ソフトバンクはなぜ、最速154キロのルーキー右腕田上を“戦略的戦力外”にしたのか
福岡ソフトバンクホークスは25日、今季が1年目だった田上奏大投手(18歳)と支配下契約を結ばないことを発表した。
田上は20年ドラフト5位で履正社高校(大阪)から入団。球団は育成での再契約を打診する方針であることも明らかにしている。
投手歴1年半で154キロ
異色の経歴の持ち主だ。高3の6月に外野手から投手に転向。それから間もなく練習試合で151キロの直球を計測し、将来性を見込まれてドラフト指名された。
今季は一軍登板なし。公式戦も二軍で1試合、1イニングのみに投げただけだったが、体力づくりに励む中でも三軍戦を中心とした非公式戦では21試合に登板して1勝2敗、防御率3.12の成績を残した。そして日頃の練習の成果もあり、最速は高校時代から3キロ速くなり、154キロまでアップした。
そして、この11月は宮崎秋季キャンプに10代投手では唯一参加するなど大いに期待をかけられていた。
では、なぜ今回の措置となったのか。
支配下枠を空ける狙い
まずは球団視点だ。
前述したように将来的な戦力としては高く評価している一方で、投手歴まだ1年半で粗削りな部分が多く、来季開幕時点という短期的な戦略でとらえた場合には一軍戦力相当に至らないと判断したとのことだ。
また、支配下枠の問題も絡んでいる。ソフトバンクは今季、上限いっぱいの70名で戦っていた。そのうち長谷川勇也と高谷裕亮の2名が引退。そして外国人選手を除く退団発表者が4名(川島慶三、釜元豪、川原弘之、渡邉雄大)となっている。
一方で先頃のドラフト会議では支配下5名を指名した。仮に、来季も今季と同数の外国人選手を保有した場合は69名となる。
ソフトバンクは来季からの三軍拡充を発表しており、ドラフトでは育成選手14名を指名したほかに、若手外国人選手4名との育成契約も発表している。来季の育成選手保有数は大幅増となり40名に迫る勢いだ。
そうなれば、育成選手のモチベーション維持や向上のために支配下枠には余裕を持たせておく必要がある。また、他球団からの補強の可能性も常に想定しておく必要があり、いずれにせよ「65」前後でスタートするのが理想的だと考えられる。
残留か、移籍か
一方の、田上投手。球団フロントが通達し事情を説明した際には、「力は認めてもらっている」と納得して、ソフトバンクの育成システムも含めて前向きにとらえていたと球団から説明はあった。しかし、悔しい気持ちがないはずはない。
現時点でソフトバンクからの育成オファーはあるものの、まずは自由契約選手として公示されることになる。自由契約選手は「12球団合同トライアウト」(12月8日開催予定)終了をもって契約できる取り決めがあるために、それ以前にソフトバンクと再契約をすることは出来ない。
また、自由契約選手となるため、もちろん他球団から好条件でオファーがあれば移籍することも可能だ。
明日11月26日に19歳を迎える右腕。ソフトバンク球団が判断したように経験値が浅く即戦力の期待は薄いが、仮に今年のドラフト市場にいれば上位候補となっても不思議でない好素材でもある。他球団が触手を伸ばす可能性もゼロではない。
154キロ右腕の決断、今後の動向が注目されるところだ。