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アダルトチルドレンでも「いい彼氏」をつくれる←世界的哲学者がすでに示唆していた

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

アダルトチルドレンとは、子どもの頃に親から受けたトラウマによって、大人になった今でも生きづらさを感じている人のことだといわれています。

そのような人が彼氏をつくろうと思えば、そもそも「自分」にこだわりすぎるあまり、恋人候補と巡り会えなかったり、恋人ができたところで恋人に依存的になったりなど、さまざまな障壁があるといわれています。

では、アダルトチルドレンがいい彼氏をつくるにはどのようにすればいいのでしょうか。「親ガチャ」問題にもだえ苦しんだ哲学者であるキルケゴールの生きざまや思想と、それに続く精神分析の権威であるジャック・ラカンなどの思想、すなわち心理学が言及していないことを参考にしつつ、一緒に見ていきましょう。

トラウマとは覚えていない何かのこと

そもそもアダルトチルドレンという言葉は、自分軸とか自己肯定感と同じマーケティング用語です。その特徴は、世間の人々がなんとなく思っていることを言葉に置き換えているだけの実態のない「雰囲気言葉」だということです。

また、トラウマとはじつは、自分が忘れてしまっている過去のなんらかの出来事が誘発する心の傷というのが本当の意味です。たとえば、「お母さんに叱られながら育ったことがトラウマです」という用法はまちがっているということ。覚えている経験ではなく、覚えていないなんらかの経験こそがトラウマなのです。

さて、先に挙げた哲学者たちの生きざまや思想を私なりに解釈すれば、アダルトチルドレンというのは、「私は本当はこうしたい、こう生きたい」という気持ちを子どもの頃から親に否定し続けられたと思っている人(しかし、それが具体的にどの経験に依拠するのか覚えていない人)というほどの定義になるでしょう。

「そのままのあなたでいいんだよ」

そのようにアダルトチルドレンを定義した場合、アダルトチルドレンがいい彼氏をつくる方法はおのずと見えてきます。「私は本当はこうしたい、こう生きたい」という気持ちを受け止めてくれる人に出会いさえすればいい、と言えますよね? それが恋人候補の誰かであれ、会社の同僚であれ友だちであれ、スナックで偶然出会ったおじちゃんであれ、誰でもいいのです。「そのままのあなたでいいんだよ」と言ってくれる人に出会いさえすれば、多くの場合、私たちの魂は救われます。

しかし、そういう人にすぐには出会えないでしょうから、ほかの方法を以下に一緒に模索しましょう。

ありのままの世界

キルケゴールは今から170年ほど前の人ですが、キルケゴール亡き後、フロイトがこの世に生を受けたり、精神分析の権威であるジャック・ラカンがさまざまな概念を発表したり、メルロー=ポンティが現象学に関する論文を書いたりするなど、キルケゴールの思想がさまざまに解釈されるようになります。

たとえば、フランス現代思想におけるビッグネームであるメルロー=ポンティの考え方を取り上げるなら、彼は「親が毒親だから子がアダルトチルドレンになった」という言い方は果たして正確なのでしょうか? と問うかもしれません。

というのも、彼は「ありのままの世界」を記述するにあたって、私たちが信じ込んでいる因果関係は本当に成立するのか? と考えたからです。多くの人は毒親を原因と考え、今の自分の生きづらさを結果と捉えています。しかし、その両者は「だから」という接続詞で本当に結びつくの?

神様のせい

と書いてもピンとこない人もおられるでしょうから、1つの見方を以下に提示しましょう。

たとえば、ジャック・ラカンの言説を拡大解釈するなら、私たちの性格はおじいちゃん、おばあちゃんのそれを引き継いでいると言えます。

とするなら、毒親はあなたから見た曾祖父母の性格を引き継いでおり、あなたは祖父母の性格を引き継いでいることになります。つまり、親子は似た者どうしではないということになります。あなたと親が違うように、祖父母と曾祖父母も違いますから。

違う者どうしが組み合わさってうまくいく家庭もあればそうではない家庭もあります。その違いをおそらく心理学は完全に説明できないでしょう。

もしそうであるなら、ようするに、運でしかないと言えます。つまり、神様がなぜか、あなたが生きづらくなるように親子のマッチングをした、と、こうなります。つまり、あなたが生きづらさを抱えているのは神様のせいだ、と――。

あなたの知らない世界

親のことを憎んでいるうちは「親が良くないから今の私は不幸なのだ」という見方しかできません。それがいいとか悪いとかといった話ではありません。神様は私たちの脳をどういうわけか、その程度にしか創っていないということです。

しかし、キルケゴールの生きざまや思想、ジャック・ラカン、メルロー=ポンティの思想などをもとに「可能性」を探れば、おのずと、アダルトチルドレンはどのようにすればいい彼氏に巡り会えるのか? という問いの答えが見えてきたしょう。

すなわち、「あんな親だからこんな私になった」という考え方の外側に立てばいいのです。

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哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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