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ハリウッドのセクハラ騒動:マット・デイモンの発言に批判殺到。「男は何も言わないべき」なのか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:Shutterstock/アフロ)

 4人の娘を持つ愛妻家のマット・デイモンが、突然にして女性たちを敵に回した。ここ2ヶ月、ハリウッドを騒がせてきたスキャンダルについての発言が、あまりに無神経と取られたせいだ。

 最新作「ダウンサイズ」の北米公開を22日に控えるデイモンは、今週、ABCのニュース番組に出演。インタビュアーのピーター・トラヴァースから、「今、多くの人々がセクハラ問題で槍玉に挙げられていることを思いますか?」と聞かれると、彼はまず「女性たちが、勇気を持って自分の体験を語れるようになったのはすばらしいことだ。それは必要なこと」と答えた。問題は、その直後。「だけど、それらの行動には、幅があるよね。お尻を触るのと、子供に性的虐待を与えるのとは、違う」と言ったのである。

 次に彼は、女性のお尻を触ったなど過去のセクハラが暴露されて上院議員を退いた民主党のアル・フランケンについて、「倫理委員会で、まず審議にかけるべきだった。今は、みんながあまりに激怒している状況。ちょっと立ち止まって、誰も完璧ではないんだということを考えるべき」と語った。やはりセクハラのせいで事実上ハリウッドから追放されたコメディアンのルイス・C・Kについても、「彼がやったことを詳しくは知らないが、彼の声明は読んだ。そしてちょっと感動した。彼は『僕はこれをやりました。この女性たちは、みんな真実を語っています』と言っている。この人は問題にちゃんと向き合えると思ったよ」と同情を見せている。

 その後には再び、「レイプや子供への性的虐待は、絶対に刑務所行き」、それ以外は「もちろんやってはいけないことに違いはないが、情けなく恥ずかしい行動にすぎない」と、罪の重さの違いを強調、「ルイス・C・Kは、もう十分制裁を受けた。彼は二度とああいうことはやらないはずだ」とも述べた。知り合いが問題行動を起こしていると知った時、あなたは何か言いますかと聞かれた時も、デイモンは、「友達だったら常に正直に話すけれど、仕事仲間程度だったら、その行動がどういうものかにもよる」と、ここでもまた、問題行動のレベルの違いを出してきている。

今は怒りが爆発し、戦いモード。でも、ここからどこに行くのか

 これらの発言を受けて、ツイッターには「幅があるって?自分の友達のための言い訳をしたいの?それとも自分のために?」「マット・デイモンは自分のキャリアを潰したね」「彼への敬意がすっかり失せた」というような批判コメントが多数投稿された。「#MeToo」運動を始めたアリッサ・ミラノは、デイモンが「今、みんなが激怒した状態にある」「罪の重さの違いを考慮すべき」と言ったことに対し、「写真を撮っている時に誰かにお尻を触られたから激怒しているんじゃないのよ。それが当たり前だと言われてきたから激怒しているの。それについて何も言うなと言われてきたから」「ガンにはいろんな段階がある。治療できる段階も。でもガンであることに変わりはない」など、複数のツイートをしている。

 一方で、「マット・デイモンは、正しいことを言っている。おそらく多くの人が思っていることだ」「彼の言うとおり、アル・フランケンとハーベイ・ワインスタインは違うということを認められない人は、現実を見ていない」「興味深い発言。彼は頭が良い」といった、彼を支持する意見もある。

 実際、デイモンは、フランケンやC・Kなど、認めた人がキャリアを失い、認めないトランプが今も大統領であることの不条理を訴え、「今の状況は、若い男たちに罪を認めるなという間違ったメッセージを送っている」と、興味深い指摘もしている。リドリー・スコットが「All the Money in the World」で、ケビン・スペイシーが演じた役をぎりぎりになってクリストファー・プラマーで撮り直したのも、スペイシーへの制裁ではなく、「そのほうが興行成績のためになるという、あくまでビジネス上の判断」だとも語った。だが、それらの部分について何も言われていないのは、 一部だけがソーシャルメディアで取り上げられ、それに人々が反応したせいではないかと思われる。

 セクハラで訴えられた人々の肩を持つのは、たしかに賢くない。だが、男性がこのことについて恐れて何も言わない今、堂々と本音を言ったデイモンはすごいと、筆者は思う。それができたのも、デイモン自身に、基本的にやましいところがないからだろう。もちろん、彼がプロデュースした「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に、セクハラでふたりの女性から訴えられた実績がある幼なじみのケイシー・アフレックを主演に据えたり、ケイシーの兄ベンのセクハラ癖を長年容認してきたりなど、彼にも間接的に責められる要素はある。さらに、2004年、一度「New York Times」がワインスタインのセクハラ問題について取材を始めた時、デイモンが編集部に電話をして企画をつぶしたとの説もある(デイモンは断固として否定している)。

 ソーシャルメディアに出ているコメントの中に、「男はこのことについて何も言わないべきなんだ。何を言ったにしても女性から叩かれるんだから」というものがあった。それは、正しいかもしれない。これまで、女性たちは声を聞いてもらえなかった。男たちから、黙っていることを強要されてきた。今度は、男たちが聞く番だ。だが、正当な意見ですら言えなくなるのは、どこか違う気がする。悪いことをした人の言い訳はもちろん聞きたくないが、前向きな話し合いは、なされても良いのではないか。

 このインタビューで、デイモンは、セクハラ騒動で仕事を失った男性はこの業界のごくひと握りで、「映画業界には良い男性もたくさんいる。今、除去されているのは、悪い人たち」とも語っている。それらの良い男性たちが、職場環境や社会を良くしていくために語り合うのであれば、それは奨励すべきだ。「状況を見つめ、話し合って、みんなで一緒に向上し、次へと進まないと。今は、怒りが爆発し、戦いモードにある。それは当然なんだが、じゃあここからどこへ行くのか、という時が、いつかは来る」とも、デイモンは語る。その過程はきっとスムーズではなく、叩かれたり、傷ついたりする人も出るかもしれない。デイモンはきっと、その最初のひとりだったのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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