても紹介していた。

 そのうえで、「今年、新人として挑戦するユン・イナ(米女子ツアー最終予選会は8位)が必ず越えなければならない“巨大や山”だ」とし、韓国勢がもっとも警戒しなければならない選手を山下と見ているようだ。

 もちろん、警戒しているのは新たに米ツアーに加わる選手だけではない。「長女の役目を果たしている畑岡奈紗が健在で、米ツアー通算6勝している“ゴルフの天才”だ。また笹生優花や古江彩佳(以上は2勝)、渋野日向子(1勝)、西郷真央、勝みなみ、西村優菜も奮闘している。日本の女子ゴルフは、量と質においても世界ゴルフ界を席巻する準備を終えた」とも伝えていた。

「世界のゴルフのレベルが標準化している」

 韓国がこのまま日本の勢いを傍観するわけにもいかないが、かつての勢いがなくなりつつあるのは事実。韓国ツアーの試合数や賞金額の増加、試合環境の充実から、あえて米ツアーに出なくてもいいと考える選手は間違いなく増えてきている。

 それに、近年の米ツアーも韓国や日本以外でも台頭する若手も多く、そう簡単に勝てる場所ではなくなった。米ツアーを主戦場にするユ・ヘランは、韓国選手がなかなか勝てなくなっている現状について、母国開催の「BMW女子選手権」記者会見でこう見解を述べていた。

「韓国の選手たちは、必死に努力してもっとうまくなるために頑張っています。それを理解してくれるとうれしい。異国の地で苦労しながら、いい成績で応えようと努力していますが、なかなか勝てないのは世界のゴルフのレベルが“標準化”してきているからだと思います。他国の選手たちのレベルが上がることで、優勝することがとても難しくなったと思います。どこでどの選手が1日に10個くらいスコアを伸ばしてくるのか分からないのが米ツアーです」

申ジエ「『海外に出れば苦労する』との認識がもどかしい」

 また、元世界1位で米ツアー賞金女王にもなった申ジエは、近年、韓国女子ツアーの選手たちが海外進出をためらう雰囲気について「東亜日報」のインタビューでこんな言葉を残している。

「日本では選手も協会も『日本のゴルフを全世界に見せよう』という雰囲気があるのに、韓国では『海外に出れば苦労する』との認識が強くなったことがとてももどかしいです。自分のゴルフを発展させる機会ととらえ、勇気を出さないといけない」

 国内で満足するのか、はたまたプロゴルファーとしてより高いレベル、厳しい環境に身を置いて実力を上げていくのか――。「何のためにゴルフをするのか」の問いに対して、選手たちの間にも様々な価値観があるのだろう。

 ただ、現在の日本の女子ゴルフツアーを取材していると、これは単なる勢いだけではない。ゴルフに対する探求心と向上心の強い選手が、次々と出てきていると感じる。「あの選手ができるなら自分でもできる」という刺激を受け、切磋琢磨しあう環境が、米ツアーで戦う日本の選手の中で生まれている。

 来季は日本の選手から米ツアー優勝者が何人出てくるだろうか――。勢力図が塗り替わる日はもう目の前まで来ている。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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