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パナソニック3連覇。堀江翔太キャプテンはシーズン中盤に「反省」していた件。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
優勝の瞬間、スタッフと喜びを分かち合う堀江。(写真:アフロスポーツ)

用意された座席に座り切れない記者が地べたに座り込んで話を聞く公式会見上で、30歳になったばかりの堀江翔太は「不安ななかで臨んだんですけど…」と心の揺れを振り返った。

2016年1月24日、パナソニックのキャプテンとして、日本最高峰ラグビートップリーグの3連覇を決めた。

決勝戦の相手だった東芝は、堀江がプレーするフォワードのポジションに頑健で実直な大男を揃え、試合直前には親会社の不適切会計による苦境をモチベーションにしていると公に向けて発信。当日も、ノーサイド直前に1点差と迫るトライを挙げ、直後のコンバージョン次第で逆転優勝を決めるところだった。

最後の最後の場面、堀江は地面に足を滑らせ、東芝の豊島翔平の歓喜を目の前で見た。「あ、これやってもうたわ」が本心だった。大阪府吹田市出身、3日前に30歳となったばかりのチームリーダーは、「不安」とそれを解消できた理由を語り切った。

「チームがひとつになったのは、ワールドカップに出たメンバーではなく、グラウンドに立った以外のメンバーが働きかけてくれていたから。僕が言わずとも、西原選手、林選手、北川選手が、チームに何が必要かを話してくれて。僕がパナソニックのラグビーの付いていくのに必死な状態を、皆に助けてもらいました。東芝戦。不安ななかで臨んだんですけど、僕は何もやらなくても周りが動いてくれた」

今季の大半は日本代表に帯同していた。ワールドカップイングランド大会とその準備のためである。

ナショナルチームでは副キャプテンとして、持ち前の鷹揚さと繊細さでチーム内の人間関係を保ってきた。塹壕のなか、例えば同じパナソニック所属の代表選手が集合体にどよめきをもたらしたとする。同じ釜の飯を食ってきたはずのメンバーが驚き、戸惑うなか、堀江は「あぁ。パナではよくあることやから」の一言で皆を安心させてしまう。

最近の口癖を、「どうしたらもっと上手くなれるか、どうしたらもっと良くなれるのかを考えるのが大事」とする。その時に加わっているチームの戦術略や大切なスキルを飲み込んだうえで、そいつをさらにブラッシュアップさせた。予選プールで史上初の3勝を挙げたジャパンにあって、堀江は守備システムの仕様変更を実現させていた。

2013年から2シーズン、南半球最高峰であるスーパーラグビーのレベルズに在籍した。下位争いを免れぬクラブで、最初は控えに回された。リザーブ組にミスが起きる。「集中しろ!」と怒られる。「集中していないからミスをしたわけではない」と確信できた。同時期に在籍したパナソニックでは、「自分たちだけがわかる、目立たないプレーをした若手」を褒めるようにした。「ミスは、それが組織のミスなのか、個人のミスなのか、見極めたい」とも言い続ける。

強い相手に勝つスキル。強くなりたい人の心を掴むスキル。このふたつを有する人が勝つチームのリーダーになるのは、ある意味、自然だった。

とはいえ頂点に立つ直前、ある種の行き止まりのようなものに出くわしている。

あれは昨冬だったか。「西原選手」こと正直者の西原忠佑は、「時間、ありますか」と告げる。リーダーとしてのふるまいに関し、意見を言うためだった。

西原から見て、ワールドカップから帰国後の堀江の姿は昨季までとは違うように映った。後の述懐によれば…。

「言い方は失礼なのですが…。スーパーラグビーから帰ってきた時と違って、試合に出ていないメンバーのことをきちんと見られていないように感じた」

代表のフォーマットのもとラグビーをしてきた堀江がパナソニックのそれになじみ切れているかにも、やや懐疑的だった。かような堀江をサポートしていたのは春からチームに残っていた「北川選手」こと北川智規副キャプテン、「林選手」こと同級生の林泰基だった。ただ、この2人のコミュニケーション方法をいい意味で平和的と西原は見ていた。代表選手以外で堀江に耳の痛いことを言えるのは、自分だけだと感じていた。

「正直、今季のチームはめちゃめちゃ強いと思っているんです。獲りに行けるチャンピオンカップは獲りに行きたい、と。それでモヤモヤしたまま、もし、負けることがあったら、後悔すると思ったんです」

その折はトップリーグのリーグ戦における第6節で、それまで1勝4敗だったクボタに30-27と辛勝していた頃だった。「モヤモヤがあった。そうしたら案の定上手くいかなくなって」。堀江の自宅へ向かい、忌憚ない意見交換をおこなった。

堀江としては、少し離れていたパナソニックのラグビーを1秒でも早く理解し、その問題点があればすぐに解決したいとやっきになっていた。その責任感が災いしてか、ゲームに出ていないメンバーなどの「周り」を見る余裕がなくなっていたのかもしれない。本人は後に「チームのことをわかる前に、代表と同じアプローチで(声かけなどを)やってしまった。反省する部分はある」と振り返っている。

西原はこの時、自らも堀江の視野の届かぬ場所をサポートする意志を伝えた。「翔太には翔太の意見があることがわかった」と、玄関を出たのだった。

1月、プレーオフトーナメントをひとつ、ふたつと勝ち上がるなか、堀江はこんな思いに駆られていたという。

「コミュニケーション能力が上がっていました。僕が何もしなくても、どんどん意見が出てきていました。あ、『これ』を言うの忘れてたな、と気付いたら、他の選手が『これ』を話していた。最後は、他の皆がほぼリードしてやっていた。でも、リードした選手が『最後はキャプテンが中心』という風にしてくれていて、最後、僕がぽろっと何かを伝えて…」

堀江も堀江で、自分が直接加わらない実戦練習では仲間の動きをつぶさに観察。ランナーへのサポート役の体勢や意識など、「自分たちだけがわかる、目立たない」よさを見つけては、前向きな声をあげていた。「何もしていない」ように見せるという、重要な「何か」を貫いてきた。

31日は、母校の帝京大学と日本選手権をおこなう。7季連続の大学日本一という無敵艦隊の長、岩出雅之監督は、在学中にキャプテンを任せた堀江について「うちのいまの上下関係の原型を作った気がする。ああいう、上にも下にも平等な感じ」と考察している。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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