現役あり、コーチ転身あり、元虎戦士たちの社会人野球日本選手権
11月1日に開幕した『第44回社会人野球日本選手権大会』(京セラドーム大阪)は、1回戦16試合中5試合が延長にもつれ込み、そのうち4試合はタイブレークの12回で決着。他にも2試合が9回サヨナラという接戦続きでした。きのう10日で4強が出揃い、きょうは新日鐵住金鹿島とJFE西日本、三菱重工名古屋と東芝による準決勝。社会人野球・“秋の陣”も大詰めを迎えます。
阪神タイガースを退団したあと社会人チームで野球を続ける選手たちは少しずつ減ってきているものの、新日鐵住金鹿島の玉置隆投手兼任コーチ(32)と三菱重工神戸・高砂の若竹竜士投手(31)は現役で、今大会も登板しています。カナフレックスの藤井宏政選手(28)は昨年途中から兼任コーチで今季は専任に、またパナソニックの阪口哲也選手(26)も今季途中からコーチになりました。いる場所や背番号が変わってもユニホーム姿が見られるのは嬉しいもの。他に大和高田クラブの佐々木恭介監督、三菱重工広島の町田公二郎監督も阪神OBですね。
その中で、ベスト4に残った新日鐵住金鹿島については後日まとめて書かせていただくとして、きょうは残念ながら敗退してしまった3チームと3選手の話をご紹介します。野原将志選手や穴田真規選手が社会人チームに入った2014年から見てきた日本選手権ですけど、ほぼ1回戦で終わってしまうことが多く…その時点で記事を出していました。しかし今回は玉置投手の結果待ちをしていたら、なんとここまで来てしまったわけで。とても嬉しい誤算です。
ちなみに新日鐵住金鹿島は都市対抗野球で4強に残ったことがあるものの、日本選手権は1回戦突破が初めて。住金鹿島時代を含めても8度目の出場で初勝利なんですよね。それで喜んでいたら、玉置投手が先発した2回戦は今大会最多の20安打14得点で圧勝!さらに準々決勝では2対1と、エース大貫投手の粘りで今度は守り勝ち!ここまで多彩な戦いぶりを見せてくれました。きょうの準決勝も期待しましょう。
では、若竹投手の所属する三菱重工神戸・高砂、藤井コーチのカナフレックス、そして2回戦で涙を飲んだ阪口コーチ(まだ言い慣れませんが…)のパナソニック、この3チームの戦いを振り返ります。
【三菱重工神戸・高砂】若竹竜士投手
大会3日目の11月3日、新日鐵住金鹿島が初勝利に沸いた直後の第2試合で東芝と対戦。三菱重工神戸・高砂は今夏、近畿第1代表として出場した『第89回都市対抗野球』でチーム48年ぶりとなる決勝進出を果たしながら、同じく近畿代表の大阪ガスに敗れて準優勝でした。
その都市対抗でも大車輪の活躍を見せ久慈賞(敢闘賞)を受賞した、9年目の絶対エース・守安投手が先発。しかし2本のホームランを浴びて7回途中で交代し、打線が反撃できず残念ながら初戦敗退となりました。守安投手と同い年の若竹投手も最後に登板し、ピンチをしのいでいます。
11月3日 1回戦
三菱重工神戸・高砂-東芝
三菱 000 200 000 = 2
東芝 001 000 31X = 5
◆バッテリー
【三菱】●守安(6回0/3)-高橋(1回)‐山田(1/3回)-若竹(2/3回) / 森山
【東芝】○岡野(9回) / 柴原
◆本塁打 東:石川、大河原
◆二塁打 三:那賀 東:石川、服部、柴原、大河原
《試合経過》※敬称略
守安は3回、2死から1番・石川に今大会1号となるソロホームランを打たれるも、直後の4回に三菱打線が逆転しました。1死から相手エラーで出た4番・藤原を、続く那賀がタイムリー二塁打で還して同点!セカンドゴロで2死三塁となり、7番・福田の打球はセカンドとセンター、ライトが譲り合う、その真ん中にポトリと落ちるタイムリー!これで勝ち越しです。
4回から6回までは2安打のみで0点に抑えていた守安が7回、先頭からヒットと二塁打を続けられて無死二、三塁とし、代打・大河原にレフトへの逆転3ランを浴びて降板。代わった高橋は二塁打や四球などでピンチを招きますが、追加点は与えていません。ところが8回、3人目の山田が1死から連続四球。大河原に今度は右越えのタイムリー二塁打。5点目を許しました。
ここで若竹が登板。なおも1死二、三塁の場面で、まず初球を打たせて遊ゴロ(三塁走者がホームでアウト)。2死三塁になって、最後はフルカウントから140キロの真っすぐで空振り三振!しかし打線は5回以降の4安打がすべて散発、得点なく試合終了です。
まだシーズンは続きます
試合後、若竹投手と少しだけ話せたのですが「東芝、強いですねえ。やっぱり」と溜め息。最後はよく抑えましたよ。「まあそうですね」。とはいえ「大会前のオープン戦などで調子があまりよくなかったから、監督も使いづらかったかも…」と苦笑い。悔しい初戦敗退となってしまったけど、京セラドームで投げるところを見られてよかったです。
社会人チームは、この日本選手権が終わるとシーズン終了ということになりますが、三菱重工神戸・高砂は13日から『第14回兵庫県知事杯争奪社会人・大学野球大会』(高砂球場)に出場するため、もう少し続くわけですね。すべてを打ち上げたあと、また若竹投手の話を聞けたら改めてご紹介します。
【カナフレックス】藤井宏政コーチ
カナフレックスは2013年12月に社会人野球チームの承認を受け、2014年から活動を開始。阪神タイガースを退団した藤井宏政選手は、その発足時からチームに在籍しています。昨年4月初めに右ヒジを痛めたこともあってシーズン途中からコーチ兼任になり、今季はコーチ専任、背番号も昨年までの10番から77番に変わりました。そのコーチ姿を実は9月29日に鳴尾浜で見られるはずが…阪神ファームとの練習試合は雨天中止だったんですよね。
でも、ことしは3年ぶりに『第44回社会人野球日本選手権大会』出場を決めたカナフレックス。9月の近畿最終予選は1回戦でミキハウスベースボールクラブに負けて敗者復活に回り、そこでニチダイを破って迎えた代表決定戦の相手が、またミキハウスでした。今度は0対0のまま延長に突入(13回からタイブレーク)して、14回にカナフレックスが1点を取りサヨナラ勝ち!ちなみにカナフレックスの宮城慎之介投手は完封、相手も完投しています。
チームの活動開始2年目で初出場を果たした2015年は、組合せ抽選会で開幕カードを引き当ててしまったんですよね。ただでさえ緊張の初出場なのに開幕戦とは…。おまけに相手が前年の都市対抗で優勝した西濃運輸ですから、クジを引いた梁川浩樹マネージャーは猛省でした。でも2度目のことしは無事(?)、大会5日目の第2試合。少し気持ちが楽だったでしょうね。
そして迎えた11月5日の初戦。相手は10月3日に阪神ファームが練習試合をして8対2で負けてしまった三菱重工名古屋です。
11月5日 1回戦
三菱重工名古屋-カナフレックス
三菱 040 000 100 = 5
カナ 300 000 000 = 3
◆バッテリー
【カナ】●宮城(6回2/3)-山田(2回1/3) / 福田
【三菱】服部(4回1/3)-○西納(4回2/3) / 安田
◆本塁打 三:山田晃
◆三塁打 カ:山崎
◆二塁打 三:秋利、三森 カ:武田
《試合経過》※敬称略
カナフレックスの先発・宮城は1回、先頭に四球を与えますが野手の好守備にも助けられて後続を断ちます。するとその裏に1死から2番の高畑が右前打、2死後に4番・北條が四球、続く北川のタイムリーでまず1点先制!なおも2死一、三塁で6番・山崎が右中間へタイムリー三塁打!2人を還して、計3点を先取しました。
しかし2回、宮城は2死を取ったあとに四球を与えて8番・三森のタイムリー二塁打。なおも死球で一、二塁となり、次の1番・山田晃に今大会1号となる逆転3ランを浴びました。そのあとは6回まで四球はあったものの1安打しか許さず、追加点を与えなかったのですが、7回に四球と二塁打で1点を奪われて降板。代わった山田が9回まで抑えています。
一方、カナフレックス打線は2回と5回に9番の武田がヒットを放って、最終的に三塁まで進むチャンスがあったものの無得点。5回は3者残塁でした。8回にも2本のヒットなど、毎回のように走者を出しながら決定打がなく、初回の3点のみで試合終了です。
コーチで阪神に戻れ!と監督
「練習試合でも先制することはなかなかないから、ホッとしたのかも。あの3ランが効きましたねえ。ベンチもちょっと沈みかけた」と振り返る河埜敬幸監督。そして「言い訳になってしまうから…」と多くを語られませんでしたが、都市対抗や日本選手権の本戦に出場するようなチームは年間で80~90試合くらいをこなします。しかしカナフレックスは自前のグラウンドを持っていないこともあり、その半分ほどしか実戦を積めないのが現状。今季は38試合だったそうです。
発足から5年を経て、トレーニングルームやブルペンができ、練習用のグラウンドも確保しているとはいえ、守備にしろ攻撃にしろ実戦で得るものはやはり多いでしょう。そんな中で2度目の出場を果たしたわけで、河埜監督も「来た以上は1勝しないと!」と、“その先”に向けて気合いを入れ直しました。
ところで藤井コーチはどうですか?「しっかりやってくれていますよ。私と(選手では)歳が離れすぎているから、藤井がいて助かっています。藤井にはコーチの勉強をして、タイガースに戻れるように頑張れと言っているんです。そういうこともあり得るかもしれないでしょう?今度はコーチとして、いつかタイガースに戻れたら。頑張ってほしいですね」。河埜監督から嬉しい言葉をいただきました。そうなったら最高です。
藤井コーチ「ボロが出ました…」
では藤井コーチの話を。コーチ業は?「もう慣れました」。去年の途中からやっていますもんね。後ろ姿に貫禄がありますよ(笑)。「そうですか?3、4キロ太りましたけど」。いやいや体型だけじゃなくて、雰囲気もです。
それにしても1回の3点、すごかったですね!勝てると思った。「思いましたねえ。ビックリした(笑)。でもボロが出ました。練習試合でも記録に残らないミスは結構あって、それがここで出たと思います」。それは守備や走塁で?「すべてですね」。来シーズンに向けての課題?「はい」。コメントがもうすっかりコーチでした。
4番の北條貴之選手も「いや~勝てるかと思いましたねえ!残念です。もしかすると…あの3点で、ちょっと油断してしまったのかなあ」と悔しそう。でも本当に、初回の攻撃は興奮しましたよ。「そうですね。きょう見に来てくれた人は多少なりとも感動してもらえたかも」と言ったあと「ただ、勝つチームと勝てないチームの差が出たと思います。それを後輩たちに伝えながらやっていきたい」と主将らしい言葉です。
宮城投手は入社4年目。「3年前は投げられなかったので…。でも今回は決定戦(前述)に投げて勝てたから本戦も先発したいな、とは思っていました。先発と言われて嬉しかったです!」。初回に3点先制してもらって「驚きました!逆に驚き」だったとか。もちろん、それで油断したわけでは?「ないです。でもホームランはスライダーで、ちょっと真ん中に…」
応援団長は野球部OB
本人に話は聞けませんでしたが、楽天を退団して今季新加入となった北川倫太郎選手について、北條主将は「プレーだけじゃなく、練習でもアイディアを出してくれるのがありがたい」と語っています。また試合後、大西健太投手にも会えました。故障明けで、まだ万全の状態でなかったため今回は登板なし。来年を楽しみにしていますよ!
最後に、前回よりも多くの方が見に来て下さったスタンドでは、龍谷大学の吹奏楽部25人、チア19人が力強い応援で盛り上げました。そして滋賀学園の野球部員や生徒の皆さんも、チームカラーのえんじ色のスティックバルーンを叩いて声援!ちなみに応援団長は、昨年までキャッチャーで野球部に在籍した檀上知基さんが、わざわざ名乗り出て務めてくれたそうです。その団長ぶりは写真でご覧ください。
【パナソニック】阪口哲也コーチ
2015年に入社した阪口選手は今、コーチ業に取り組んでいます。7月の都市対抗野球大会が終わって、練習再開のタイミングで打診されました。「言ってもらったことはありがたい。やってみようと思って」8月から走塁コーチに。今はまだ背番号“27”のユニホームですが、この日本選手権でも三塁コーチ姿をご覧になった方がいらっしゃるでしょう。兼任ではなく、今後もコーチのようです。
パナソニックの初戦は大会2日目、11月2日の第3試合で相手はNTT東日本。3回に先制して6回に追いつかれ、1対1のまま延長戦に突入します。そして無死一、二塁で始まるタイブレークとなった12回。相手を0点に抑えて迎えた攻撃でしたが、いきなり送りバント失敗で2死二塁に…。しかし9番・横田選手が中越え二塁打を放ってサヨナラ勝ち!2回戦に駒を進めました。この試合は見られなかったので結果のみ書いておきます。
11月2日 1回戦
NTT東日本-パナソニック
NTT 000 001 000 000 = 1
パナ 001 000 000 001x= 2
※延長12回からタイブレーク
◆バッテリー
【パナ】榎本(8回2/3)-○藤井聖(3回1/3) / 三上
【NTT】沼田(2回1/3)-末永(3回2/3)-●大竹(5回2/3) / 上田-高橋
◆二塁打 パ:坂田、法兼、横田
2回戦は5安打で1点のみ
次は7日、日本新薬との対戦。都市対抗や日本選手権などの予選で何度か見た“榎本”“榎田”の先発対決です。阪神から西武に移籍して大活躍の榎田大樹投手(32)の弟・宏樹投手(30)は、1日の王子戦でも先発。5回無失点でした。この時は兄・大樹投手も、王子OBの山本翔也投手と一緒に京セラドームで観戦したみたいですね。
11月7日 2回戦
日本新薬-パナソニック
新薬 100 100 020 = 4
パナ 000 000 010 = 1
◆バッテリー
【パナ】●榎本(4回)-城間(2回)‐與座(1/3回)-小屋(2/3回)-庄司(1回)-藤井聖(1回) / 三上
【新薬】○榎田(7回)-小松(1回)-岩本(1回) / 千葉
◆三塁打 新:千葉
◆二塁打 新:千葉
《試合経過》※敬称略
まず投手陣。榎本は1回、四球と犠打などで2死三塁とし、日本新薬の4番・中にタイムリー内野安打を許しました。4回には連続三振で2死を取りながら、四球と8番・千葉の二塁打。続く9番・吉野に左前タイムリー。8回は5人目の庄司が、ヒットと味方エラーなどで2死二、三塁として千葉に右前打されます。ライトが飛び込んだものの後逸…2人を還しました。
一方のパナソニック打線は、1回に先頭の藤井健が中前打、2死後に4番・片山も右前打しますが得点なし。2回から3イニング連続で三者凡退。5回は2四死球があったものの併殺などで0点。6回は藤井健の内野安打のみ、7回は1四球のみ。榎田の前に散発3安打で9三振です。
ようやく8回、日本新薬2人目の小松から代打・柳田が中前打、直前の守備で負傷した横田に代わって出場の9番・諸永は左前打!初の連打と藤井の一ゴロで1死二、三塁になって、代打・田中の投ゴロで1点を返しました。9回は連続四球を選ぶも、3三振を喫して反撃できず試合終了。
初々しいコーチ姿
阪口コーチという響きは慣れないですねえ。思わず「哲ちゃん」と言ってしまったけど、探してくれた若い選手も「哲さ~ん!」と呼んでいたので、許してください。夏に話を聞いた時は「自分よりも年上の選手がいっぱいいる中でコーチって大変だろうなあ」と思いました。三塁から指示を出している新米コーチの背中は、ベンチや守備位置で大きな声を出していた哲ちゃんのまま一生懸命です。
都市対抗までと、コーチで出た今大会は気持ちが違ったか聞いてみたら「気持ちはあまり変わらないですけど、勝った時とかはメチャクチャ嬉しいです!」という返事。1回戦なんかもう大はしゃぎだったでしょうね。コーチをするにあたり「勉強しました。他のチームのコーチを見たり、映像を見たり」と言います。慣れた?「慣れないですね、なかなか。藤井さん(カナフレックス)はすごいですね。どっしりしていて」。まあ彼はもともと落ち着いたタイプだから。
お尻のポケットを見ると、ああコーチだなと思いますね。右のポケットは、プロ野球のコーチと同じような四角い形に膨らんでいました。もしかして手帳?「そうです。メモです。気づいたことを書いたりしていますよ」。おお~!コーチっぽい。左のポケットから覗いていた黒い紐は?「ストップウォッチです。キャッチャーの送球タイムやピッチャーのクイックの速さを計るので」。これまたコーチっぽく、試合中も取り出して計っていました。“ぽい”って失礼ですね。
コーチになって気づいたことも
三塁コーチをするだけじゃなくて、他にも仕事はありますよね?「基本的には走塁コーチなので走塁のことと、あとはランニングを決めたりしています!」。へえ~。ノックもしますか?「シートノックは打ったことないですけど、バッティング中に横でノックを打つとかはあります」。へえ~。それを鳴尾浜で見たかったなあ。9月の練習試合が流れて本当に残念。筒井壮コーチが見たら感激してくれたかもしれないのに。
最後に聞いたのは、試合に出たいなという気持ちはまだありますか?もうないですか?ということです。答えは
「試合に出たいというか…もっと考えて試合や練習をしていたら、また違ったんかなと思います」
誰よりも一生懸命、がむしゃらに練習を積んでいた“泥んこ哲ちゃん”の阪神時代を思い出して、ちょっと胸にきました。
<掲載写真は各チームからの提供です>